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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第2章アルメイダ公国編
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多忙なる嫉妬の王

一部残酷な描写があります。ご注意を。

 緑髪の魔族、嫉妬の王インウィディアはアルメイダ城までの道を歩いていた。

 道のあちこちでは女が吸血鬼に襲われ、血を吸われていた。

 その様子にインウィディアは辟易とした気分であった。


「早くここを去りたいのであるな」


 そう言ってインウィディアは足を早めた。

 インウィディアは強者たる吸血鬼がただ欲望のままに弱者たる人間の女を襲う姿に吐き気を覚えた。

 強者は強者たる矜持を持つべし。

 これがインウィディアの矜持であった。

 かといって、弱者が虐げられる事に思うところがあったわけではない。

 ただ、信念なき暴力が嫌いなだけだ。

 信念ある暴力は彼の大の好物でもあった。

 その点、憤怒の王イラは好感が持てる。

 彼は自身の力の向上にのみ興味を持つ。

 いまこうやって彼の配下の吸血鬼達に好き勝手にやらせているのは、それこそが彼にとって糧になる故であった。


 憤怒の王イラは玉座の間にいた。

 その前で繰り広げられるは愛憎劇であった。

 ドワーフの男の前に2人のドワーフの女が2人の吸血鬼に囚われ、更に男の前には1人の男がやはり吸血鬼に囚われていた。


「さあ選べ!貴様がそこの友を殺せば、貴様の妻と娘は助けてやる!貴様が貴様の妻と娘を見殺しにすればそこの友は助けてやる!」


 毛先は赤く、根元は黒い髪をして、愉快そうに笑う男こそ、憤怒の王イラだ。

 イラはその尖った犬歯を剥き出しにしながら笑っていた。

 それに反して。

 選択を迫られたドワーフの男は涙を流しながら唸っていた。

 ドワーフは義理を大切にする種族だ。

 妻と娘を選べば友が死に、友を選べば妻と娘が死ぬ。


「ワシを殺せ!ワシを殺せばお前の妻と娘は助かる!」


「私達を殺してください!早く!」


 男の友のドワーフが、男の妻がそれぞれ叫ぶ。


「さぁ!選べ!誰を殺す!」


 憤怒の王イラが選択を迫る。

 ドワーフの男は嗚咽しながら涙を流していた。


「選べぬ!ワシには選べぬ!」


「なるほど!それも1つの選択だ!良いだろう、やれ!」


 イラが合図を出すと、吸血鬼達が一斉に手を振り上げ、妻と娘、友の男の首が同時に落とされた。

 落とされた3つの首がごとり、と落ち、血がシャワーのように残されたドワーフの男に降り注いだ。


「うわああああ!貴様あああ!殺してやる!殺してやるぅぅぅぅ!」


「はははははは!良いだろう!かかってこい!」


 泣き喚くドワーフの男に一振りの剣がイラより投げ渡された。

 ドワーフの手により鍛え抜かれた名剣だ。

 ドワーフの男はその剣を持つと、憤怒の王イラに躍り掛かった。


「うわああああああ!」


 イラは玉座で足を組み、頬杖をついたまま動かない。

 同胞の血に濡れたドワーフの男が剣を振りかぶり、イラの脳天に振り下ろされた。

 ガキン、という硬質な音と共に、砕け散ったのは剣の方であった。


「ふはははは!貴様の怒り!俺様の命には届かなかったようだな!」


 そう言いイラが腕を振るうと、ドワーフの男の首がごとり、と落ちた。

 降り注ぐ鮮血のシャワーの中、憤怒の王イラは高笑いを続けていた。

 その姿を、インウィディアは美しいと思い、そして狂おしいほどの嫉妬心がインウィディアの胸中に芽生えた。

 何故自分はあのような強さを持っていないのか。

 インウィディアは確固たる自我という物を持ち合わせていない。だからこそ、強烈な自我という物に憧れ、嫉妬するのだ。


「おお!インウィディアではないか!来ていたのか!」


 ようやっとインウィディアの姿に気付いたイラが嬉しそうに叫んだ。


「憤怒の。素晴らしい見世物であったのだな」


