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3

自室にいた。


この部屋は、前世のアパートよりずっと広くて、俺には過ぎたる贅沢だった。


せめて好きな作品のポスターくらい飾りたかったが、この世界には俺の知っているものは何一つとして存在しなかった。


ゲームもアニメも映画も確かに存在する。だが、どれも俺の心を掴むものではなかった。


それに、この家でゲームができる端末といえば、スマホだけだ。母を説得してゲーム機や高性能PCを手に入れることはできなかったからな。


片っ端からゲームを試してみたが、どれもキャストは女性ばかり。


恋愛シミュレーターはこの世界でも大人気のジャンルだ。だが、ストーリーに引き込まれるような作品には出会えなかった。


ただ、一つだけ笑えたゲームがあった。女の子が男と間違われて、男性が収容されている保護園に送られるという内容のやつだ。レビューはさんざんだったけどな。


それに、信頼できるダウンロードサイトをまた探さなければならなかった。


同年代の女の子たちと接するのは危険だった。身体的に差がありすぎるし、何より28歳の精神を持った男が子どもと遊ぶのは気持ちが悪かった。


だから、学校から帰るとテレビを見るか、鍛練をするかだけだった。


だが、最近、クラスの女子たちが噂しているのを聞いた。


ダンジョンが出現したというのだ。出てくるモンスターはスライムだけ——ゲーム中最弱、いや、間違いなく最弱の敵だ。


ずっと考えていたことがある。この世界にもレベルという概念があるのではないか。もしレベルが上がれば、もう少しは強くなれるのではないか。


そう思い立ったある日、俺は薙刀を手に取った。老女からもらった本物だ。今ではもう、自然に扱えるようになっていた。


ある午後、屋敷を抜け出した。この屋敷の誰もが、おとなしい娘が部屋にこもっていると思っている。まさか抜け出すような馬鹿な真似をするとは思っていない。夕食までに戻れば、何も問題はない。


