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母に頼み込んでから、一ヶ月が経った。
正直、待ちくたびれてしまった。その間、暇つぶしに色々と勉強していた。
幸い、この世界の文明水準は現代と変わらない。だからネットで情報を漁った——魔素の制御方法や、戦闘スタイルについて。
後者は完全に無駄だった。動画を見ただけで身につくものではなかったからな。
だが、魔素の制御は役に立った。とはいえ、せいぜい自分の魔素を感知できるようになった程度だが。その量は、ほとんどゼロに等しかった。
それが年齢のせいなのか、訓練不足なのか、それとも男だからなのかは分からない。だが、どうも最後の理由が濃厚だと感じていた。
ある日の夕食時、ついにその時が来た。
——「零、あなたの師匠になる人を説得できたわ。明日、会いに行くからね」
待っていた瞬間だ。その師匠が大した人物でなくても構わない。戦闘の基礎を叩き込んでくれればそれでいい。なぜなら、ゲームの知識を現実に落とし込むのは、想像以上に難しかったからだ。
……
翌日、日曜日。母と護衛数名と共に、車で屋敷を出た。移動時間は約一時間。遠くに浮かぶ浮遊山脈が見えた頃、ここがもう自分の世界ではないことを改めて実感した。
車は山の中で停まった。周りには木々と、遠くに続く石段だけだった。
母と二人だけで石段を登る。
頂上に着いた時には、もうへとへとだった。前世の身体でも、この階段は堪えただろう。
——「疲れたでしょ。抱っこしようか?」
母がそう言ったが、断った。
頂上には、古びた日本家屋があった。
——「ここで待ってて」
玄関先で待つ。母が扉を叩く。
数秒の静寂の後、足音が聞こえた。ゆっくりとした足取りだ。扉が開くと、顔中に傷跡のある老女が現れた。
——「おや、澄美……もう来たか。あと一時間はかかると思ってたよ」
それは奇妙だった。この世界に来て以来、初めて母を名前で呼ぶ者に出会ったからだ。
老女が身をずらし、こちらを覗き込む。
——「ほう、あんたの娘かい……弱そうだな」
——「四歳です」
母が答える。
老女は頭をかいた。
——「本気か? 一ヶ月も持たないと思うが」
——「ええ」
母が老女をじっと見つめる。
老女はため息をついた。
——「おい、嬢ちゃん。何か武器は使えるのか?」
——「いいえ」
はっきりと答えた。前世でも、包丁以外の刃物や銃を手にしたことは一度もない。
老女は再びため息をついた。
——「まあ、いいや。とにかく来い」
老女が振り返らずに中へ入る。母とその後を追った。
室内は予想通り、古びた和風の造りだった。掃除が行き届いていないのがわかる。
老女に連れられて辿り着いたのは、どう見ても道場だった。
——「ここで待っていなさい。すぐ戻る」
道場に取り残される。
数秒の沈黙の後、口を開いた。
——「あの老女は誰なんですか?」
——「九十九。口うるさい老姑だが、強い。それで十分よ」
一分ほどして、老女が戻ってきた。
背中に担いだ大量の武器を、床にばらまいた。刀、槍、ヌンチャクまであるように見えた。
——「どれか一つ選べ。どれがお前に合うか、見極めてやる」
——「どうやって?」
老女はニヤリと笑った。
——「決まってるだろ。俺と戦ってだよ」
それから午後一杯、老女はあらゆる武器を試させた。どれも俺の倍以上の大きさで、体重よりも重かった。
それぞれ三十秒ほどの対峙だけで、老女はこう言い放った。
——「駄目だ。次」
——「使い方が分かってるな。次」
——「自分の武器で自分を殴るな。次」
それが延々と続いた。基準がまるで分からなかった。
——「魔法だけにしろと言いたいところだが、お前の動きを見れば魔素の少なさは一目瞭然だ」
息は切れ、足は震えていた。しかし、ここで止まれば負けだ。負けるわけにはいかない。
そして、一つの武器を手に取った——薙刀だ。老女と対峙した時、初めて彼女の無表情が笑みに変わった。
——「どうやら薙刀がお前の得物のようだな」
正直、他の武器と何が違うのか、さっぱり分からなかった。
——「こっちに来い」
息が切れ、足が震えていたが、近づいた。
——「魔素の制御について、どこまで知ってる?」
——「自分の魔素を感じ取れるだけです」
老女が眉をひそめた。そんなに珍しいことなのか?