「そうだろうそうであろう!やはりインウィディアは話のわかる奴だな!その辺ルクスリアやアワリティアはいかん!」


 そう言ってイラは一頻り笑うと言った。


「この国は良いな!国中の怒りがこの俺様に集まっておるよ!」


 それはそうであろう。

 何せこの国は憤怒の王イラがたった1人で攻め落としたのだから。


「して、インウィディアよ!今日は何用であったかな!」


「もう忘れているのであるな。今日は炎神ウルグのもとへ行く為に来たのであるな」


「おお、そうであった!神の怒りとはさぞ格別であろうよ!」


 インウィディアはイラに案内され地下牢を訪れた。

 そこには傷ついてなお眼の光が消えない髭面の男、ザダ・ガザンの姿があった。


「出ろ!ザダ・ガザンよ!」


 牢の鍵を開けられ、ザダがイラを睨み付けながら牢から出てきた。


「・・何のつもりだ」


「なに、貴様らドワーフにチャンスをやろうと思ってな!」


 イラの言葉に、ザダは訝しげな表情を浮かべた。


「・・チャンスだと?」


「ああそうだ!15年前に貴様達が大切に守る"神の炎"が盗まれたそうだな!」


「・・ああ、そうだ。その"神の炎"は貴様達に全て破壊されたがな」


 ザダはイラを強い憎しみの篭った瞳で睨み付けながら言った。


「くく。貴様達の大切な大切な"神の炎"を盗んだ街!今は名を変えガイアスの街というそうだな!その街を見事攻め滅ぼした暁には、この国を貴様達に返してやる!」


「・・それは真実だろうな」


「真実だ!俺は嘘は付かない事を信条としている!このインウィディアとは違ってな!」


 愉快そうにイラはインウィディアの肩をバシバシと叩き、大口を開けて笑いながら言った。


「憤怒の。痛いからやめるのである」


「おお!それはすまん!して、どうするザダ・ガザン!もちろん、準備を整えこの俺様に楯突くのでも一向に構わないがな!」


「・・ふん。例え準備を整えたところで貴様には敵わんだろう」


 ザダはそう言うと、決意の灯った瞳で憤怒の王イラを睨み付けた。


「・・本当に、ガイアスの街を攻め滅ぼせばこの国を返してくれるのだな」


「くどいな!俺は嘘は付かんと言ったはずだ!」


 イラは人を睨み殺しそうなザダの視線を真っ直ぐに見返して答えた。


「・・わかった。準備を整えてガイアスの街を見事攻め滅ぼしてこようぞ」


「よし、いい答えだ!期待しているぞ!」


 やはり愉快そうに大口を開けて笑うイラの顔を仰ぎ見て、ザダは鼻を鳴らすと、この場を立ち去ろうとする。

 インウィディアは1つ溜息を吐くと、ちらりとイラを見た。


「ああ、そうそう!1つ言い忘れておったわ!」


 イラは思い出したように言った。


「ザダ・ガザン!貴様は出立の時までこの城内から出る事を禁ずる!これを破れば国を返す事はないと思え!」


「・・わかった」


 ザダはそう言って牢を後にした。

 ザダが消えた後。


「どうだ?インウィディア」


「充分視る時間はあったのであるな」


 そう言うとインウィディアの姿がドロリと溶け、次にはザダの姿となっていた。


「では行こうか!」


「・・ああ、そうだな」


 そうして2人は城を出た。

 大通りには多数のドワーフがおり、仲睦まじく歩く2人にドワーフ達がザワザワとしていた。


「本当に悪い男だなぁお前は!」


「・・全ては()()()()のご意向だ」


 そうしてイラとインウィディアは人々の注目を一身に浴びながら街を歩く。

 やがて2人はウルグ火山の麓に辿り着いた。

 火山に一歩足を踏み入れると、重苦しい威圧感が2人を襲った。


「なるほど!これが神の威光というわけか!」


 イラはまるで気に留めた様子も無く愉快そうに笑っていた。


「・・笑い事か」


 インウィディアの方も特に気に留めた様子はなかった。

 まるでザダ・ガザン本人であるかのようにずっと眉間に皺を寄せたままである。


 山頂に向かうにつれて神の威光は強まっていく。

 だが、イラはむしろ心地良さげにしていたし、インウィディアは変わらず不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。


