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第3話〜中間管理職って大変一生ヒラでいいです〜


「なぁ、ちょっと真面目な話がしたいんだが」

順応性が高いのか、図々しいだけなのか、 俺の家にあるものの中で唯一のシャレたクッションに頭を埋めてリラックスしてやがる。


(もちろん俺が買ったやつじゃない。会社の懇親会のビンゴであたったやつだ!ドヤ)


俺の声かけに応じてアサヒ(仮)がストンと正座をして俺の方に向いた。


「、、、ええと、、今更だけど、名前アサヒ、って呼んでもいいか?、、、仮だけどな」



「アサヒ(仮)ですか?」


「いやか?名前わかんないんじゃ呼ぶのに困るし」


「うれしいっ!」


「私はアサヒ」


「ありがとう りょう!!」


おいちょっと、反則だろうそれは!!

今まで業務的な会話しかしてこなかったことと、急に見せる嬉しそうな笑顔に俺の方が照れてしまう。


「で、昨日の続きだけど、アサヒの目的はあの怪人とかモヤモヤを浄化することなんだよな?」


「そう」


「って事は、この間俺に起きたあのすごい力はアサヒのちからってこと?」


「そう。わたしは力。あなたは使い手」


「じゃあ、何?やっぱりアサヒは何かの精霊とかって事?」

俺はちょっとワクワクしながら聞いてみた。


こてん。

首を横に傾けてアサヒは不思議そうな表情をする。


え!?

ちょっとそんな仕草するなよ!

確かに現実味無い質問だったけどさ、

怪人吹っ飛ばしたり、変身とかしたじゃん。

俺の手はあたふたと空を舞っている。


「そうだ!そういえば、あの格好もうちょっとなんとかならないか?」


流石にあれは放送禁止になるんじゃないか!?


肩にはやたらゴツい装甲。

腕には無駄に強そうなパワーアーマー。

胸元には、謎に発光する星型コア。

ここまでは正義のヒーローっぽくて俺の中の厨二が目を覚ま、、ってそこまでは良かったんだよ100歩譲ってな!


なのに――

なんで下ハーフパンツなんだよ!!


つっこまずにはいられない。

いい歳した大人がハーフパンツって!!

完全にアウト案件だろ!


「ごめん。無理」


アサヒの肩が揺れている。

お前笑ってるだろ!!


「お前の力だろ!制御しろよ!!」



「さっき言った。私は力だけ。力があってもそれはただあるだけで使うのは、りょう」


ってあれか、あの恥ずかしい姿は俺の中から出てきた何かなのか!?

学生時代、拗らせたツケがこんなところで回ってきたのか!?

おーい、中学2年性の俺、真面目学生しとけよなぁ!!

って本題を忘れちゃいけない。

俺はアサヒに向き直ると話を続ける。


「話を纏めると、ストレスが溜まるとそのパワーによって人が怪人化する。

その怪人を浄化できるパワーを持つのがアサヒで、そのパワーを借りて俺が怪人を倒すってのであってるか?」


「大体あってる。浄化したら私のパワー上がる。上がったら使える技、増える」


「マジか!!もしかして魔法とか使えたりできるようになるのか!?」


「わからない。けど、可能性、、あると思う」


よっしゃー!!俺は思わずガッツポーズを取る。殴るだけなんてちょっと単純すぎだもんな。魔法かぁー!ワクワクするぜ。



この時、俺は浮かれていたが、後になって、先ほど自分で言って後悔した、厨二病の自分に後悔する事になるとはつとも思わなかった。





昼休み前だというのに、デスクの上はすでに荒れていた。


赤字だらけの資料。

「至急」「再確認」「差し戻し」と書かれた付箋。

開きっぱなしのメール画面には、新着の通知が途切れない。


マウスを動かす手は止まらないのに、仕事は減っている気がしなかった。


――また修正依頼。


さっき直したばかりのファイルが、もう戻ってくる。


息をつく暇もない。



「、、、終わるか、これ」


ふと窓の下を見ると、

軽装(ワンピース一枚)のアサヒを発見。

アラレもない姿に一気に仕事モードが崩れる。

(やべっアイツあの服しか持ってなかった)

慌てて下に降りる。


「家で待ってろって言っただろ!

