第14話 公開授業
「今回のテーマは魔術です。では質問。そもそも『魔術』とは何なのでしょうか?」
突如始まった講義に騒然とする者たちと、興味深そうに見ているトーラス陛下とライラ殿下。その対比を見つつ講義は続く。
「魔力を使って現象を起こすことでしょうか?」
「そうですね。概ねその理解で間違いないと思います。起こせない現象もありますが、それはどうでしょう? 例えば、人間が飛ぶとか」
「起こせないものは起こせない……。説明が難しいです」
僕は飛べるらしいけど、それはまだ秘密だ。
「自然に起こり得ないことは魔術で実現不可能ということではないでしょうか?」
発言したのはまさかのライラ殿下。うーん、鋭いところを突いてきたなぁ。
「はい、そうです。魔力を使って『起こり得る現象』の再現をするのが魔術だと僕は考えています。では『起こり得ない現象』を実現するのは?」
「スキル……でしょうか?」
「素晴らしいですね。まさにその通りで、例えば【剣術】を持っている人が剣術を修めれば木剣でも岩や鉄さえ切ると言います。それは本来起こり得ないでしょう」
「なるほど!」
殿下の食いつきがすごいなぁ。そして賢い。
「ではなぜ【雷属性魔術】だけがスキルで、それを持つ者は四大属性魔術が使えないのでしょう?」
「雷は神の御技です。神の御力を行使するのは奇跡に近いのではないでしょうか」
今度答えたのはウチの使用人。いいね。その考察はかなり良い線を行っている。でも少し足りないな。
「でも雷は自然現象でしょう? それに他属性が使えない理由は?」
「うっ、それは……。他属性が使えないのは雷属性の強さ故かと……」
言葉に詰まる一同。でも仕方ない。これに関しては僕も正解と確信できる答えには辿り着いてないのだから。
「雷属性魔術が役立つとされ始めたのは最近ですが、神の捉え方と人間の捉え方は違うのでしょう。スキルである理由もそうかもしれません。僕も詳しくは分かりませんが」
使用人たちから「えっ」という声が上がる。僕が何でも知っていると思っていたのだろうか。
「僕だって知らないことはありますよ。全知全能は神の特権ですから」
今度はその場にいる全員がキョトンとした顔になった後クスリと笑った。良かった。掴みは上手くいったようだ。
「さて、では魔術を実際に使うときの話に移りましょう。魔術行使はどういったプロセスで行われますか?」
「詠唱をすれば使えます」
「それも正解の一つですね」
またもや場がざわつく。実は魔術行使って詠唱しなくてもできるんだよね。
「詠唱も一つのやり方です。実は他にもいくつかやり方があります。一つは陣を使う方法です」
「あっ」という声があちこちから漏れる。そう、陣を使った魔術は実用されている。特に貴族たちは知っている者もいるはずだ。使用人が知らないのは無理もないけど。
「大規模な魔術を行使する際はその魔術に対応した陣を描きそこに魔力を流し入れて行使することがあります。流し入れる人数に制限はないので儀式的に時折使われる方法ですね。もちろん一人で小規模な魔術を行使する際にも使えますが事前準備が必要ですね」
「一つということは他にもあるのですか?」
またライラ殿下の鋭い質問だ。そう、ある。そしてこれはとても理解しにくい。
「その前に一つ話します。詠唱にしろ陣にしろ実は魔術文字と呼ばれる二十六種類の字の組み合わせで魔術を指定しています」
これが面白いことに前世のアルファベットによく似ているため僕はあっという間に全部覚えてしまえた。一から覚えるのは結構大変かもしれない。
「そしてその文字に魔力を通すと魔術が発動します。そして僕たちの体を流れている魔力は魔術回路を通っている」
「あ!」と声を上げるライラ殿下と使用人たち。周りの大勢はまだピンときていないようだ。
「つまり魔術回路に直接文字を配置してしまえば魔力が通り抜けて魔術が発動します」
「でも、どうやって?」
誰しもが思う当然の疑問だ。そしてその解答を、僕は先生の訓練で得ていた。
「僕は魔術の訓練で魔力を操作することをし続けました。速さを変えたり、逆流させようとしてみたり。そして錬金術で物の形を変えることもできるようになりました」
「「「まさか!」」」
これには全員の驚きの声が重なった。
「そうです。錬金術で魔力を文字の形に変えるのです。錬金術師にしかできませんがその場で使える詠唱の良さとバレにくい陣の良さを両方備えているのがこの方法です」
驚きと、落胆。今までにない方法での魔術行使法を知り、そして自分には使えない方法だとも知ってしまった。錬金術師であれば良かったと生まれを嘆いてしまうかもしれない。でも大丈夫。これで終わりじゃないから。
「ところでこの紙を見てください」
と言って僕が取り出したのは普通紙だ。でもただの紙じゃない。
「この紙は今使用人たちがメモを取るために使っているものと同じです。この紙は僕が錬金術で作ったもので、今後ミラー商会から売り出される予定です」
どよめきが起きる。僕にとっては前世のコピー用紙みたいなものだが、この世界では間違いなく高級紙である。それが量産され売り出されるという。でもそれだけじゃないんだなこれが。
「さて、この紙には陣が描いてあります。これに魔力を通すと……」
瞬間、ピカっと眩しい光が辺りを包み消える。
「このように、私の使える【雷属性魔術】が発動します」
今日一番の驚きで皆の目が大きく見開かれる。やったことは単純で、あらかじめ紙に書いてあった陣に魔力を流しただけ。それで魔術が発動したのだ。
「これをスクロールと呼びましょうか。こちら、各属性に対応したものを開発中です」
歓喜の渦に誰しもが包まれた。これからは魔術が簡単に使える時代が来るのだ。
「なのでウチの使用人の皆さんは魔術文字を覚えましょう。作るのに協力してもらいますから」
使用人たちの目がギラギラとしていく。当然働いたら対価が発生する。僕は雷属性の魔術しか知らないから四大属性は誰かに作ってもらわないとね。
「では、今回はここまで。起立、礼」
多くのギャラリーを前にした公開授業が終わった。




