捜索
リーラが失踪した。
これはリーラ達が内通者である可能性もあると警戒していた俺のミスだ。
しっかりリーラにも気を配っておくべきだった。
だが、済んだ事を嘆いていても仕方ない。
今は行動しなければ。
「ああ、どうしましょう!リーラちゃんが心配だわ!私どうしたらいいの!?」
リーラの母ターラは酷く狼狽えていた。
実の娘が失踪したのだ、それも仕方ない。
「落ち着け。何かリーラが普段身に付けているものはあるか?服でも何でも良い」
「あ、あるわ!でも、何に使うの?」
「俺の使い魔に匂いでリーラを追跡させる」
だが、匂いが消えてしまう可能性がある。
時間との勝負だ。
「エミリア。俺はリーラを追う。エミリア達はこの事をシュリに伝えて、他の里の人達を1箇所に集めて守ってくれ。分散していると更に被害が増えるかもしれない」
「わかったわ」
「敵の黒い騎士達は気配がない。襲われる直前まで気が付けないから、注意してくれ」
「ディスター様もお気を付けて」
「・・ディスターならみんな救える」
「ああ、任せろ」
エミリア達はシュリのもとへ向かう為、家を出て行った。
俺もターラからリーラの服を受け取ると、家の外に出た。
そして魔力を右手に集中させる。
「ケルベロ」
俺がケルベロの名を呼んだ。
すると右の手の甲に魔法陣が浮かび上がり、魔法陣が光り輝く。
すると目の前に光の柱が立ち昇り、光の中からケルベロが現れた。
「あらぁ、大きなわんちゃんねぇ」
ターラは初めて見るケルベロに驚いているようだった。
他の里のエルフ達が何事かとこちらに駆け寄ってくる。
「ケルベロ、この匂いを追えるか?」
ケルベロはリーラの服の匂いを三つの頭全てで嗅ぎ取り、そして肯定するようにバウッ、と吠えた。
「よし、いくぞケルベロ」
ケルベロに先導され、俺はエルフの里を出た。
ケルベロは里を出て、更に霧の結界を超えて、森へと出た。
やはり、里の外に連れて行かれたのか。
今のところ俺の魔力感知の届く範囲にはそれらしい反応はない。
ケルベロは地面に鼻を擦り付けながら、リーラの匂いを辿る。
しばらく歩き続け、辿り着いたのは切り立った崖であった。
ケルベロが崖の岩に鼻を擦り付け鼻を鳴らしている。
この先にリーラがいるのか。
俺の魔力感知には今もリーラの反応はない。
だが、ケルベロの嗅覚はかなり鋭敏だ。
ここはケルベロを信じよう。
ケルベロが鼻を鳴らす先に魔力感知を集中させる。
すると、魔力が不自然にこの場所で途切れている事に気付いた。
この反応は結界の反応だ。
余りにも痕跡が巧妙に隠されていたので気が付かなかった。
俺は黒き極光の"鎧"を右腕だけに纏わせ、岩肌に触れた。
すると次の瞬間、パキン、という音と共に岩肌が消え、洞窟が姿を現した。
やはり、結界だったか。
お手柄だケルベロ。
俺はケルベロの三つの頭を順番に撫でた。
洞窟の中からは覚えのあるエルフ達の魔力が多数感じ取れた。
リーラの魔力の反応もある。
ケルベロと共に暗い洞窟を進む。
光はすでに届いていないので、視界は"暗視"の魔法で確保している。
ケルベロの方は夜目が効くので"暗視"の魔法は必要ない。
エルフ達の魔力の反応がある方へ歩いていると、やがて広い空間に出た。
洞窟の天井付近には何か結晶のような物が無数にあり、それが淡く光ってこの空間を照らしていた。
そして、そこには後ろ手で縛られるエルフ達がいた。
その中にはリーラの姿も見えた。
「サタン!」
リーラは俺の姿を見て叫んだ。
「後ろよ!」
リーラの声に後ろを振り返ると、黒い鎧の首のない騎士が巨大な剣を振りかぶっていた。
