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「その光景は不快だった。壁も床も柱までもが、まるで呼吸しているかのような肉質のテクスチャーに覆われていた。


立っていること自体が困難だった。それは床が変わったからだけではない。体がもう限界だと叫んでいた。


筋肉も骨も、そして魔素も尽きかけていた。呼吸も苦しかった。匂いと、空気が濃くなったせいもある。まるで場所全体がモンスターの魔素で満たされているかのようだった。


ユキも同じように見えた。剣を掲げてはいたが、腕も脚も震え、その呼吸はさらに荒くなっていた。


この全ての中心にゴーレムがいた。金属の部品は全て失い、今は地面に張り付いた肉の塊に過ぎなかった。しかし、かすかに見えるものがあった。核だ。ひび割れがあり、しかも動いていた。


あのものを倒さなければ、確実に死ぬ。


——「零、どこまで戦える?」


ユキがゴーレムから目を離さずに尋ねた。


——「長くは持たないと思う」


——「私もだ…」


彼女は剣の柄を握りしめた。


この敵に第二段階があるとは、全く予想していなかった。おそらく別の核があるのか、あるいはあの変化がそうさせたのか。


ユキが一瞬こちらを見た。その目に何が込められているか理解できた。それは恐怖だった。しかし、彼女自身のためではなく、俺のためだった。その目は心配で満ちていた。


——「零、この部屋から逃げて。残りは私が何とかする」


その一言で、彼女が生き残るつもりがないことを理解した。


——「こんな時に一人で置いて行くと思っているのか?」


——「一人でできる」


彼女は俺の言葉を遮り、決意を込めて言った。その姿は、彼女がなぜこのゲームの主人公なのかを思い出させた。


——「私を信じて」


しかし、彼女を死なせるわけにはいかなかった。


話している間、遠くに何かが見えた。細長い形が壁から現れ始めた。


——「危ない!」


叫び、彼女を横に押しのけ、武器で何が襲ってきたのかを切り裂いた。


それが地面に落ちると、何かが分かった。触手のように見えたが、その先端は鋭利なものだった。それが何かは分からなかった。


地面のユキを見た。


——「本当に一人でできると思って、あの後も信じられるのか?」


彼女は驚いていたが、それから少し笑った。緊張した笑いだったかもしれない。


——「格好つけようとして、結局助けられるなんて、なんて情けないんだろう…」


彼女の顔が崩れた。強い戦士の仮面が割れ、その下にあるものが見えた。恐怖、絶望、何をすればいいのか分からない少女の姿だった。


——「できない」


彼女は囁き、その声はか細かった。


——「一人じゃできないよ、零。できない…どうすればいいのか分からない…」


彼女をこんな風に見たのは初めてだった。今はただの怖がった少女だった。


深く息を吸った。


——「大丈夫だとは言わない。それは嘘になるから」


しゃがみ込み、地面に落ちていたユキの剣を拾い上げた。彼女に差し出した。


——「でも、諦めさせるつもりもない。だから立ち上がれ。這ってもいい。構わない。ただ、そこに留まるな」


ユキは剣を受け取った。


——「分かったか?」


彼女はうなずいた。喉が渇きすぎて言葉が出なかったのだろう。


触手が壁から現れ始めた。


しかし、今度は一つだけではなかった。何十もの触手が壁から、床から、天井から現れた。それぞれが明確な意図を持って動いていた。私たちを殺すために。


——「ユキ、中央へ!」


彼女はうなずいた。剣が掲げられ、一瞬、彼女の目にかつてあった輝きが戻った。


走り出した。


最初の触手が正面の床から現れ、その先端は槍のように鋭かった。ユキは一振りでそれを切断したが、脇からさらに二本が現れた。


踵を返し、薙刀で弧を描き、両方の触手を切断した。


肉が湿った音を立てて地面に落ちたが、すぐに新たな触手がその場所に生え始めた。


