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学園に来て、もう三日目だった。窓から朝日が差し込んでいる。
甘い夢を見たと言いたいところだが、一晩中目は閉じなかった。
理由は明白だ。昨日、麗奈にされたあのキスのせいだ。
昨日の一日中、そして一晩中、考えていた。あれが何を意味するのか、どうやってこの状況を立て直せるのかを。
最低限の関わりで、目立たずに、ビジュアルノベルの『親友キャラ』のように生きようと思っていた。二十時間に一回くらいしか登場せず、それも新しいルートに入るために最初から始めなければならない時だけ存在を思い出すような、そんな立ち位置だ。
だが、部屋を出て朝食に向かうと、ありとあらゆる視線が自分に集中していた。
——「あれが藤原に勝った子だよ」
——「二人って、もしかして婚約してたりするの?」
——「さあ……ああいう子、聞いたことないし」
移動中ずっと、麗奈との関係について噂されていた。
関係なんて何もないと言いたかった。だが、何と言えばいいんだ?
俺が知っているのは彼女たちと同じで、何もかもが分からないということだけだ。あんなキス、ゲームの麗奈なら絶対にしない。彼女のルートのエンディングでやっとできるかどうかだ。
学食は学園の他の建物と同じくらい広かった。
食事を取って席に着く。
食事の質は間違いなく最高級だった。だが、一口すら食べる間もなく、誰かが目の前に座った。
麗奈だった。
——「ひどい顔してるわね」
麗奈がドライな声で言った。
『誰のせいだと思ってるんだ』と言いたかった。だが、今は彼女がどう反応するか分からなかった。怒るかもしれないし、『一晩中俺のことを考えていた』と受け取られるかもしれない。
何も答えず、食事を一気に食べた。ほとんど噎せそうになりながら。
立ち上がってその場を去った。
授業が始まる前に準備を整えなければならなかった。
麗奈との戦いの後、俺はわざと負けた。だが、それで大して状況は変わらなかった。むしろSクラスに行くほうがまだマシだったかもしれない。
教室の入り口の前に立つ。
扉には『1年A組』と書かれている。
開けると……
ほぼ40組の目が一斉に俺を向いた。
明らかに、俺自身を見ているのではなく『初日に麗奈にキスされた女』として見ているのが分かった。
だが、どうしようもない。
教室の広さは普通だった。
席はクラス分けの時点で決まっている。
俺は前衛科のAクラスの生徒になった。後衛科——つまり魔術師——のクラスも別にある。
ほとんどの授業はこの二つのクラスで共通だった。
真ん中の列の後ろ、右側の窓から遠い席に座った。主人公オーラを完全に避けるには完璧な席だ。そう思っていた。
だが、運悪く……
麗奈が隣の席に座っていた。
元々は別の生徒が座っていた席だ。だが、俺の少し後に来た麗奈が、その生徒を無理やり席を変えさせたのだ。
彼女の性格は完全に変わっていた。ゲームの中の麗奈なら、絶対にそんなことはしなかった。
——「お隣さんってわけか」
無理やり笑顔を作って言った。
——「私に勝った後、わざと負けた理由を言いなさい」
どうして気づいたんだ? そこそこ上手くやったつもりだったんだが。
——「うーん……足がもつれて」
——「そんな理由で私が納得すると思ってるの?」
もちろん、そんなわけがない。
——「Sクラスに行きたくなかったんだ」
嘘ではない。だが、AクラスもBクラスも望んでいなかった。Cクラスがあれば、遠くからイベントを観察するには十分だった。
——「チッ」
彼女は明らかに機嫌を損ねた。
——「私のことを覚えていないと言いながら、勝った直後にわざと負ける? もし私に勝たなくても、Aクラスは確実だったんだからね」
何か言おうとしたが、その時、突然扉が開いた。
丸い眼鏡をかけ、乱れた水色の髪をした女が、白衣を着て教室に入ってきた。
——「おはようございます、生徒の皆さん」
疲れたような声で言った。
——「私が皆さんの……ふぁあ……すみません、よく眠れなくて。この授業は錬金術です」
ああ、錬金術の授業の思い出だ。
