勇者状況を整理する
「ならまずは優先順位を決めよう。アルメイダ公国を助ける為には何が必要だ?」
「まず当然ながら敵の吸血鬼達の打倒よね」
それはそうだ。敵さえ倒せばアルメイダ公国は救われる。だがそんなに簡単に事は運ぶだろうか。
「当然知っていると思うが、吸血鬼は"人間の血"を食料としている。それなら、人質として、食料として、誰か囚われている可能性はあるんじゃないか?」
リシルは吸血鬼でも真祖としての血が色濃いので、吸血鬼としての力が非常に強く、食料である血を殆ど摂取しなくても活動できるし、日光も苦手としていない。
それでも昔から定期的に俺の血を摂取しているわけだが。
対して、普通の吸血鬼は数日に1度は人間の血を摂取しなければならないし、日光の下でも活動出来ないほどではないが、かなり行動を制限される筈である。
そういう意味ではエルザを襲った吸血鬼は普通に日光の下で活動をしていたので、強力な吸血鬼だったのではなかろうか。
この世界の吸血鬼が、俺の知る吸血鬼と同様であるならば、だが。
「確認だが、この世界の吸血鬼も日光は苦手という事で良いんだよな?」
「・・それはそうだと思う。わざわざ我が国を夜に閉ざしたのだから」
ふむ。夜に閉ざしたという魔法は恐らく特級闇魔法の"束の間の闇夜"であろう。
アレはかなりの大魔力を常に使う筈だ。わざわざその魔法を使うならば、日光が苦手というのは間違いではなさそうだ。
「だが、わざわざそんな大魔法を使ってまでアルメイダ公国を支配したのは何故だ?あの魔法はそう長い時間維持できるようなシロモノではないが」
「・・恐らくだけど、狙いはわかる」
エルザはそう言って言葉を続けた。
「もうすぐ奉納打ちがある。奉納打ちが出来なければ、ドワーフは炎神ウルグの加護を失う」
「奉納打ちですか?」
ララは首を傾げながら言った。
それに対し、エルザは無表情のまま説明した。
奉納打ちとは4年に1度炎神ウルグのために、優れた鍛治師が山頂にある鍛冶場で最高の剣を打ち、炎神ウルグに捧げる儀式なのだそうだ。
炎神ウルグは優れた鍛治師が大好きなのだ。
その儀式を行う代わりに、ドワーフはウルグ火山の麓に住まう事を許され、また奉納打ちの際に炎神ウルグより"神の炎"を賜るのだそうな。
だからこそドワーフにとって"神の炎"とは自身が炎神ウルグに認められた証であり、神聖な物なのだ。
そしてその4年に1度の奉納打ちの儀式が、ちょうど来週である4の月2の週の火の日に行う予定であり、しかもその儀式を執り行うのはこのエルザであるそうだ。
だからこそ、エルザの母はエルザを何としても逃したのだろう。
「つまり、その奉納打ちが出来なければ、国を奪還したとしてもドワーフは炎神ウルグの加護を失い、同時に"神の炎"を失うというわけか」
「・・今ある神の炎も既に失われているかもしれない。そうなれば、私が行う奉納打ちで賜る"神の炎"が唯一の希望となる」
そして俺達ヤマト王国も結界の魔道具を作る為にアルメイダ公国に協力を求めに来たのだ。
"神の炎"が無ければ、結界の魔道具は作れない。
「とにかく、今は情報が必要ね。いまアルメイダ公国がどうなっているのか知らなければ、どうする事も出来ないわ」
「という事は、最優先は情報収集だな」
「そうなりますね。問題はどうやって情報を得るかですが」
情報を得る手段か。
「ふむ。ちょっと行ってくるか」
「行くって、まさかアルメイダ公国に直接乗り込む気?」
エミリアが驚いたように言った。
「何も飛空挺で乗り込むわけじゃないさ」
ちょっと俺だけ単独行動でアルメイダ公国に向かうだけだ。
「・・それは危険。吸血鬼達の力は強大」
「ああ、その点の心配はディスター様には必要ないのですよ」
ララは苦笑しながら言った。
それにエルザは無表情で首を傾げた。
「・・どういうこと?」
そのエルザの疑問にはエミリアが答えた。
「だってディスターに勝てる奴なんて居ないもの」
エミリアは胸を張って言った。
「・・勇者は自信過剰?」
エルザは目を細めながら言った。
「そう言いたいけど、残念ながら事実なのよね」
「・・どうして言い切れるの?」
「だって、ディスターは今までずっと空位だった位階序列1位なんですもの。それに、その強さは間近でよく見ているの。だから、ディスターの心配はしなくて良いわ。問題は潜入方法だけれど。なにかアテがあるの?」
「ああ。潜入に使えそうな魔法にいくつか心当たりがある。それを使えば潜入する事は可能だろう。だがよりバレにくいルートがあれば好ましいな」
出来れば潜入しやすいルートは欲しいところだ。
「・・それなら坑道を使えば良い。坑道にまでは見張りは居ないはず」
「なるほど。場所はわかるか?」
「・・案内できる。でもそうすると私も一緒に行かなければならない」
「エルザは戦えるのか?」
「・・戦闘は苦手」
ふむ。まぁ非戦闘員1人くらいならカバー出来るだろう。
「よし、エルザと2人で行ってくる事にしよう」
「良いけど」
そう言うとエミリアは俺の袖をちょいちょいと引っ張った。耳を寄せろの合図だ。
「なんだ?」
「・・エルザが可愛いからって浮気はしちゃダメよ?」
「・・なんだ。嫉妬しているのか?」
「そうよ」
こうやって正直に自分の思った事を言えるところはエミリアの美点であろう。
「大丈夫だ。心配するな」
「そ。なら安心する事にするわ」
そう言ってエミリアは微笑みながら離れた。
俺達の様子を見てエルザは首を傾げていた。




