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第二話〜居候は精霊(仮)ということにしておこう〜

「……眠い」



満員電車。


ギュウギュウに押し込まれながら、俺、聖川 良は死んだ目で吊り革を掴んでいた。



(昨日のあれ、夢……じゃねぇよな……)



「次は〜〇〇〜」



現実は容赦なく始まる。


「聖川ー、この資料運んどいて」


「はい……」



ダンボールを持つ。



「……重っ!!」



思わず声が漏れる。



(いや待て)


(昨日あんなにバキバキに動いてたよな俺!?)



腕がプルプル震える。


普通に重い。


普通にしんどい。



「……筋肉痛かこれ……?」



全身がじんわり痛い。


むしろ昨日より弱くなってる気すらする。



(昨日の力、どこいったよ……)



脳裏に浮かぶのは、あの光景。




あの戦い。


あの声。


そして――


あの少女。



(そういや……)

昨日の出来事を思い出す。




あれから、あんな夜に薄着の少女を放置できるわけもなく、俺のワンルームに連れて帰った。

土埃で汚れていたので、シャワーを促し、今はローテーブルに対面し一息つこうかというような状況だ。

彼女に麦茶を一杯。俺は缶ビールの栓を開ける。


プシュッ。


一口、流し込む。



……飲んでないと理解できる気がしない。


改めて少女を見ると、年は……中学生か、高校生くらいか。

バレエでもやってそうな整った顔立ち、外国の血が入ってそうな雰囲気もある。


「あ、改めまして、俺の名前は聖川ひじりかわ りょう君の名前を教えてもらっても良いかな?」


少女は伏目がちな表情でポツリと答える


「わからない」


ちょ!わからない!?

出だしからこっちがわからないんですが!

取り乱しそうになったが、冷静さを装う。


「なんであんなところに?」


「それは、このストレッサーストーンが反応したから」

そう言って少女は首から下げた細かい装飾のされた香水ビンのようなペンダントを見せた。

「ストレスが臨界に達した場所を感知します」


綺麗な見た目に反してイヤな道具だな。


「人、ストレスフルになると怪人になる」


俺は口に含んだビールをふきたしそうになったが無理矢理喉の奥においやる。

少女を見るとふざけている様子はなく、真剣に話をするので、嘘では無さそうだ。

それに今日実際に俺は見た、、、。

矢島が怪人に変化したのを。


ちょ、本当にアルコール入れてて良かった。

シラフだとこの状況受け入れがたすぎだろ。


それに――あの力。


自分に起きた異変。


頭に流れ込んでくる少女の声。


変なスーツ。


自分とは思えない俊敏さ。


怪人を殴り倒す力。



あれは、どう考えても俺のものじゃない。


そして

実際にいる目の前の少女。これは紛れもなく現実だ。正体不明の女の子を家に連れ込んできてしまってる状況。どう考えても善良な大人のやる事ではない。

ただただ、迷子の子を家に保護しているだけだったらどれだけ良いか。いやそっちでもダメだろう。


もっとこの状況わかることねぇのかよ。

口数の少ない少女にもっと根掘り葉掘り話を聞こうと頭を持ち上げたと同時に


バタン。

と少女が床に倒れた。


「ちょ!!おまっ!!どうしたんだよ!!」


机の上のビール缶が倒れて中身が溢れている。

どうやら俺が葛藤してる間に俺のビールを飲んだらしい。


ため息をつき、


テーブルに倒れた空き缶を見る。



「……名前」



「アサヒ(仮)でいいか」




ふう。

てかあいつ今、家にいるよな……)

一抹の不安がよぎりぶるっと身震いする。


(絶対なんかやらかしてる気しかしないんだが)



……いや、気のせいであってくれ。



――帰宅。


「ただいまー……」



ガチャ。



「…………」



一瞬、思考が止まる。



「……なんでだよ」



部屋の中央。



アサヒ(仮)が、正座していた。



その周りに――


コンビニ弁当の空箱、空箱、空箱。



いや、まだある。



空箱、空箱、空箱。



「え?」




「エネルギー補給。食べるものが何も無かったから買いに行った。」


少し申し訳なさそうなそぶりもあるが流石に


「やりすぎだろ!!」

思わずツッコミを入れる。


「……時短効率を、優先しました」



「ゴミの山が非効率なんだよ!!」


空箱を集めた

大きなゴミ袋袋を持ち上げる。



「これ何個分だよ……」

呆れてアサヒ(仮)の方に視線を向ける。


「12食です」



「成人男性でも無理だわ!!」



少女は首をかしげる。



「ちょうど良く、お腹いっぱいになりました」



「お前の基準どうなってんだよ!!」




ふと、テーブルに目がいく。



「……待て」



「俺の財なんでここに?」




「朝からそこにありました」



少女が指さす。


空っぽの財布。



「……あるな」



「あるけど!!中身がねぇんだよ!!」



「支払いに使いました」



「見たらわかるわ!勝手に使うな!!」



「必要経費、、、ってことで、、、。」



「俺の生活費なんだよ!!」


朝財布を忘れて出かけてしまった自分を呪いたい。

頭を抱えていると、


「あと」



少女が、テレビを指さす。


なんだよ、まだあるのかよと指さす方に視線を合わせると、


バキッと割れたリモコン。



「これは、どういうこと?」



「耐久……テスト……?」


アサヒ(仮)が、ほんの少しだけ視線を逸らす。



「なんでだよ!!」



「人間の道具は脆弱です」



「お前が強すぎんだよ!!」




「……はぁ……」



その場に崩れ落ちる俺。



「俺の生活、終わった……」



少女が、少しだけ覗き込む。



「ごめんなさい、、、?」



「謝れば済むってもんじゃない!!」


なんの仕打ちなんだよ。

会社で取引先からの無茶な要求に対応し、上司からはこき使われ、その上、疲れて帰ってきてこれはないだろう。

もう、出ていってもらおう!

そうしよう。

そう思い顔を上げると



アサヒ(仮)が、ぽつりと呟く。



「……ですが」



「?」



「私は、貴方と居たい」



「……は?」



「貴方とじゃないと意味がない」



「貴方といると――」



「私の中のエントロピーが収束するから」


「、、、。」


何も出る言葉が無かった。

もう俺の頭は理解することを諦めたらしい。


……もういい。



この少女は精霊か何かなんだろう。



そういうことにしておこう。



「だから、私ここに住むことにします!!」



「決定事項かよ!!」


喉元まで出ていけ!と出ていた言葉もどこかへ消えていくほどの強制力。これも少女の能力なのか、

そうやって俺の自由気ままな社畜生活が終了した。



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