第3話 雷属性と先生
この世界の雷属性魔術は、火水地風の四大属性が使えない縛りによりハズレ扱いされている。確かに、電気って普通に暮らしていたら雷とか静電気くらいしか見ることはないだろうし、雷は当たったら良くて重症、悪くて即死——前世の僕みたいに——するので研究し辛いというのはあるのかもしれない。戦う上では強いので重宝されているかと思えば、四大属性が使えないせいで戦法に幅が出ず使い辛いとか。それなのに人間の三分の一は雷属性使いらしく、そういった人たちはハンデを背負いながら魔術以外の道で生計を立てるか、後世の雷属性適性者への希望を見出すために苦しみながら魔術研究に勤しむかをするらしい。
以上がこの世界での雷属性魔術の現状だ。では次に僕の前世の知識としての電気だが、原子が持つ電子の運動によって生じるものである。電子の流れの反対が電流だ。電気伝導性が高いのは主に金属で、中でも銀が最も高いが、値段が高いのでだいたい次点の銅で代用される。そして、実は純水は電気をほとんど通さない。他にもあるけど、現時点で考えておくべきなのはこの辺りだろう。
そんなことを考えながら僕は魔力操作の訓練に勤しんでいた。訓練といっても単純なもので、体内を流れる魔力を感じ取って速くしたり遅くしたり、逆流させようとしてみたりするだけである。言うは易し行うは難しであり、シンプルイズベストである。最初の頃は苦労していたが今では考え事をしながらでも行うことができるようになり、魔力操作速度は向上し、扱える魔力の量も増加した。
これは魔術を使うための訓練であると同時に、錬金術を使うための訓練でもある。実は、魔力といっても魔術のためだけに存在しているわけではない。言い方は難しいけど生物に宿るエネルギーというのが一番近いかな。この世界の人間は血管の隣を魔術回路が通っていて、そこを魔力が流れている。一度に体内に存在する量には限りがあり、魔術や特定のスキルを使うことで消費され、睡眠により一定量補充される。この世界の人たちは神様が授けてくれていると考えているようだけれど、僕は睡眠時に空気中から何らかの形で取り込んでいるのではないかと考えている。この世界の人口はわからないけど、流石に全人類に目を向ける余裕はないだろう。まあそれはそれとして、魔力は錬金術にも使うので鍛える必要性は非常に高いのだ。ちなみに先ほどの訓練で体内の最大魔力量も増えている。魔術回路の強さが増して体内に保持できる魔力が増えたからだと思う。技降ろしの儀から二年が経過し、僕は十歳。現時点の魔力量は常人の約五倍だ。同年代ではなく成人の平均と比較して五倍である。如何に基本が大事かがわかるね。僕の場合は持っているスキルの数も影響しているのかな? 僕が九つ持つスキルの中で魔力を使うのは【錬金術】【神聖術】【雷属性魔術】【召喚術】の四つで、普通はそもそもスキルが二~三個、魔力を使うスキルが一つあれば珍しいくらいなので破格の多さである。なお四大属性はスキルが無くても使えるというか【雷属性魔術】があるから使えないというか……。
「アインくん、順調かい?」
声をかけてきたのは僕の先生であるルイス=パラケルである。なんとなくパラケルスス感がある名前だが、名前に恥じず二つ名持ちの錬金術師で、二つ名は「鋼の錬金術師」である。物体の加工を司る錬金術師において、「鋼の」という接頭語は最上級の証明であり、実際に他の錬金術師を圧倒する知識と精度を誇る錬金術師……らしい。らしいというのは、先生の錬金術をまだ見たことがないから。基礎からを徹底する指導方針によりまだ魔力操作しかしてないんだよね。そもそも先生も忙しく、そう頻繁に会えるものでもないので会うのは二ヶ月ぶりくらいだったりする。そんな先生が教えに来てくれるのは単に父の高名さと人徳が故であり、父の願いでなければ来なかったと先生は言っていた。
「はい、今は考え事をしながら訓練してました」
「……へぇ。なかなかやるね。ちなみに何を考えていたんだい?」
「錬金術のことですよ。もちろん」
嘘じゃないよ。全て本当でもないけど。
「それもそうか。アインくんに出会ってからもう一年になるけど、未だに魔力操作だけだもんね」
「それもそうなんですけど……。雷属性魔術と錬金術を合わせたら面白そうだなって考えてました」
「錬金術はまだ教えてないのにかい? なかなか面白いね。うん、ぜひ聞かせてもらおうかな」
先生のこういうところが実に先生向きだと思う。生徒の話をしっかり聞くのは教育者にとって何より大切なことである。
いけないいけない。ついつい教師として人を見てしまうね。
それはさておき、考えていたのは家電製品のことである。雷属性魔術が生活に役立たないというのならそこをひっくり返そう大作戦だ。この世界でも多く取れる銅を使って導線を作り、そこに電気を流してあれやこれやしたいんだけど生憎製造者ではなかったのでそこまで詳しい構造や作り方は分からないんだよね。ということを前世をぼかして先生に伝えてみる。先生は目を丸くして言う。
「なるほどなるほど。そんなこと考えたこともなかったなぁ。雷をエネルギーにかぁ。魔力とはまた違うものになるんだろうけどそんな発想があるなんてね。よし、せっかくだから錬金術の話をしてみようか」
そうして先生の錬金術概論が始まった。