こんな所でなにしてんだよ」


「ストレッサーストーンの反応。呼ばれた。」


いやいや、、わからんでもないが、こんな格好でうろつかれたら目のやり場がない。

それに、昨日の今日、みたいな状況で、俺の心の準備もできてない。

なぁ、生活の基盤って大事だろ!?

頭の中でごちゃごちゃ考えていると


ずいっ!


とアサヒが例の首からかかっているペンダントを差しだしてきた。

あんな綺麗だったペンダントが鼓動していた。

液体でも煙でもない、形を持たない何かが、瓶の内側を舐めるように広がって波のようにうねっている。


禍々しい色だった。


見ているだけで、胸の奥がざわつく。


うわぁ。


これは見るからにヤバいやつだ。


「この中にいます。」


アサヒは迷いなく俺の社内を指差した。


だがしかし!こんな少女といるところを会社の人に見られるのはまずい。


「来いアサヒ!

手を引いて空き部屋に移動しようと振り向いたその時、


ドンッ!!


中間管理職山田だった。


スーツはくたびれて

黒のはずなのに、ところどころ白っぽく擦れている。肩は落ち、背中は丸い。

ネクタイは緩み、シャツの襟にはうっすらと汗染み。

目の下には濃いクマ。

焦点の合っていない視線が、どこを見るでもなく漂っている。

手にはスマホ。


不可抗力で見えてしまった画面には、未読の通知がいくつも積み上がっていた。


「すみま、、、」

言い終わる

その瞬間


バキッ


嫌な音がした。



「、、、え?」



山田の身体が、不自然に歪む。



内側から、何かが押し出されるように。



次の瞬間。



弾けた。


背中が膨らむ。

肩が歪む。

スーツの縫い目が、耐えきれずに裂けた。


黒いモヤが、噴き出す。


煙のようで、液体のようで、

どちらでもない“何か”。


それが山田の身体にまとわりつき、

形を変えていく。


「、、、無理なんだよ」


声が、低く、濁る。


「上からも、、、下からも、、、」


顔が歪む。


いや、顔じゃない。


“顔だったもの”が、引き延ばされていく。


「挟まれて、、、逃げ場、ないんだよ、、、」


モヤが固まる。


輪郭ができる。


それはもう、人間じゃなかった。


スーツは相変わらずくたびれていた。


ただし、サイズが合っていない。


いや、正確には――身体の方が合わなくなっていた。


上半身だけが無駄に膨れ上がり、

ジャケットのボタンは弾け飛んでいるのに、


脚は妙に細いままだ。


バランスが悪すぎて、見ていて不安になる。


背中からは黒いモヤが噴き出しているが、

その形がいちいち定まらない。


煙みたいに揺れたかと思えば、

一瞬、ネクタイの形になり、

またすぐ崩れる。


「、、、は?」


思わず声が漏れた。


腕が、伸びる。


いや長い。


長い上に、妙にしなっている。


先端は、クリップみたいに歪んでいた。


カチカチと、意味もなく開閉している。


急に、背中から噴き出した黒いモヤが、

なぜか“ハンコ”の形になった。


「承認」


「差し戻し」


「至急」


意味の分からない文字が、

ぽん、ぽん、と浮かんでは消えていく。


「なんだそれ!?」

目まぐるしく押されるそれを俺は律儀に読み上げる。


極め付けには


「板挟み」


「限界!!」



「いやもう会社やめろ!!」

なんなんだよ!こんな状況なのに突っ込まずにはいられない。


「中間管理職!ヤマダ!!

調整!謝罪!そして残業!!」


例の如く胸には

"板挟み"

と印を押されている。


「前もだけど、ネーミングセンス疑うわ!!」


ドゴッと鈍い音を立てて

"怪人板挟み"は

俺の前に立ちはだかる


足が、すくんでびくとも動かない。



先日、見た光景。



だが、今回は違う。



近すぎる。

動けないでいると


「りょう!」


名前を呼ばれた。


やっとのことで振り向くと


アサヒが、こちらを見ている。


「りょう!私を受け入れて!!

