死霊侯爵ガミジン
「さて、あの悪魔とアンデッドで二手に分かれましょうか」
「・・どっちがどっちを担当する?」
「私は個人を相手するよりは多数を相手した方が得意ですね。しかもアンデッドですし」
「・・ならあの悪魔は私に任せて」
「任せました!」
そう言ってララは"精霊化"をすると、エルフの里に群がるアンデッド達を殲滅し始めた。
ララは対アンデッドであればディスターに匹敵する殲滅力を持つ。
数は膨大だが、ララなら大丈夫だろう。
"ベヒモス"に搭乗するエルザはそうして死霊侯爵ガミジンに向き直った。
先程からガミジンからは尋常でない怒気をエルザは感じていた。
「3人全員で儂を相手するのかと思えば」
ガミジンはそう言うと、手に持つ杖を握り潰した。
「まさか無視された上、たった1人でこの儂を倒せると思われるとは。ここまでの侮辱は生まれて初めての経験だ」
「・・何事も経験。貴重な経験が出来て、良かったね?」
エルザがそう言うと、ガミジンは黙り込んだ。
黙り込んだというより、あまりの怒りに震えているらしい。
エルザの口撃はここでも炸裂していた。
「貴様は殺す。腕を潰し、指を折り、爪を剥ぎ。痛みに泣き叫ぶ貴様の顔を見ながら最後に殺してやろう」
ガミジンの莫大な魔力が更に跳ね上がる。
エルザはここまでの魔力の持ち主をディスター以外に見た事は無かった。
死霊侯爵ガミジン。
地獄界を治める72人の魔神"ゴエティアの悪魔"。
死霊侯爵ガミジンと言えばその中でも序列4位と言われている。
序列が直接強さの順ではないと聞くが、それでも御伽噺に出てくるような強さの持ち主であるはずだった。
それはこの莫大な魔力量からも十分に推測できた。
面白い。
エルザを支配していた感情は恐怖ではなく興奮であった。
この"ベヒモス"はディスターと作り上げた人類史上最高傑作の魔導鎧だとエルザは自負していた。
この"ベヒモス"が負けるはずがない。
訓練こそしていたものの、実戦ではこれが初の戦闘となる。
死霊侯爵ガミジン。相手にとって不足なし。
さぁ、"ベヒモス"。
暴れよう。
エルザは"ベヒモス"の出力を最大まで上げた。
エルザの膨大な魔力量をもってしても"ベヒモス"の最大出力での戦闘は30分が限界だ。
その後もアンデッドと戦闘を行う事を考えれば、なるべく素早く戦闘を終えなければならない。
森の木々を傷付ける事になるが、エルザは切り札の使用も覚悟した。
「"降霊魔法"」
ガミジンが魔法を唱えた。
ガミジンを中心として黒い光の柱が立ち上がり、ガミジンの姿が黒い光の柱に呑まれた。
「"剣聖アレクサンダー"」
次にガミジンが姿を現した時、その姿は老人のものではなかった。
金髪の長髪に切れ長の目。
豪奢な白い鎧を身につけ、その手には黄金に輝く剣が握られていた。
剣聖アレクサンダー。
もしそれがエルザの知る人物だとしたら、今目の前にいるガミジンは"大英雄"をその身に降霊した事になる。
「さぁ、少しは楽しませてくれ」
◇
エミリアはまず広場全体に結界を展開した。
精霊魔法が飛び交うこの広場を放っておけば里の建物や木々に被害が広がってしまうからである。
次にエミリアが取った行動は暴れている人と暴れてない人の仕分けであった。
エミリアは結界の中央に薄い結界を展開し、広場全体を囲う結界を2つのエリアに分けた。
「操られてない人はこちら側に来てください!」
エミリアの声かけに操られてない人々が動く。
それによって操られている人と操られていない人が明確化された。
エミリアは操られている人々を1人1人結界で囲った。
その作業を何度も何度も繰り返し。
ついに操られている全員を囲う事に成功した。
