第1話 実験女神様と詫びスキル
「よし、今日の授業はここまでー」
「ありがとうございましたー!」
教室から出て職員室に入る。今日の授業の反省をして出勤簿に押印、家路につく。
大学を出て5年。27歳となり教員──と言っても非常勤講師だが──としてそこそこの経験を積んだと言えよう。生徒からの信頼は誰にも負けない自信がある。同僚からは、まあ、変な人と思われてても仕方ないかな。理科の授業で数学の基礎とか進路相談とかしてればそうもなるだろう。生徒から相談されて自分が答えられるのだから答えているだけなんだけどね。同僚や上司には余計なことをするなと怒られてばかりだが。多分上司に呼び出された回数は学校でトップなのでは?
学校には自転車で通っている。家までは片道30分ほどの道のりだ。良い運動だし気分転換にもなる。──今日みたいに雷でも鳴ってなければな。
小さい頃、親の運転する車のすぐ側に雷が落ちたことがあるのだ。視界は真っ白に染まり、耳には爆音が木霊した。自分はHSP(Highly Sensitive Person)、要は感覚過敏だから、その時のことは他の家族より鮮明に覚えている。幸運にも雷に当たって死ぬことはなかったが、今までで一番の恐怖だった。地震雷火事親父とはよく言ったものだ。
まあそんなこともあり雷は恐怖の対象だ。大人になってみっともないと思われるかもしれないが、怖いものは怖い。雷っていうのは雷雲の下でなくても落ちるのだ。10kmは横に飛ぶらしい。だから雷鳴が聞こえた時点でそこは既に危険区域だ。最も、現代では避雷針があるから大袈裟に怖がる必要もないのだろうが。
ところがどっこい、俺が今自転車を走らせているのは公園沿いの道路である。避雷針がある建物などあるはずもなく、街路樹がずらっと並んでいる。すなわち、街路樹に落ちた雷が俺に飛んでくる可能性も十分にある。気をつけようもないし雷は明日まで止まないって言うから帰るしかないんだけどさ。
ところで、言霊という言葉があるよね。いやまあ、オカルトの類だしそもそもここまでの言葉は心に浮かべただけで口には出していない。でもね。
──見事に雷に当たって死にました。
はあ、やり残したことたくさんあるのになあ。両親よりも先に死んでしまったし、生徒も残してきた。実は恋愛もしたことなかったし、何よりもっと学びたいことがたくさんあったんだ。
とまあ、死んだ身でまだ考えられているのはまだ魂が消滅していないからだ。そして、言霊以上のオカルトが目の前にあるからでもある。死んだのも目の前の光景も全て夢だと言う方がまだ信じられるね。だって確実に死んだ感覚はあるのに意識あるし、絶世の美女と言うのも烏滸がましいほどの美女が目の前にいて、その美女が、
「理科教員免許なら【錬金術】と【教導】かな? 星の資格とカウンセラーは合わせて【神聖術】と【精神異常耐性】、HSPの診断は【感覚強化】が良さそうかな。診断書ないけど。紅茶の資格なんてのもあるのね。茶葉を見極める【鑑定】にしよっと。あとは雷に当たって死んじゃったし【雷属性魔術】もあげちゃおう!」
なんて言ってるんだもの。しかも俺に何の説明もなく。恐る恐る尋ねてみる。
「あの、現状を教えていただけると嬉しいのですが……」
「あっ、ごめんねー、在葉直流くん。私は見ての通り女神ですっ。あなたの世界のではないんだけどね。いやー、ちょっと実験に失敗しちゃって、貴方を巻き込んじゃったの! 本当にごめんなさい!」
ペロッと舌を出して謝る姿は本当に反省してるのかわからないが可愛いから許す。
「実験、ですか?」
「うん、魂が世界の壁を越えられるか試したくてね、まずは強そうな魂を探そうと地上に目を向けた瞬間、貴方が目に入って気づいたら雷が……。多分、運命力とか働いちゃったかなーって。それでまあ、責任もあるし、ね? 私の世界に移動させたのよ」
責任もあるし、実験もしたいし、の後半部分をカットしたな。冷や汗をかきながら言ってるし、なんとも人間らしい女神様だ。
「で、でね、せっかく魂が世界の壁を越えられたんだし、こっちの世界の生命として生まれ変わらせてあげようと思って貴方の前世の記録を見てたのよ。そしたら資格をたくさん持ってるみたいだったから、せっかくならそれをスキルに変えて持たせてあげようかなーって思って考えてたんだけど……どうかな?」
「それはありがたい限りですが……。そもそもどんな世界なのですか?」
「うーん、それは生まれてから知れると思うし、焦らなくていいんじゃないかな? 安心して、責任もって安全な生まれ方をさせてあげるから」
女神様にそこまで言われたら仕方ないな。とりあえずスキルがある世界みたいだし【雷属性魔術】ってことは魔術もあるようだ。これでも前世ではそこそこのゲーマーだったのだ。スキルや魔術には憧れがある。
「基本的には前世で取った資格をスキルに変えて持たせてあげようと思うけど、迷惑料として好きなスキルを三つ追加して送り出そうと思うの。何か希望は……と、どんなスキルがあるかわからないわよね」
そう言った女神は一冊の本を渡してくる。そこにはスキル名と説明が書いてあった。パラパラとページをめくり、自分に渡される予定のスキルと新たに取得したいスキルを見ていく。
【錬金術】錬金術が使える
【教導】仲間の成長を促進する
【神聖術】治癒と滅魔の術を使える
【精神異常耐性】精神異常への耐性を得る
【感覚強化】感覚が鋭敏になる
【鑑定】モノを鑑定し情報を得られる
【雷属性魔術】雷属性の魔術が使える
これが資格を変換して得られるスキルか。説明が大雑把だが何となくわかるな。ただこれだと魔術戦闘しかできなさそうだ。それを加味して選んだスキルが
【召喚術】召喚術が使える
【剣術】剣術が上手くなる
の二つ。自分が戦う用の【剣術】と1人にならないための【召喚術】だ。さて、あと一つは何にしようかな。もう一種類くらい魔術か武器のスキルを取っておこうかと思ったが、とあるスキルに目が行き離せなくなる。
【限界突破】???
説明になってないぞ。ひょっとして女神でもわからないスキルなのだろうか。こういうのってワクワクするし後で有用なものに化けたりするんだよな。ゲーマーの勘が言ってる。よし、最後の一枠はこれにしよう。
「選び終えたみたいね。じゃあ送り出すけど、最後に何か質問とかあるかな?」
「何か使命とかありますか?」
「無いわ。あなたの使命はこの世界に来たことで終わってる。強いて言うなら、この世界を楽しんで欲しいかな。じゃあ、行ってらっしゃい」
女神との記憶はそこで途切れている。
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