変身して!!」



「無理無理無理!!動けない!!

そもそもどうやって変身するか聞いてないんだけど!!」


視界の端で、黒い影が振りかぶられる。


「板挟みッ!!」


巨大なハンコが、振り下ろされる。


死ぬ。

終わった。

そう思った、その瞬間だった。


目の前に、影が差し込む。


「、、、え」


現れたのは、アサヒだった。


細い背中が、視界いっぱいに広がる。


「やばい!やられる!」


反射的に、手が伸びた。


守らなきゃいけない、と思った。

アサヒを庇おうと全身でアサヒを抱きしめたその瞬間。

ぱぁぁぁぁん

乾いた音と共に、光が弾けた。

腕の中の感触が、消える。身体がほどけるように、光へと変わっていく。


人の形を保ったまま、


その輪郭だけが、淡く揺れている。


精霊体。


そんな言葉が、なぜか頭をよぎる。


次の瞬間。


流れ星みたいな光が、一直線に落ちてきた。避ける暇もない。

――貫かれる。


そう思った。


光が、心臓を一突きした。


痛みは、なかった。


代わりに――


熱が、満ちる。


「うぉぉおおおおおおお!!」


身体の奥から、何かが溢れ出す。


前にも感じた、“あの感覚”。


それが、何倍にも膨れ上がっていく。


光が、体をなぞる。


肩を撫でるたびに、硬質な感触が生まれる。


――装甲。


腕に、まとわりつく。


――アーマー。


胸の中心で、光が弾ける。


――星が、灯る。


鼓動と重なるように、それは強く輝いた。


そして。


一瞬の静寂。



視線を落とす。


目に映ったのは真面目な、ハーフパンツだった。


「やっぱりかよ!」


もういいよ!!諦めるさ!!

ヤケクソだ!!


顔を上げる。


胸の星が、ドクンと鳴る。


ぐっと腰を落とし


足に力を込める。


逃げ場なんてない。


だから、踏み締める。


前に出した指先が、まっすぐ敵を捉える。


迷いはない。


その先にあるのは――明日だ。


撃ち抜くように、指を突き出した。



「聖なる星の使者——

聖闘社⭐️リーマン!!」




さっきまで震えていた足が、嘘みたいに動く。


視界がクリアになる。


ドンッ!!


振り下ろされるハンコ。


地面がめり込んだ。


軌道。


速度。


全部、分かる。


――避けられる。


身体が、勝手に動いた。


紙一重でかわす。


風圧が頬をかすめる。



自分で動いたのに、自分じゃないみたいだ。



「承認ォ!!」


また振る。


ドンッ!!


「差し戻しィ!!」


ちょっと待て。


一撃ごとに叫ぶのやめろ。


「至急対応ォ!!」


うるさい!


しかも全部仕事ワード!!


黒いモヤが飛び散る。


よく見ると、


「承認」「差し戻し」って文字が浮かんでる。


「なんでだよ!!」


そのまま飛んできた“承認”に当たりかけて、慌てて避ける。


当たった地面が、


ぺたん、とハンコみたいに凹んだ。


「最悪だろその攻撃!!」


「調整!謝罪!そして残業ォ!!」


フルコンボきた。


「対象、攻撃パターン単調」


頭の中で、アサヒの声が続く。


冷静すぎる。


「対処可能。殴って!」


一歩、踏み込む。


迷いがない。


怖さも、ない。


いや――違う。


怖いはずなのに、それが“処理されてる”。


「板挟みぃーツラーイ!!」


叫びと共に、ハンコが振り上がる。


「調整!謝罪!そして残業ォ!!」


――来る。


分かる。


分かるなら、


やれる。


「、、、っ!」


腕を振るう。


紫の光が、軌跡を描く。


その一撃が、


山田の身体を、大きく揺らした。


「あ"、、、ぁぁ」


初めて、声が揺れる。


その隙に、さらに一歩。


距離を詰める。


「楽に、、、なりたいだけなんだよ、、、」


かすれた声。


その言葉が、妙に残る。


胸の奥に、引っかかる。


――でも。


やらななくては!



