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雷下の改新〜霹靂伯の異世界教育改革〜  作者: 囲魔 美蕾


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第18話 出発と炭酸水

 王都に出発する日が来た。王家の紋付き馬車に近衛騎士が1個小隊と豪華な並びである。騎士を束ねるのは僕でも知っている近衛騎士団隊長の一人、グラムだ。短く揃えられた髪にガッチリとした体格で、見た目通りの剛腕を持って剣を振る姿から「剛剣」と呼ばれている。動作も隙がないように見て取れる。さすがは近衛騎士団の隊長を務めるだけあって強いな。まぁアルゴの方が強いけど。騎士である限りアルゴに勝つのは無理だろう。「騎士」という情報の塊であるアルゴは、勿論現在生きている騎士の情報も持っているわけで、情報は筒抜け、能力は上位互換なのだから。


「遠いところありがとう、グラム。皆さんもありがとう」


 ライラ殿下が騎士団に挨拶をしているうちに、伯爵家の皆と一旦の別れを済ませる。そんなに長く離れるつもりはないけど、それでも皆寂しいらしく、次々に挨拶の言葉を述べてくる。その中にはサラの姿もあった。実は、現在サラは授業のときだけ孤児院に行き、普段は伯爵家で使用人の研修中なのだ。正式に雇用する前のインターンみたいなものである。他にもサラと同い年の少年少女が何人か孤児院から来ている。彼ら彼女らも教養を修了しているので研修生扱いで、一般の使用人より少ないながら給料も出ている。子どもたちからすれば働き口があり、伯爵家からすれば教養が身についた優秀な使用人の卵を雇用できる。まさにwin-winだね。そしてこの2ヶ月間で殿下もそれを見ているのだから国も変わっていくだろう。……陛下からの手紙でその変化の中心に投げ込まれるのがなぜか僕なんだけど。その辺は大人たちで頑張ってほしかったなぁ。とはいえ教育に携わった者としてワクワクしてはいる。国レベルの教育事業の立ち上げなんてそうそうできるものじゃないからね。


 さて、殿下と僕、それぞれの挨拶が終わったところでいよいよ出発だ。

 と思ったところで、グラムがアルゴを見て心底驚いたように言う。


「よもやここまでの騎士に出会うことになるとは。それだけでもここに来た甲斐があったというものだ」


 どうやらグラムはアルゴの強さを一目で見抜いたらしい。差がありすぎては力量差もわからない。グラムはかなり強いようだ。


「近衛騎士団の隊長殿にそう言っていただけるとは光栄の至りです」


 こう答えるのはアルゴ。召喚当初と話し方が違うのは、見た目に合わせて変えたからだ。こういう話し方をする騎士も当然いるので変えるのはとても簡単だった。イケメンがイケてる声でイケてることを言うと、すごく様になるなぁ。

 このまま腕試しとか言って戦うことになるかと思ったけど、さすがは隊を束ねる者というべきか、グラムは冷静だった。


「これほどの強者と立ち会えないのは無念だが任務が優先だからな。今度会ったときには一戦お願いする」

「えぇ、私で良ければお願いいたします」


 その後僕を見て眉をピクリとさせるグラムだがそれは一瞬で、今度こそライラ殿下と僕は馬車に乗り込んで出発となる。挨拶は済んでいるから言葉を発したりはしないが、お互いの姿が見えなくなるまで僕と皆は手を振り合っていた。



 馬車での旅は快適なものではない。道は整備されてはいるが舗装されてはいないのでガタつく。すると起こるのが乗り物酔いと体の痛みである。ライラ殿下は慣れているようで平気そう……いや、抑えられているけれど、僕は結構キツかった。ということで取り出したのは炭酸水の入った瓶である。


「アイン様、それは何ですか?」

「これは炭酸水という飲み物です。水に泡を混ぜ込んで作っているんですが、これを飲むと酔いが少しマシになるんです」


 水魔術で溶解度が大きい水を作り、風魔術で空気中の二酸化炭素を混ぜ込むという合わせ技で作ってみた。いやぁ、魔術さまさまだなぁ。説明すると殿下もやはり酔っていたようで、


「本当ですか? 実は私、少し酔ってしまっていて……」


 と言うので


「では、これをどうぞ」


 と言って予め用意してあった瓶を渡す。当然殿下の分も作ってある。そしてこれは珍しく甘味料を入れた飲み物なのだ。


「えっ、甘いです!」


 と殿下が驚くほどにはしっかり甘い。甘さの秘密は麦と米だ。米にはデンプン、麦にはβ-アミラーゼという酵素が含まれている。アミラーゼは唾液に含まれているものだが、そちらはα-アミラーゼで麦のものとは異なる。デンプンはたくさんの糖が繋がってできている。その繋がりをアミラーゼは分断して、甘みのないデンプンから甘みのある糖にするわけだけど、αの方は切り方が色々あり、βの方は端から一定間隔で切っていく。当然色々混じったものより一種類の方が味を感じやすいので甘いのだ。よって、デンプンとβ-アミラーゼを混ぜ、β-アミラーゼが活性化する温度まで加熱してあげれば麦芽糖という甘味料のできあがりだ。米と麦をそれぞれ処理しないといけないから結構手間がかかるのが難点ではある。まぁ僕はやり方だけミラー商会に教えて作ってもらっているけどね。今はもっと生産性を良くする実験中で、大量に作れるようになれば麦芽糖を売り出す予定だ。

 前世ではアミラーゼの効果を確かめるために焼き芋を作る実験を授業でやったっけ。懐かしいなぁ。

 殿下の幸せそうな顔を眺めながら僕たちは王都へと近づいていくのだった。

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