——「私は志津子先生です。実践に入りたいところですが、学園の方針で先に基礎を教えることになっています」
嫌でも、この授業に集中しなければならなかった。ゲームの知識を現実に翻訳することを学ぶ必要があったのだ。
最高の武器、アクセサリー、防具のほとんどは錬金術から作られる。ただし、希少な素材が必要だが。
必要な時以外はそんなものを作るつもりはなかった。なぜなら、多くの素材は一つきりだったり非常に希少で、もし俺がそれを使えば、主人公が弱体化することになるからだ。
そんな感じで一日が過ぎた。一時間目が錬金術、二時間目が歴史、三時間目が魔術理論。
精神的に疲れ果てていた。
これほど集中したのは初めてだった。
中等科は楽勝だった。魔力の存在による違いを除けば、ほとんど普通の中学の授業と同じで、ちょっと新しい歴史が増えたくらいだ。
だが今は、知っているはずの概念を深く掘り下げている。ゲームでは簡略化されていたものだ。
数学の公式、魔法陣、未知の生物学。
まるでまた高校に戻った気分だ。
疲れすぎて、今まさにベンチで眠りかけている。
幸い、もう授業は終わった。
目を閉じた。ここで寝ても構わなかった。疲れすぎていた。
——「あなたが黒金零?」
突然の声で目が覚めた。
短い群青色の髪。学園のブレザーをだらしなく脱ぎ、白いシャツと短い黒いソックスが見えている。
まさに主人公が俺に話しかけてきた。
——「座ってもいい?」
『ダメだ、もう帰らなきゃ』と言いたかった。だが、体は微動だにしなかったし、主人公との関係を壊したくなくて失礼な態度も取れなかった。
うなずくと、彼女は隣に座った。
——「疲れてそうだね。初日はやっぱりきついよね」
——「ああ、頭が茹だりそうだ」
彼女を横目で見る。彼女は笑っていた。
——「藤原との戦い、すごかったよ」
一瞬、彼女の笑顔は悲しげに見えた。
——「私は、藤原に勝てなかったから」
ユキが麗奈を苗字で呼ぶのは奇妙だ。ゲームでは絶対にそうしない。だが、彼女たちは距離を置いている今、ただの他人に過ぎない。
——「やっぱり家柄も関係するのかな」
ユキが言った。
これだ。これがゲームの主要テーマの一つだ。ユキが普通の家庭の出身でありながら、天性の才能で成り上がるというストーリーだ。
——「ごめん、変なこと言って」
麗奈に勝つことは、その証明の第一歩だった。
その時、ユキが学園を去るバッドエンドを思い出した。特に、重要な家柄の娘たちとのルートではよくあった。
——「ユキ……」
彼女が振り返った。
あのエンディングのリスクを冒すわけにはいかない。麗奈に勝てなかったこと、そして繋がれなかったことで、彼女の自信は大きく傷ついているはずだ。
——「そんなことないよ」
彼女の自信を少しでも上げる必要がある。学園を去らない程度に。
——「すぐにSクラスに行けるって、僕は信じてる」
彼女は驚いた。
——「Sクラス!? 正気? Aクラスの人にも勝てなかったんだよ? Sクラスなんて夢のまた夢だよ」
次のクラス昇格試験まであと一ヶ月。毎月実施される試験だ。
——「必要なら、トレーニングに付き合うよ」
彼女は驚いたようだった。
——「まだほとんど知り合いでもないのに、迷惑かけられないよ」
——「そんなことない。俺も一緒にトレーニングできる相手が欲しかったんだ」
彼女はしばらく考え込んだ。
実は、一人でトレーニングするほうが好きだ。相手の攻撃が逸れて腕を折られるリスクを負いたくない。
——「分かった」
彼女が立ち上がった。
——「連絡先を交換しよう」
彼女はポケットからスマホを取り出した。
——「見た目より話しやすいんだね」
その最後の一言に、俺は眉をひそめた。
——「昨日見た時は、もっと真面目で冷たい性格かと思ってた。でも、見た目は当てにならないね」
彼女は手を振りながら去っていった。
スマホを見る。
母や護衛を除けば、彼女が初めて連絡先に追加した人物だった。
ため息をつく。
それでも、落ち着かなかった。
多くのことが変わった。そして今、主人公と直接関わってしまった。
自分が攻略対象になってしまっていないことを願うだけだ。
自分自身のルートがあったらどうなるか、考えて少し笑った。