消耗戦では勝てなかった。


——「全部は切れない!」


ユキが別の触手を切りながら叫んだ。


——「核に届くだけでいい!」


肉の塊まで約二十メートル。地獄の二十メートルだった。


触手が追いかけてきた。


切り、かわし、跳んだ。動きの一つ一つが前よりも体力を奪っていった。肺が燃えていた。


肉の塊まであと十メートル。


塊の中心から巨大な触手が現れた。他のものより太く、その先端は棘で覆われていた。鞭のように動き、まっすぐに私たちを狙った。


——「ユキ、伏せろ!」


彼女は迷わず従った。触手が頭上を通過し、その瞬間を利用して薙刀をその基部に突き刺した。肉が裂けた。触手はのたうち回ったが、倒れなかった。


——「足りない!」


叫んだ。


ユキは地面から剣を掲げ、触手を真っ二つに切断した。上部が地面に落ち、のたうち回った。


——「今だ、零!」


肉の塊が目の前にあった。核が輝き、先ほどつけたひび割れがはっきりと見えた。


——「ユキ、援護を!」


彼女は躊躇しなかった。背後に立ち、剣を回転させて近づく触手をそらした。一撃ごとに彼女の体力は奪われていった。腕は震え、呼吸は絶え間ない喘ぎ声だった。


俺には攻撃のチャンスが一度だけ残されていた。魔素はほとんど尽きていた。もしこれが失敗すれば、二度目の攻撃をする力は残っていないだろう。


世界が一つの線に収束した。ひび割れ。刃が当たるべき正確な一点。


向かってくる攻撃の合間を縫って、全力で駆け抜けた。触手が届こうとしたが、ユキがそれを食い止めた。


そして、一突きで薙刀の先端が核に触れた。


その衝撃が全身に走った。刃がひび割れを貫き、結晶に沈み込んだ。刃の下で砕ける感覚、エネルギーが爆発的に放出される感覚。


全てが止まった。


触手が空中で凍りついた。肉が動くのをやめた。匂いが消え始めた。


そして、全てが崩壊した。


肉の塊はゆっくりと崩れ去った。壁は元の姿を取り戻した。空気が再び呼吸できるものになった。


膝をついた。薙刀が地面に落ちた。もう持ち上げられなかった。


ユキは背後に立ったまま、剣を掲げていた。核はゆっくりと崩れ去り、その破片が灰のように地面に落ちていった。


ユキが振り返った。その顔は青白かった。しかし、微笑んでいた。


——「やったよ」


彼女の声は震えていた。


——「やったんだ、零」


答えようとしたが、できなかった。体が言うことを聞かなかった。ただ、ユキがゆっくりと近づき、目の前に跪き、その手が頬に触れるのを感じることしかできなかった。


——「零、大丈夫? 答えて!」


——「……眠い」


やっとの思いで言った。


彼女は笑った。か細い笑い声だった。


——「君って本当に…」


頭を彼女の肩に預けた。もう何もする力は残っていなかった。ただ目を閉じて休みたかった。


しかし、拍手が平手打ちのように響いた。


ゆっくりと。嘲笑うように。一拍一拍が空っぽの部屋に反響した。


ユキが即座に立ち上がり、剣を掲げた。俺も同じことをしようとしたが、脚が応答しなかった。ただ顔を上げることしかできなかった。


天井から、一つの影がゆっくりと降りてきた。


それは女性だった。しかし、完全に人間とは思えなかった。白い髪は薄明かりの下で虹の全ての色に輝いていた。そして、その背中には昆虫の翅が優雅に広がっていた。


冷や汗が出始めた。


彼女が誰か分かっていた。前世のゲームの画面で見覚えがあった。世界が終わろうとしている時に現れるラスボスの一人だった。


——「見事だ」


その声には軽蔑が込められていた。


——「強化された守護者を倒すとは。期待以上の働きだった」


ユキは剣を下ろさなかった。


——「誰だ? 何が目的だ?」


女性はユキを無視した。その紫色の瞳が二人をじっと見つめた。


——「異常に大きな魔素を持つ個体と、異常に小さな魔素を持つ個体…」


その視線は分析するように動いていた。


