第16話 孤児院の卒業生
「アイン様、ウチの子からついに一般教養を学び終えた子が出ました!!」
「え?」
いくらなんでも早すぎる。まだ教え始めて一ヶ月程度しか経っていないぞ。使用人ですら早くて半年で……。そうか、使用人はシフトで研修日のみ学習していたがここの子どもたちは伯爵家の使用人が入れ替わりで毎日やってきて教えているのだからそもそも頻度が違う。それに脳の成長的にも子どもの方が身につくのは早いという。ただ、簡単な内容に絞っているとはいえこの早さでの修了は尋常でない早さだ。
すると、運営員の後ろからすっと女の子が出てくる。もしかしたらこの子が?
「アイン様、ご紹介いたします。この子はサラ。申し上げた通り、教えられた一般教養を修めた者です。さ、ご挨拶なさい」
「はじめまして。サラです。私たちに学ぶ機会を与えてくださりありがとうございます」
この世界の成人は十六歳だから、十五歳までは孤児院にいることができる。サラは見た目からして卒業間近って感じかな。落ち着いており利発そうな子だと感じた。
「はじめまして、サラ。僕はアイン=シュタインだ。まさかこんなに早く学び終える子がいるなんて思わなかったからすごく驚いているよ」
「元から少しは勉強していたのです」
おや? 孤児院って元から勉強もできるところだったのかな?
「アイン様、サラは少し事情がありまして、学に触れる機会があったのです。こちらに来てからは院にある本を読み耽っておりました」
なるほどね。まあ事情は置いておいて、元から知識があったからここまで早かったんだね。本を読み耽るなんて、よほど知識欲が強いか、あるいは物語が好きかかな。僕は両方ともだから前世もそうだったし、特にゲームがない今世は本の虫だ。
「アイン様」
「ん?」
サラに呼ばれて思考を現実に引き戻す。
「教えていただいたことを活かして働きたいのですが、使用人の方に教わったことを一番活かせるのはやはり使用人だと思います。どうしたら伯爵家の使用人になれますか?」
「サラっ!!」
運営員がサラを叱責しようとするのを手を挙げて止める。サラは実に頭が良い。教わったことをどう活かすかまで考えているのだから。そして正解に辿り着いているし、僕がライラ殿下と一緒に来る日に偶然ぶつかるなんて運までついている。この子は結構な拾い物かもしれない。そう考えながら、サラに返答する。
「見た感じだとサラは孤児院の卒業が近いよね? まず、無事に卒業することを考えて。それで、卒業までの間に他の子たちに教える使用人の手伝いをしてほしい。使用人たちにサラの働きぶりを聞いて雇うか決めるよ。今、他人に教えられる人材がすごく欲しくてね。もちろん、働きに対しては対価も出す。とりあえず最初は一時間手伝うごとに鉄貨五枚、働きぶりによって上げることも考えるよ。一先ずこんなところでどうかな?」
鉄貨一枚が大体百円くらいだ。時給五百円なんて前世では法律違反だけどこの国の物価的に妥当だろう。なお、鉄貨の上は銅貨で一枚千円、その上が銀貨で一枚一万円、さらに上が金貨で一枚百万円、一番上が白金貨で一枚十億円に相当する。銀貨までは日本の硬貨や紙幣だと思えば良くて、金貨と白金貨はカンマが付く位置で区切っていると覚えた。英語で言うとミリオンとビリオンのところだ。
サラは一瞬驚きの表情を浮かべ言葉を詰まらせた後に、
「はい、よろしくお願いします!」
とはっきりと答えた。すると運営員にも同じくお願いされた。サラは良い前例になる。一番初めに修了したサラが貴族の使用人にまでなれると示せば、子どもたちの希望になるし、伯爵家という上位貴族が孤児院で教育を行い卒業生を雇い入れたという前例を作れば他の貴族も同じことがやりやすくなるだろう。そうやって、この世界に少しずつ教育の根が張ってくれれば良いと思う。
そんなことを帰りの馬車の中でライラ殿下に話すと、「実は……」とトーラス陛下からの手紙を渡された。父上宛じゃなくて僕宛? トーラス陛下が直々に?
馬車の中で読むと酔いそうなので屋敷に帰ってからゆっくりと読む。そこには陛下からの驚きの言葉が綴られていた。
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前略
久しいな、アイン。壮健にしているだろうか。今回はライラが世話になる。よろしく頼む。
実は其方の顔見せ会での「授業」を見た者たちから、自分たちも集団教育に手を出したいがやり方がわからないという問い合わせが多く届いている。正直私や宰相や大臣たち一同どうしたらいいかわからず、現状其方に頼るしかない。できればライラの帰りとともに王城を訪れてほしい。未成年の其方に頼るのは大人として情けないが教育を推し進めるために力を貸してくれないだろうか。
再会を願っている。
草々
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まさかのトーラス陛下からの呼び出し状であった。陛下からの召集であるからして行くしかないわけだけどまさかあの会がこんな大事になるなんて。
その晩、ライラ殿下も交えて家族会議。殿下が
「父の手紙がそのような内容だったとは……。申し訳ありませんアイン様」
と謝っていたが、そこは目立つことをした自分が悪いので殿下は悪くない。反省。
父上も母上も行くことに否やはなし。護衛も王家が用意してくれるから問題なく、王都にあるシュタイン伯爵家の別邸に宿泊すれば滞在にも困らない。何より陛下からの召集なので断るのは体面上良くないしで行かない理由がないからだ。
まあ、ティアは僕の専属だから着いてくるだろうしレイヌも霊体で着いてくる。個人的な護衛は問題ないどころか過剰気味だし、後の四人には家を守っていてもらえば良いかな。
そうして僕の王都行きが決まったのだった。