実際、抜け出すのは簡単だった。屋敷には防犯カメラがあるが、全ての死角をカバーしているわけではない。それは警備室にいた時に発見していた。


塀を越えるのも容易だった。一瞬だけ足に魔素を込め、跳躍——10メートルほど飛んだ。ダンジョンに着く頃には、魔素も完全に回復しているだろう。


ダンジョンは、母の机にあった書類によると、街はずれにあるらしい。それほど遠くはない。屋敷から走って30分ほどだ。


20分で街の外れに到着し、森の中へと入った。


スマホを頼りに進み、10分後には入口に立っていた。


見た目はただの洞窟だった。ゲームのように装飾された扉があるわけでも、紫色のオーラを放っているわけでもない。


背中の薙刀を手に取り、中へ入る。こういう場所はだいたい迷路になっている。


壁は石でできており、床は凸凹していたが、特に問題はなかった。普通の山歩きのようなものだ。


そうしてすぐに、それを見つけた。


ゼラチン質で、内臓が透けて見える。


スライムだ。


——「ようやく、モンスターに会えた」


構えを取る。魔素を使うまでもない。跳びかかりながら、頭上から一振り——スライムは真っ二つになった。


予想通り、弱い。残骸は青い煙となって消え去り、代わりに結晶が落ちた。


ゲームではダンジョンを出ると自動で売却され、金銭獲得の手段となっていた。


手に取ってみる。確かに綺麗だったが、役に立たない。地面に投げ捨てて、先へ進んだ。


そうやってしばらく進んだ。スライムを見つけては、一撃で倒す。


しかし、何も感じなかった。モンスターが経験値を与えるのか、レベルが上がったのか、それすらも分からなかった。


どうやらこの世界では、経験値というものは文字通りのものらしい。


ため息をつく。ゲームのストーリーが始まった時に、レベルのアドバンテージを得ることはできそうにない。


その場に座り込んだ。


——「ちょっと、がっかりだな」


そう。がっかりだ。レベルシステムがないのなら、これまで通り努力するしかない。


立ち上がり、服の埃をはたく。もう帰るべきだ。防御すら満足にできないスライムを倒していても意味がない。


入口へ向けて一歩を踏み出した、その時だった。


——「ああっ!」


悲鳴だ。ダンジョンの奥から聞こえてきた。その瞬間、様々なことが頭をよぎったが、身体が先に動いていた。


悲鳴の方向へ走り出した。


石の通路を駆け抜け、何匹かのスライムをやり過ごす。


時間にしてわずか2秒。悲鳴の発生源にたどり着いた。


年は自分と同じくらいの、ショートカットの茶髪の少女。涙を流しながら、壁に背を預けていた。


その正面には、狼のようなモンスターがいた。今まさに襲いかかろうとしている。


迷わず、武器を投擲した。狼の顎が少女に届くより先に。


金属同士の激突音が響き、狼の顔が逸れ、武器が跳ね返った。


狼はダメージこそ負わなかったが、その衝撃でよろめいたようだ。


——「走れ!」


少女に向かって叫んだ。


少女は言う通りにした。震える足をどうにか動かし、こちらへ走ってくる。


狼は無駄な時間を費やさなかった。体勢を立て直すと、すぐに少女を追い始めた。


仕方なく、その方向へ走りながら地面の薙刀を拾い上げる。両手で柄を握り、刃を後ろに構えた。


そして、狼の爪が少女に届こうとしたその時——俺は少女の横をすり抜け、下から刃を振り上げて狼の爪と激突させた。


狼が出血している。刃に魔素を込めていた。フレームパーフェクトではなかったが、半秒間は維持できた。外すわけにはいかなかった。


狼は傷口を気にしながら後退した。俺はその場に立ち、刃を足元の高さで前に構え、切っ先を上に向けた。


呼吸が荒くなる。あの一撃に使ったわずかな魔素だけで、もう疲れがきていた。


確か、この狼はレベル10になってから出会う敵だったはずだ。それなのに、もうこんなに苦戦している。


——「気をつけて!」


後ろから少女の叫び声が聞こえた。


なぜ逃げなかったんだ。


さて、ゲーム内の狼は魔法を使わない。だから、その心配はない。攻撃は基本的なものと噛みつきだけだ。


狼が再び走り出した。しかし今度は直線ではなく、ジグザグに動く。俺は一瞬たりとも目を離さなかった。


狼が正面に来た時、無事な方の前足で爪を振り下ろそうとした。俺はそれを薙刀で受け流す。武器と爪が衝撃で跳ね返された。


だが、その勢いを利用して薙刀を回転させ、再び刃を前に向けた。そして、魔素を込めて狼の胸を貫こうとした。


しかし、狼が大人しく突き刺されるわけがない。


横に身をかわされ、攻撃は外れ——肩をかすめただけだった。そして、俺は隙だらけになった。


二本の脚で立ち上がった狼は、その勢いのまま牙を剥いて飛びかかってきた。


——「どけっ!」


少女に叫んだ。それで我に返り、魔素を足に込めて横へ跳んだ。


その時、背後から火球が飛んできて、狼に直撃した。


少女はもう魔法を使えるようだった。疲れ切った様子で、武器もなしにここまで来たのなら、ずっと前に魔素を使い切っていたはずだ。


彼女の魔素も残りわずかだったのだろう、その場に膝をついた。だが、俺もあの跳躍で魔素をほとんど使い切っていた。


まだ一撃分だけは残っている。それだけだ。


狼の顔は火球で焼け爛れ、片目を負傷しているようだった。


残った片目で俺を見つめる。無理やり足に力を入れ、再び立ち上がる。


狼はゆっくりと近づいてきた。既に傷を負っている。薙刀の刃は後ろに構え、切っ先を下に向け、柄を両手で握る。


狼を凝視する。先ほどのように半秒間も刃を維持できるだけの魔素は残っていない。


選択肢はない。次の一撃が最後だ。


狼が再び跳んだ。狙いは顎だ。


俺は攻撃し、刃を動かした。待つしかない。待ち続けるしかない。


魔素を伸ばすのは、正しいタイミングまで待たなければならない。


狼の首まであと1センチ。刃が獣の毛皮に触れ始めたその瞬間——俺は魔素を込めた。柄を通して、獣の肉が斬られる感覚が伝わってきた。


刃が首の反対側まで達した時、狼の頭はあるべき場所にはなかった。


狼の身体は青い煙となって消え去り、代わりに結晶が落ちた。


その時、視界がぼやけ始めた。


一瞬、足元がふらついた。


——「よくやった、嬢ちゃん」


遠くから声が聞こえた。


振り返ると、魔女のような帽子をかぶった誰かが、助けた少女の隣に立っていた。


顔は認識できなかった。意識を保とうとしたが、身体が限界だった。その場に倒れ込み、近づいてくる足音を聞きながら、目を閉じた。


そして、暗転した。」

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