——「奇妙だ…人類の男性を絶滅させたはずだったが…近くで見れば間違いなくお前は男性だ」


ユキはその言葉に困惑したようだった。


——「教えろ」


女性が俺を指さした。


——「まだ他に男性はいるのか?」


ユキが一瞬、困惑した表情で俺を見た。そして、女性の言葉の意味を理解した。


——「答えると思っているのか?」


やっとの思いで言った。


——「零、何が起きてるの?」


ユキの声は緊張していた。


ユキに説明できなかった。説明する力が残っていなかった。


女性が手を伸ばした。紫色の光がその掌に集まり始めた。


——「これ以上計画を邪魔される前に、今のうちに始末しておくのがいいだろう」


ユキが俺と女性の間に立ちはだかった。


——「近づくな」


ユキは動かなかった。その剣は震えながらも掲げられたままだった。


女性が手を掲げた。紫色の光が強まった。その周囲の空気が歪み始めた。まるで空間そのものが、その力の圧力で曲がっているかのようだった。


攻撃が放たれた。紫色の光の閃光だった。


そして、金色の障壁が俺たちの前に現れた。


紫色の光がそれに激突し、爆発音が響いた。その衝撃で部屋中に衝撃波が走り、瓦礫が舞い上がった。その風が私たちを襲い、弱り切った体では耐えきれずに倒れ込んだ。


——「まさか、もう私を抜かしちゃったのかい?」


その声が部屋に響いた。混乱の中でもはっきりと、確固として。


山田校長が入り口から現れた。大きな魔女の帽子と杖を手にしている。その笑みは大きく、ほとんど嘲笑うようだった。


——「ちょうどいいタイミングだったね」


彼女は言い、その目は翼の生えた女を捉えていた。


——「山田…」


翼の生えた女が舌打ちをした。


校長は肩をすくめた。


——「まさか、傷ついた生徒を攻撃するなんて、そこまで冷酷になったのかい? 恥ずかしくないのか?」


——「ただの掃除だ」


翼の生えた女が再び攻撃しようとしたが、山田は既に動いていた。その杖が掲げられ、金色の障壁が零とユキを包み込んだ。


——「お嬢さんたち、そこにいろ」


翼の生えた女が再び紫色の光を放ったが、山田は杖を一振りしてそれを逸らした。光は壁に激突し、金属に穴を開けた。


——「それだけか?」


山田は挑発するように言った。


——「錬金術の実験室で見る火花の方がまだマシだよ」


——「相変わらずだな、山田。いつもその傲慢な態度」


——「君も相変わらず冷たいね。誰かを殺そうとせずに挨拶はできないのかい?」


翼の生えた女が両手を広げた。紫色の光が周囲で強まり、空気が再び歪み始めた。


——「今度は止まらないぞ、山田」


——「残念だ」


山田は杖を掲げて言った。


——「なぜなら、私も止まるつもりはないからね」


山田の杖が強い金色の光を放った。その光が広がり、部屋をその輝きで満たした。


翼の生えた女が攻撃を放った。


山田が反撃した。


金色の光と紫色の光が部屋の中央で激突した。その衝撃はまるで地震のようだった。壁が震え、床にひびが入り、天井が崩れ始めた。


光が収まると、翼の生えた女は後退していた。


——「この戦いで勝利する可能性は十分に高くない」


指を鳴らすと、翼の生えた女は紫色の粒子の雲となって消え去った。


静寂が戻った。


山田は杖を下ろし、その呼吸は少し荒かった。私たちの方に向き直り、その笑みが戻った。


ユキは疲れ果てて地面に座り込んだ。


——「何が…何が起きたの?」


校長はすぐには答えなかった。私のそばに近づき、膝をついた。


——「二人とも保健室に連れて行く」


話そうとしたが、声はかすれてほとんど聞こえなかった。


——「校長…あなたは一体…何者なんですか…?」


山田は優しく遮った。


——「休め。後で話そう」


そして、世界が暗転した。」

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