「ヤマト王国の王女様。この後はどうするのですか?」
操られていないエルフの女衆がエミリアに不安そうに尋ねた。
「このまま、彼らを操っている術者を倒すまで待ちます」
「そんな、他に方法はないのですか?」
「大丈夫です」
エミリアは力強い口調で言った。
「私の仲間たちが、必ず術者を倒してくれますから」
◇
「"ミラージュ"」
ララは何人にも分身し、その全てが上空へと浮遊していった。
「"エンシェント・レイ"」
ララの分身の全てから極大の白い光の光線が上空から地上にいるアンデッド達に降り注いだ。
ララの光魔法は基本的に光線が中心である。
光線はその性質上直線上の障害物も巻き込んでしまう。
そうすると必要以上に森の木々を傷付けてしまうので、ララはわざわざ上空から魔法を撃ち下ろしているのだ。
何度も上空からアンデッド達に光魔法を撃ち下ろす。
アンデッド達にとって光魔法は天敵である。
その効果は絶大であった。
何度か同じ行程を繰り返すと、アンデッド達の数が目に見えて減ってきた。
だが、倒しても倒してもアンデッド達は霧の中から姿を現した。
キリがない。
恐らくアンデッド達はあの死霊侯爵を倒すまで現れる続けるだろう。
ならば自分の役目はアンデッドを全滅させることではなく、アンデッド達を里に近づけさせない事だ。
ララがアンデッド達を空中から殲滅していると、頭のない馬に乗った、頭を小脇に抱えた黒い鎧の騎士が空中を駆けてきた。
馬の足には炎が轟々と燃えており、騎士の右手には巨大な剣が握られていた。
この出で立ちは死霊であるデュラハンだろう。
「ずいぶんと我が軍を殲滅してくれたようだな」
ララはアンデッドの殲滅は分身に任せ、本体は頭のない馬に乗るデュラハンに向き直った。
「そちらこそ、ずいぶん大所帯で攻め込んでくれましたね」
「ふん、こんな里などすぐに呑み込んでくれよう。だが、それには貴様が邪魔だ」
デュラハンは剣を上段に構えた。
そして馬がララに向かって駆け出した。
「ぬん!」
デュラハンは気合い一閃、上段から剣を振り下ろした。
「"ミラージュ"」
ララは魔法を唱えると同時にデュラハンの剣がララを両断した。
しかし両断された2つの身体はそのまま2人のララとなった。
「"シャイニング・レイ"」
2人のララから白い極光の光線がデュラハンに向かって放たれた。
デュラハンは馬を駆り、その2つを避けると片方のララを剣で両断した。
「残念ハズレです」
両断されたララの姿が煙のように揺らぎ消えた。
「"ミラージュ"」
そして今度はララが3人に増えた。
3人のララはデュラハンを取り囲んだ。
「"シャイニング・レイ"」
3人のララから同時に白き光線が放たれる。
それをデュラハンは上に逃れた。
「"シャイニング・レイ"」
デュラハンが上に逃れた瞬間、アンデッドの殲滅をしていた内の1体の分身から白い極光の光線が放たれた。
それは頭のない馬に直撃し、馬は消し飛んだ。
空を飛ぶ手段を唐突に失ったデュラハンは地上に落下していく。
「"エンシェント・レイ"」
ララの本体から極大の白き極光の光線が放たれ、デュラハンに直撃した。
デュラハンは身体の大部分を消し飛ばされ、やがて煙のように消滅した。
「ふぅ、それではアンデッド殲滅の続きです」
ララは再びアンデッド殲滅に力を注いだ。
ララはいくら光の精霊であるオウラと同化しているとはいえ、既にかなりの量の魔法を使っている。
ララの魔力はかなり減ってしまっていた。
絶対にこの里に危害は加えさせない。
今踏ん張っていれば。
必ずエルザが死霊侯爵を倒してくれるはずだ。
ララはこの気持ちを支えに、魔法を唱え続けた。




