7
――負けた。
私は、負けた。
あの宣告が聞こえた瞬間、その場に膝をついた。
――「勝者……黒金零」
教官ですら、信じられないといった様子だった。
彼女の最初の戦いを見た時から分かっていた。彼女は本気で戦っていなかった。確かに、その動きは全てが無駄なく精密だった。しかし、彼女のこれまでの戦いと、五年前にあの洞窟で見たものは、比べ物にならなかった。
あの日、私は彼女と出会った。
あの街に行ったのは、私の母たちが新しく出現したダンジョンを調査し、等級を分類するためだった。それは我が家が代々行ってきた仕事だ。
当時の私は、誰にも本気で相手にされないことが何よりも嫌だった。大抵の教官には勝てていた。それなのに、彼女たちにとって私はまだ『弱い子供』に過ぎなかった。
我慢の限界だった。私はレイピアを手に取り、そのダンジョンに一人で向かった。
目的は、このダンジョンを一人で踏破することだった。
最初の敵は簡単だった。
Fランクの脅威――スライムだ。
実物を見るのは初めてだったが、とにかく気持ち悪かった。一突きで倒せる。そして結晶を落とすと、それを拾った。証拠が必要だったから。
数分間、ひたすら進みながらスライムを倒し続けた。そうしてようやく下り階段を見つけた。第二層へ続く階段だ。これでコアに近づける。
このまま行けると、私は確信していた。だが、その幻想はすぐに打ち砕かれた。
黒い狼――Eランクのモンスターと遭遇したのだ。
あの時はまだ余裕だった。まさか、ランクが一つ違うだけでこれほどの差があるとは知らなかった。
岩壁の陰に身を潜める。狼が油断した瞬間、私は隠れ場所から飛び出し、背後から襲いかかった。
――足音か、それとも結晶のぶつかる音か。狼は即座に振り返った。
そして、まるで何でもないかのように、攻撃をかわした。
だが私は止まらなかった。二度目の攻撃を放つ。それもかわされた。今度は武器を引っ込めることができなかった。狼は刃を顎で掴み、紙でも千切るように、ただその力だけで私のレイピアを真っ二つにした。
その瞬間、頭の中に何度も何度も言われた言葉が蘇った。
――『まだお前は準備ができていない』
恐怖で凍りついた。
狼は待たずに爪を振り下ろそうとした。
私は即座に火球を放った。当時使える唯一の基礎魔法だ。それが直撃し、煙が立ち込めて、狼の意識を少しだけ逸らすことができた。
走った。全力で走った。
だが、それだけでは足りなかった。狼はあっという間に追いついた。振り切ろうとしたが、行き止まりに追い詰められただけだった。
狼が追いついた。背中から襲いかかる攻撃を辛うじてかわすと、結晶を入れたバッグが破壊された。私は叫んだ。
あんな風に叫んだのは初めてだった。恐怖と絶望の悲鳴だった。
壁に背を預け、涙が止まらなかった。
狼はゆっくりと近づいてくる。まるで私の弱さを嘲笑うように――
だが、その牙が私を貫く前に、何かが狼の頭部に激突した。強烈な衝撃で狼はよろめく。
遠くから声が聞こえた。
同い年くらいの少女が立っていた。その立ち姿は優雅で、服装も然り。
彼女は私に『走れ』と叫んだ。迷わず、私は走った。
彼女も逃げるものと思っていた。だが、彼女は逆に狼に向かっていった。
背後で金属音が響いた。
十分に距離を取ったところで、私は振り返った。
同い年のあの少女が、狼と戦っていた。その攻撃も動きも、全てが正確だった。無駄なステップは一つもなく、全ての攻撃に意味があった。
狼の攻撃は全てかわされていた。だが、一瞬だけ彼女は一歩を誤った。その時、彼女は狼にやられかけた。
その瞬間、私は叫んだ。
――「動け!」
少女がその小さな身体ではありえない跳躍を見せた時、私はありったけの魔素を込めて、狼に向かって火球を放った。
狼はまだ傷ついていた。そして少女は疲れ切っていた。
だが、彼女は逃げなかった。その場に立ち、狼を待った。
――たった一撃で、あの少女は黒い狼を仕留めた。