俺は身体強化の魔法を全力の出力で発動し、その剣を手刀で受け止めた。
ガキンッ、という硬質な音共に剣を弾く。
俺の手刀と打ち合ったというのに、その巨大な剣は刃こぼれ1つしていなかった。
それだけでかなりの業物だという事がわかる。
「ふむ、生身で我が剣を受けるか」
その騎士は首を左腕に抱えていた。
この姿。デュラハンか。
しかも厄介な事にこのデュラハンも気配が一切ない。
「我が名はムシュフシュ。死霊侯爵ガミジン様の騎士也。貴殿が勇者か?」
「ああ、そうだ」
「私はガミジン様よりこの洞窟を守護するよう仰せつかっている。創造神の走狗よ。我が剣の錆となって貰おう」
ムシュフシュと名乗ったデュラハンがそう言って剣を構えると、それに合わせて周囲に黒い鎧の騎士達が姿を現した。
「ケルベロ!リーラ達を守れ!」
ケルベロはバウッと吠えて次々と現れる黒い騎士達に襲い掛かった。
「いざ参る!」
ムシュフシュは剣を上段に構え、俺に一足で接近すると、その巨大な剣を振り下ろしてきた。
俺は手に"鎧"を纏い、その巨大な剣に手刀を叩きつけた。
すると今度は俺の手刀と打ち合ったその剣はその刀身が半ばで切断された。
「我が剣を斬っただと!」
後退するムシュフシュに追随し、その手の剣を蹴り飛ばした。
そしてその左腕に抱えた頭を右の拳で貫く。
「ガフッ・・ガミジン様・・」
頭を貫かれたムシュフシュは黒い煙となり、やがて消えた。
ムシュフシュが消えると同時に黒い鎧の騎士達も煙のように姿を消した。
気配が一切ないのは厄介だが、目視さえ出来れば大したことはないな。
あの気配のない黒い騎士達がムシュフシュというデュラハンの僕だとすれば、これで失踪騒動も片付くだろう。
しかし、気になる事がある。
死霊侯爵ガミジンといえば、この世界の地獄の72柱の魔神"ゴエティアの悪魔"のうちの1人であった筈だ。
この世界は俺たちが住まうこの地上界の他に、天使達の住まう天界と、悪魔達が住まう地獄界が存在する。
"ゴエティアの悪魔"はその地獄界の72人の悪魔の権力者を指す。
彼らは1人1人が悪魔の軍隊を所有しており、"ゴエティアの悪魔"はその絶大なる力によって地獄界を支配しているのだ。
まさか彼ら"ゴエティアの悪魔"が敵に回っているというのだろうか。
もしそうだとしたら、敵の戦力は一気に膨れ上がる事になる。
だが、なんにせよ今はリーラ達を助けるのが先だ。
俺はリーラを始めとするリーラ達の縄を切断し、エルフ達を解放した。
リーラを縛っていた縄だけはどうやら魔道具であるようだった。
リーラの縄は魔力をどうやら遮断するらしく、身体強化だけでは切断できず、"鎧"を手に纏って切断した。
「サタン!」
リーラは涙を流しながら勢いよく俺に抱き付いてきた。
「うえええ、サタン・・怖かったよぉ・・」
リーラはぐしぐしと涙と鼻水でいっぱいの顔を俺の胸に押し付けてきた。
服が汚れるが、よほど怖かったのだろう。
俺はリーラの頭を撫でてやった。
「ここには精霊も居ないし、魔力も使えなかったし、何にも出来なくて・・」
リーラは泣きじゃくりながら言った。
たしかにこの洞窟には精霊がいない。
入口に張られていた結界が恐らく外部とこの場所を閉ざしていたからだろう。
精霊が居なければ、エルフ達は精霊魔法が使えない。
そしてリーラは魔力を遮断されれば"木属性魔法"が使えない。
逆に言えば、敵はそこまで知っている相手だということだ。
これで内通者の可能性が更に増したな。
俺はリーラが泣き止むまで、周囲のエルフ達に生温かい視線を送られながら彼女の頭を撫で続けた。