——「ふん、それなら最初の授業は省けるな」
老女が試し斬り用の藁束に近づいた。
——「お前の魔素は、四歳児にしては絶望的に少ない。だが、幸運なことに師匠は俺だ」
彼女が手を上げ、人差し指だけを立てた。
次の瞬間——その指一本で、藁束が真っ二つに斬られていた。
——「俺が教えるのは、強力な魔法でも身体強化でもない。正確さだ。お前の体内にある、一滴残らずの魔素を無駄なく使う方法を叩き込んでやる」
……
そうして、あっという間に十歳になった。と言いたいところだが、実際には老女の地獄の訓練に耐え抜いた十年間だった。
最初の数日はまだ楽だった。やらされたのは、ただ座禅を組むことだけだったからだ。
——「今この瞬間、自分がどれだけの魔素を持っているのか、常に把握するのが目的だ」
——「今じゃ魔素を見える化する機械もあるが、戦闘中に画面なんか見てたら、それが死に直結する」
この世界の魔素は簡単に言えばこうだ。身体は容器であり、空きがあれば常に満たされていく。
容器の大きさは人それぞれだ。訓練で拡張も可能だが、この数年で俺の容器はコップからコップ一杯半に増えた程度だ。魔素の生成効率も同じくらい悪い。
——「何度も言わせるな。お前にまともな魔素生成効率は永遠に訪れない。長引く戦いは、お前にとって自殺行為だ」
それが老女の言葉だった。
次は武器の訓練だ。
今でも、なぜ老女が薙刀が合うと言ったのか分からない。本当は剣を使いたかったが、剣を練習させてくれと頼むたびに、倍の強さで殴られた。
武器の訓練はこんな具合だった。姿勢が悪い→殴る。攻撃を外す→殴る。余計な一歩を踏む→殴る。
本当に、俺が大人の精神を持っていて良かったと思う。普通の子供だったら、この訓練を一年も耐えられなかっただろう。
——「褒めてやろう、嬢ちゃん。俺の前の弟子は一ヶ月で音を上げた。なのに、もう一年も経つとはな」
弟子入りしてちょうど一年の日に、そう言われた。
——「俺は、諦めるわけにはいかないんです」
その時、老女は微笑み、頭を撫でてくれた。
——「その覚悟は良いことだ」
魔素を使えるようになったのは、八歳になってからだった。ただ感じ取るだけではなくなったのだ。
ある日、老女が俺の木製の薙刀を手に取り、木の前に立った。そして一振り——木が真っ二つに倒れた。
——「聞け、零。これからは武器に魔素を纏わせることを覚えろ」
木製の薙刀を返された。
理論は単純だ。魔素を感じ、それを動かし、武器を覆う。ゲーム内でも説明されていたことだ。
だが、現実は地獄だった。魔素を体外に出すだけで数ヶ月かかった。武器を覆うなんて、なおさらだ。
失敗の日々。それでも、少しずつ魔素を体外に伸ばせるようになった。
そしてある日、ついに武器全体を覆うことに成功した。
ただし、魔素は完全に枯渇した。
——「よくやった、零。第一段階はクリアだ。次は、刃の部分だけを覆え」
全体を覆えるようになってからは、比較的簡単だった。
それでも、維持するだけで疲弊した。
——「今度はもっと小さくしろ」
そうして、刃を細くすればするほど、維持が楽になった。魔素が増えたわけではない。消費が減っただけだ。
そしてついに、木の板を一振りで斬り裂くことに成功した。刃の部分だけを、一瞬だけ覆うことで。
その日、初めて「努力が報われた」と感じた。
だが、まだ足りない。最大でも二秒しか維持できない。
——「たったの二秒か……」
老女が呟いた。
——「お前の魔素の少なさには、今でも驚かされるな……まあ、いいだろう。一つ教えてやってもいい。俺はあまり使わないがな」
それが、木の板を斬った日の言葉だった。
——「お前は、攻撃の直前だけ武器を覆うことを覚えろ」
老女は俺を木の前に立たせた。
——「完璧なタイミングで刃を形成しろ。一秒前なら無駄だ。一秒後なら無意味だ」
要するに、フレームパーフェクトを求められている。ゲーマーである俺にとって、それは珍しいことではなかった。多くのゲームのグリッチはフレームパーフェクトが前提だ。だが、意図的に成功させたことはない。運任せでしか成功したことがないのだ。
今もそうだ。その速度で魔素を伸ばす訓練を続けている。正しいタイミングで発動できたことは、一度もない。
——「今日はここまでにしよう。魔素の速度は上がったが、まだタイミングが掴めていない」
頭を下げた。
——「本日もありがとうございました、師匠」
そうして階段を下り、道路で待つ護衛たちの元へ向かった。
車に乗り込む。
——「今日も、できなかったな……」