少女がその場に膝をついた。その時は分からなかった。彼女は傷ついていたわけではなく、ただ疲れていただけだった。
彼女を助けに行こうとした。
だが、背後から足音がした。
振り返ると、すぐにその人物だと分かった。我が家と親交のある方だ。山田校長――首都士官学校の。
何度も見たことがある。いつも『強い』と言われていた。だが、話したことは一度もなかった。
あの日、運命の巡り合わせで、彼女はこの街の近くにいた。私の母たちに挨拶するために来て、ダンジョンの話を聞いて自ら調査を申し出たのだ。
――「山田校長」
彼女は振り返り、微笑んだ。
――「校長なんて堅苦しいのやめてよ。お姉ちゃんって呼んでいいから」
彼女はそのまま少女のところへ歩み寄り、少女とその武器を抱え上げた。
そして、一瞬だけ彼女を見つめた。
――「これは……黒金の娘さんだね」
『黒金』――その苗字に聞き覚えはなかった。重要な家柄には見えなかったので、なぜ山田校長の知り合いなのか理解できなかった。
――「いつから……?」
――「ああ、いつから見てたのかって? 君の叫び声が聞こえて走ってきたんだよ」
あの悲鳴で彼女が来てしまった――恥ずかしさで顔が赤くなった。
私たちはダンジョンを出て、森を抜けた。道中ずっと地面を見つめていた。何も言わず、彼女も何も言わなかった。森を出るまでは。
だが、彼女が言った一言が私を打ちのめした。
――「あの子は、ちゃんと努力してたね」
私は彼女を見た。
彼女は腕の中の黒い髪の少女について話していた。
――「あんなに弱いのに、君を助けに来たんだよ」
彼女は心からの笑顔でそう言った。
……え? 彼女が弱い? 彼女があんなに弱いのなら……では、彼女に助けられた私は何なんだ?
その瞬間、私の世界は崩れ去った。自分は強すぎるから本気で相手にされないと思っていた十歳の少女は、そこで消えた。
私は振り返らずに走り出した。
――「待ちなさい!」
山田校長の声が聞こえたが、私は従わなかった。
日が経ち、あの少女――黒金――は私の頭から離れなかった。
私はあの戦いのイメージに取り憑かれていた。
私は訓練に取り憑かれていた。
五年間、訓練は途切れることなく続いた。休み時間の全てを訓練に費やした。
二度と『弱い』とは呼ばれたくなかった。
あの少女を超えなければならなかった。
私の家名に恥じないために。
もう超えたと思っていた。そして今日、何年ぶりかに彼女を見て、ついに過去の汚点を消せると思った。
彼女に勝ち、この人生の汚点を乗り越えられると思った。
だが、どうやらそれだけでは足りなかったようだ。
結局、私が倒せるのは五年前のあの少女だけで、今の彼女ではなかった。
たった一つのミスで私は負けた。それなのに、彼女はそれほど魔素を使っていないように見えた。
彼女は本気ではなかった。私は全てを出したのに、彼女は私を本気で相手にしていなかったのだ。
私は立ち上がり、彼女を見つめ、呼び止め、近づき、彼女の襟首を掴んだ。
こんなに近くで彼女を見るのは初めてだった。この何年も、ずっと遠くのぼやけた映像だけを見ていた。
だが、その時初めて、彼女の顔の細部を全て見た。その紫色の瞳に映る自分の姿までもがはっきりと見えた。
なぜそんなことをしたのか、自分でも分からない。何年も溜め込んだ執着のせいかもしれない。でも、あの瞳が自分だけを見てほしかった。彼女の思考が自分だけを占めてほしかった。彼女を自分のものにしたかった。
皆の前で彼女にキスをした。これは宣言だった。誰も彼女に近づけさせない。早いうちに、彼女を自分のものだと刻みつけなければならなかった。
唇を離すと、彼女の困惑した顔が見えた。
私は彼女を放し、距離を取った。
――「必ず、私のものにする」
それは、小さな声で呟いた言葉だった。
観客の悲鳴が響く中、私は最初の一歩を踏み出し、スタジアムを後にした。




