第2話 技降ろしの儀
前世の記憶が蘇ったのは神様からスキルを授かる技降ろしの儀の最中だった。おそらく、このタイミングで女神様と繋がったために起こったのだろう。この世界では八歳の誕生月の二番目の休日に技降ろしの儀を受けることになっている。成人が十六歳だから丁度半分というわけだな。
ちなみに異世界転生物でよくある意識の混濁みたいなのは起こっていない。前世の在葉直流の地続きというか、今の僕の過去が蘇ったみたいな感じ。人格は変わっていないみたいだ。魂が一緒だからかな? まあ、物心ついてないときの記憶はないけれど。
「おお、これは……! …………」
「どうされましたか、司教様」
技降ろしの儀は教会で行う。僕を担当してくれたのは僕が住んでいる街シュタルニアの教会に所属している司教様。司教というのは教皇、枢機卿、大司教の次に権威のある聖職者で、先に挙げた三つの役職持ちは聖国にある教会本部にいる者がほとんどのため街に派遣される位階としては実質的な最高位である。そんな司教様と話しているのは僕の父であるザイン=シュタイン伯爵だ。銀の短髪に二枚目的な顔をしたイケおじである。いや、実年齢は30歳と少しなんだけどお兄さんという歳でも関係性でもないしね。
ザインには三人の息子がいる。長男のマインは文武両道でこのまま行けばしっかりと伯爵位を継ぐことができるだろう。周囲からもとても期待されているようだが、それをプレッシャーに感じつつも原動力に変えている辺り優れた人物である。次男のカインは身体能力に関しては、その、何とも言い難いほどにダメなのだが、頭のキレがマイン以上である。一般的な常識的知識はもちろん、法律、治世、軍策、果ては魔法まで、知識と呼べるものはあらかた修めている。マインのこれ以上ない右腕になるだろう。
そして僕、アイン=シュタインはというと、というかアインシュタインという名前は科学に関わった者の端くれとして恐れ多いんだけど、そんな僕は……
「良い報告と悪い報告がございます」
「良い報告から聞こう」
こういうところって性格が出るよね。父は良い報告から聞くタイプのようだ。
「は。アイン様は大変に強い女神様の御加護を受けていらっしゃいます」
「なんと! それは素晴らしい! 女神様に改めて感謝申し上げなくては!」
このように、父は位の高い貴族でありながら、偉ぶったところのない、むしろ接しやすい方であり、領民にもとても尊敬されている。息子たちを溺愛するのは玉に瑕だけど。スキルは自分で見るのは不可能で技降ろしの儀を執り行う聖職者だけが見れる。ちなみに後発的にスキルを得る例も希少だがあるようなので、八歳以降もお布施を入れれば行ってもらえる。八歳の初回もお布施は少し入れるけど、庶民でも受けられるように階級に合うお気持ちの額であり、二回目以降は額を増やすのが通例である。貴族はスキルが増えればステータスになるから、余裕があれば何回も受けるわけだな。
司教様による説明と擦り合わせると、女神様にもらったスキルは全部しっかり持っている上に見られてしまったようだ。全部を言いふらすと多くて目立つかもしれない。自分もそうだが、家族も軽率に言わないように気をつけないといけないな。
「して、悪い報告とは?」
「その、魔術適性が『雷属性魔術』なのです」
「な、なんと! 女神様、それはあんまりではありませんか!」
掌クルックルな父である。まぁ、仕方ないのかもしれない。この世界において雷属性魔術とは、所謂ハズレの属性なのだから。魔術の属性は五つある。火水地風の、一般的に使われる魔術属性を「四大属性」と呼び、四大属性使いは得意不得意はあれど四つの属性を使える。雷属性魔術使いは四大属性を使えない。問題視されているのは、雷属性魔術が普段使い、要するに生活に使うのに適していないとされていることと、汎用性がないことらしい。まぁ、前世の記憶を持つ僕からすれば雷属性魔術って最高なんだけどね。雷は神鳴とも書かれるように、神の力とされていたものだ。ゼウス、トール、インドラ、タケミカヅチ……。雷を司る神は数多くおり、何れも強く、何よりかっこいい。速度なんて光速の三割、つまり秒速約10万キロメートルである。見てから防げるものでは到底なく、温度は三万度にも達する。つまり、撃てば勝ちなのが雷属性魔術なのである。……自然の雷と同じならね。多分魔術なら使う魔力とか魔術の制御とかで威力や速度も変わるのだろう。別にこれまで練習をサボっていたわけではないし、むしろ一所懸命にやっていたけれど、これからは限界まで鍛えよう。また、僕は女神様に【錬金術】をもらってるので、あれらが作れる見通しもある。というわけで、落ち込む父とは対称的に、僕は内心ウッキウキである。
「良いのです父上。むしろ僕は雷属性で嬉しいです!」
「そ、そうか。アインがそういうなら……」
前世の名前が在葉直流、つまり直流を生み出したトーマス=アルバ=エジソンに関連していて、死因が雷で、今世では雷属性魔術の適性とは、つくづく電気に因縁がある僕である。
雷属性に喜ぶ息子に戸惑う父だが、この世界の価値観ではそうなるよね。でも、そんな価値観は然程遠くないいつか変わるよ。だって電気の扱い方を知っていて錬金術でものづくりができる僕がこの世界に来たのだから。




