第8話 白と黒
「やはり主人様のお力も順調に上がっていますね。このまま召喚を続けましょう」
レイヌに促され再び召喚陣に魔力を込めていく。これは……まだ使ったこともない【神聖術】が勝手に発動している?
神々しい光が運動場を満たし、それが収まった後に現れたのはこれまた美女だ。三つ編みメガネの知的な雰囲気である。だが、その背中には真っ白な翼が生えていた。
「はじめまして、アインくん。私はリエル。天界の天使たちをまとめる天使長です」
「はじめまして、リエルさん。知っていると思うけれど、僕はアイン。天使ってことはリエルさんも今まで見てた?」
「はい、もちろんです。貴方ほど女神様の寵愛を受けた方はいないのですから、見て当然です。ああ素晴らしい! 私めがそんな方に召喚されるなんて! あ、リエルで結構ですよ」
おっと、女神様への信仰心が篤いというか、ちょっと女神様オタクっぽい子が来たな。オタク大歓迎だ。何せ前世では僕も立派なオタクだったわけだし。動画配信者、プロゲーマー、声優など、推している人は実に多かった方だと思う。どちらかというとイベントにも足を運ぶフッ軽系のオタクではあったけどね。ああ、前世の推しをもう一度見たいなあ……。
逸れた思考を戻し、改めてリエルとの会話を再開する。
「えっと、天使長って責任ある立場じゃない? 僕に召喚されていていいの?」
「問題ありません。私がいなくても回るように部下はしつけ……いえ、教育しておりますので」
「あ、そ、そうなんだ。じゃあ大丈夫かな? よろしくね。そういえば、召喚したときに【神聖術】が発動したみたいだけど?」
なんかちょっと言葉があれだけどまあ大丈夫だろう。それはともかく、【召喚術】とともに他のスキルが発動したのは初めてなので確かめる。
「それはアインくんが【神聖術】を使ったことがなかったからです。使える人も少ないし、これでも私は【神聖術】を司る天使の長なので、無理やり力を引き出してみました。今回使ったことでいざ使おうというときにスムーズに使えるはずですよ。もし使い方がわからなければいつでも喚んでください」
おお、【神聖術】の使い方を教えてくれるのか。治癒と滅魔って書いてあったし使えれば色々役立ちそうだ。リエルがちょっとドヤ顔をしてる。
「それにしても精霊女王やフェンリルに私まで召喚してまだ余力があるなんて、何という力の持ち主なのでしょう。黒い騎士の方は存じませんが凄まじい力を感じます」
リエルに言われて契約がまだなことに気づく。
「そうそう、見てたならわかると思うけど契約しよう。どんな条件がいい?」
リエルは少し悩んで、
「では、女神様への信仰心を捨てないことと、お手隙のときでいいので、錬金術で女神様の小像を作っていただけませんか?」
「もちろんだよ。これからよろしくね、リエル」
リエルと契約を結び、五体目の召喚に取り掛かる。といっても召喚陣はそのままだし魔力を込めるだけなんだけどね。
魔力を込めていくと、今度は静かに、また女性が現れた。あれは黒髪の……メイド? 彼女を見たレイヌとリエルが「げっ」と息を合わせる。何か不味いやつ喚んじゃった?
「お初にお目にかかります。私はティアと申します。しがないメイドでございます。何卒よろしくお願い致します」
「ご丁寧にどうもありがとう。僕はアインです。よろしくね」
話してみる限り普通の、ではないな。言葉遣いから仕草まで完璧なメイドさんだけど、この面々の中でなぜメイドさん?
そう思っているとリエルが怯えたように言う。
「し、始祖の悪魔ゲーティア……」
ん? なんか物騒な言葉が聞こえたんだけど……。
「リエル、なんて言ったの?」
「アインくん、彼女は……」
「うるさいですよ、若き天使長。私がどこの誰かなんてどうでもいいじゃありませんか。私はただのメイドのティアです」
リエルが天使長だって知ってるってことは知り合いかな? リエルのこと若いって言ってるけど……。
「アイン様に召喚されたのに正体を明かさないなんてずるくない?」
無邪気に言うアルテの様子にティアは驚いたらしく、「それもそうですね」と前置きしてから、
「私はゲーティア。全ての悪魔の始祖。神の次に生まれし者。ですが貴方様の前ではただのメイドのティアです」
「そっか、わかったよ、ティア。よろしく。じゃあ契約しようか」
そんな僕を見てティアは嬉しそうに微笑む。
「私を見ても怖がらないのですね。精霊や天使ですら私を恐れるというのに」
「だって君はただのメイドのティアだろう?」
実際は多分【精神異常耐性】が恐怖を打ち消してるのと、女神様に始まりすごい面々を見てきたからだろうけど。
「その言葉だけで天にも昇る気持ちです。悪魔ですが」
悪魔ジョークに笑いつつ契約する。条件はティアを僕専属のメイドとして屋敷に迎えること。完璧メイドなティアなら余裕だろう。
これで五体の仲魔を得た。レイヌ曰く最後の一体になる誰かを楽しみにしながら、僕は召喚陣に魔力を流す。今までで一番の魔力を吸いこんだ召喚陣から現れたのは……
「結晶?」
人ほどもある大きな水晶? の結晶だった。