 2人が辿り着いた先は鍛冶場であった。

 石造りの簡素な炉があるのみである。

 炉には白い炎、"神の炎"が轟々と燃えていた。


『ザダ・ガザン。何故ここに魔族を連れてきた』


 "神の炎"が一際大きく燃えたかと思うと、炉の前に大きな炎の柱が立ち上がり、そこに1人の男が現れた。

 その男は全身が炎のように揺らめいており、髪の毛があるはずのところには轟々と白い焔が燃え盛っていた。

 これが炎神ウルグ。

 インウィディアは内心でごくりと唾を飲み込んだ。


「ははは!これが炎神か!まこと心地よき威圧感よ!」


 対して憤怒の王イラは楽しげであった。

 神の敵意を一身に浴びてなおこの余裕である。

 インウィディアの胸中は再び賞賛と嫉妬に埋め尽くされた。


『答えよ、ザダ・ガザン。何故貴様はこの魔族をこの場所へ連れてきた』


 炎神ウルグの声は直接心に響くようであった。

 低い重低音の、やはり威圧感のある声だ。


「・・これがその答えだ」


 インウィディアは拳に"振動"を纏うと、その拳を炉に叩き付けた。

 拳は"振動"を炉へと放ち、炉は轟音を立てて崩れ落ちた。


『ザダ・ガザン!貴様誓約を破る気か!』


「・・我らドワーフはこれより魔族と生きていく」


「くはは!炎の神よ!我が"憤怒王の黒炎(ラースフレイム)"を受けるが良い!」


 イラが右手を前に掲げると、そこから黒い炎が噴き出し炎神ウルグを襲った。


「"衝撃の波動(ショックウェーブ)"」


 更にインウィディアの拳から衝撃が放たれ、炎神ウルグに直撃した。


『ザダ・ガザン貴様!この怒り!貴様らの国を滅ぼして晴らしてやろう!』


 炎神ウルグはイラの黒炎とインウィディアの衝撃を受けてなお力強く轟々と燃え盛っていた。

 むしろ、イラの黒炎を受けて怒りを強めていた。


「・・やってみろ」


「くはは!神と喧嘩とは滾るなぁ!」


『殺してやる!』


 怒り狂った炎神ウルグの放つ白炎と嬉しそうに笑うイラの放つ黒炎が激突した。


 ◇


「いやはや!神も存外大した事は無いものだ!」


「それだけ身体を焦げ付かせておいて何を言っているのである」


「なに!これくらいすぐ治るさ!」


 アルメイダ城に戻ってきたイラとインウィディア。

 イラの身体はあちこち黒焦げになっており、インウィディアの方は既に黒焦げになった"皮"を脱ぎ去っていった。


「これでこの国での我輩の役目は終わりなのである。あとは任せるのである」


「おお、任せておけ!これでザダ・ガザン達が戻ってきた時にはこの国はマグマの海よ!そんな国でも良ければ返してやるさ!」


 怒り狂った炎神ウルグはウルグ火山を噴火させ、この国をマグマの海にしてくれるだろう。

 そうなればあの方の望みもまた一歩先に進む。

 問題は、あの勇者だ。


「憤怒の。勇者には気を付けるのである」


「そんなに強いというのなら正面から捩じ伏せてやろう!神の美味なる怒りを喰らって絶好調であるからな!」


 たしかに今のイラは今までになく力が高まっている。国中の怒りや神の怒りを喰らっているからだ。

 だが、あの勇者の力はあまりにも異質だ。

 この男でも或いは敵わないかもしれない。


「とにかく。気を付けるのであるな」


「おうよ!インウィディアは次はユグド大森林であったか!」


「そうであるな。()()()も人使いが荒いのである」


「貴様は人ではなく魔族であろう!」


「そうであるな」


 こうして嫉妬の王インウィディアはアルメイダ公国での仕事を終え、ユグド大森林へと向かった。

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