第4話 錬金術と付与
「錬金術には二つの流派がある。一つは無から有を生み出そうとするもの。もう一つは形あるものを別のものに作り変えようとするものだ。どちらも根底にあるのは等価交換という概念だけどね」
錬金術で等価交換はわかるけど無から有を生み出すって、それは等価交換なの?
表情で考えを見透かされたようで、先生は続ける。
「無から有というのは、形が無いものから形があるものにってことだね。アインくんの言葉を借りるなら『エネルギー』を物体にしようというんだね。これを錬成派と言う。僕は作り変える方の流派、賢者派だよ」
なるほど。あらゆる物体はエネルギーを持っている。逆説的に、エネルギーを以って物体を創り出そうとしているのか。前世では僕の知る限り実現してなさそうだったけど、魔力ならできるのかな。正確には、魔力を用いた錬金術でならかな? 「生み出そうと」ってことはまだできていないのかもしれないけど。賢者派っていうのはおそらく賢者の石からとっているんだろう。
「錬成派の目標は魔力から物体を生み出すことで、それができれば誰もが社会の役に立てる。多寡はあれど魔力を持っているのは共通しているからね。そして賢者派は賢者の石と呼ばれる万能触媒を作り出すことが目標なんだ。その先にあるのはただの石からでも希少金属を作り、ただの雑草から万能薬を作ることだ。思想の違いはあれど、人々の幸せのためにある学問なんだよ」
やっぱり賢者の石が関係しているけど、ただ作ることだけが目標じゃないんだ。ちゃんとその先も考えているんだなぁ。そして人々の幸せのためにってことなら僕が考えていることは間違いなくそのためのものだ。何せ、家電製品、いや、雷属性魔術を用いるから魔電製品と言おう。それが開発されれば人口の三割を占める雷属性魔術師にとっての希望になるのだから。
「で、アインくんの思いつきは実現できそうかい?」
「その前に一つ聞かせてください。魔力を溜め込める方法はありませんか?」
その問いに先生の目が大きく見開かれる。まるで「どうしてそのことを?」とでも言いたげだ。まあ教えてもらってないからさもありなんだけど、そういう「魔石」みたいなのは異世界ものにありがちなんだよね。
「まさかもうそこまで思考が至っているとはね。十歳とは思えないな。質問の答えだけど……あるよ。魔石だ。魔石は属性ごとに存在していて、魔石にあった属性の魔力を貯めることができるんだ。手に入れるのは簡単ではないが、雷属性の魔石なら余りはあるだろうね。何せ今まで役に立たなかったんだし」
やはりあるのか。魔石。属性ごとのパターンね。それはなお良しだ。雷属性だけで仕事が独占できる。
「ならできるかもしれません。できないかもしれませんが……」
「まあまあ、そこのところは置いておいて、とりあえず今の説明聞いてアイデアが深まったんだろう? 言ってみなよ。これでも僕、凄腕の錬金術師だぜ?」
先生が美しい髪をたなびかせながら言う。それもそうだ。言うだけ言ってみよう。
「雷属性の魔石で好きな時に好きな量の雷属性の魔力が流せるようにして、それを金属の線に流します。そのエネルギーで物を動かしたり温めたりするんです。それができる装置を錬金術で作れないかと思って」
「……。何という、何と言うことだろう。まさか雷属性魔術にそんな使い方があるなんて。いや、エネルギーの話を聞いたときに思い至るべきだった。それができれば燻っている雷属性魔術師たちが魔力補充という新たな働き口を手にできる。これは何としてもやらなければならないことだ。できるかどうかなんて考えるまでもない。君と僕とでやるんだ」
思ったより食いつきが良いというか気合いが尋常でない。それはそうか。何せ、実は先生も【雷属性魔術】の持ち主。【錬金術】も持っていたからそちらで大成したけど、本来はハズレ判定を受けるはずの人だったのだから。
そこから僕と先生は議論を始めた。およそ一年にわたる議論の中で、電気回路のことや発熱機関のことなど覚えている範囲で話し、先生からは魔術のことを教わった。先生も雷属性魔術師だから、ついでに魔術の勉強もさせてもらった。だけどなかなか成果は出ず、行き詰まりかけたところでついに先生からヒントとなる言葉が出た。
「うーん、これは付与についても考えるべきかな」
「付与って何ですか?」
「錬金術師が生成物に付けられる、人間でいう『スキル』みたいなものだ。剣なら【切れ味強化】とかね」
「それだーー!!」
まさかの大当たりだ。どんな付与を付けられるかはわからないけどやってみる価値は大いにある。
「ふ、付与は、付与はどうやったらできるんですか!?」
「魔力で刻みつけるんだ。付けたい効果のイメージを魔力に乗せて伝える感じかな」
「どんな効果が付けられるんですか?」
「基本的に自然の摂理に反さない程度なら。ただ、物体ごとに付与限界があるからね」
なんでこれが早く出てこなかったんだろう。いや、できるか確認すべきだった。これなら詳しい原理や機構を知らなくても【電熱変換】とか付与すれば電気が熱に変わるんじゃないか? 物体ごとに決められた容量……。物質ごとの容量と量が関係していそうだ。これは実験のしがいがあるぞ。
「先生、付与、やってみましょう!」