「りょう、集中してっ!!」


内側から、声。


「今です」


拳に力が集まる。


だが、さっきとは違う。


どこか、不安定だ。


光が、わずかに揺れる。

逃さないと全力の力で拳にパワーを集めて

一気に振りかぶった。


「うおおおおお!!


、、、代 表 者 者 印ッ、、、」


言いながら、自分でも分かる。


これ、本物じゃない。


借り物だ!!


「(代理)!!」


踏み込む。


振り抜く。


一瞬だけ――


拳が、異様に膨れ上がる。


遅れて、衝撃が爆ぜた。


身体が、動く。


最後の一撃が、放たれた。


大きく膨れ上がった

"怪人板挟み"の体に、ぽっかりと穴が空いた。


そこから、黒いモヤが流れ出す。


どろりと重く、淀んだそれは――


次の瞬間、一気に噴き上がった。


夜空へ。


一直線に。


まるで、打ち上げ花火みたいに。


「、、、っ」


見上げる。


黒が、空に伸びていく。


そして。


ぱんっ――


弾けた。


闇が散る。


その奥から、光が滲み出した。


キラキラと。


やわらかく、ほどけるように。


広がった光が、ゆっくりと形を作っていく。


線になり、


やがて――文字になる。


『承認おめでとう』


無機質なはずの言葉が、


なぜか、少しだけ優しく見えた。


「、、、あ」


思わず、声が漏れる。


これが浄化の力なのか。


黒いモヤは、もうどこにもなかった。


キラキラと光る粒だけが、


静かに、夜空から降っていた。


「、、、終わった、、、?」


膝をついたまま、しばらく動けない。


呼吸が、まだ整わない。


視界の端で、光の粒がゆっくりと落ちていく。


キラキラと。


さっきの“花火”の名残みたいに。


「、、、りょう」


声がした。


静かで、少しだけぎこちない声。


顔を上げる。


そこに、アサヒが立っていた。


さっきまでの光はもう消えていて、


いつもの、小柄な少女の姿に戻っている。


ワンピース一枚で、場違いなくらい普通に。


「、、、終わった、です」


少し間を置いて、そう言った。


「ああ、、、みたいだな、、、」


うまく力が入らないまま、なんとか答える。


アサヒは、こちらをじっと見ている。


無表情に近いけど、


ほんの少しだけ――やわらいでいる気がした。


「、、、怖かった、ですか」


「そりゃな」


即答だった。


「めちゃくちゃ怖かったわ」


少しだけ、笑う。


自分でも情けないくらい、弱い声だった。


「でも、、、助かった」


そのまま、続ける。


「お前のおかげで」


アサヒは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。


それから、小さく頷く。


「、、、はい」


その返事を聞いた瞬間、


ふっと力が抜けた。


限界だったらしい。


改めて、膝に体重が落ちる。


もう、立てる気がしない。


しばらくそのままの体勢で、息を整える。


吸って、吐いて。


遅れて、現実が戻ってくる。


床の冷たさとか、


やけに静かな空気とか、


さっきまでの異常さが、嘘みたいに遠ざかっていく。


――いや無理。


普通に無理。


「、、、しんど、、、」


思わず漏れた。


情けない声だった。


さっきまで怪人と戦ってたやつの声じゃない。


「、、、中間管理職、やばすぎるだろ、、、」


ぽつりと呟く。


山田の顔が、ふと浮かんだ。


あの歪んだ姿も、


最後の、あの花火も。


「、、、あれが、普通、、、なのか、、、?」


ぞわ、と背中が冷える。


助かったはずなのに、


別の不安がじわじわと広がってくる。


「俺、、、これからやっていけるのか、、、」


答えは、出ない。


ただ、心臓の音だけが、


やけに大きく響いていた。

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