勇者公王の娘を助ける
飛空挺に戻り。
少女をベッドに寝かせた。
「この子、ドワーフね」
エミリアは眠る少女を見ながら言った。
端正な顔をした少女だ。
ドワーフの特徴である肩まで伸びる黒髪と、少し浅黒い小麦色の肌に、胸元にはハンマーを象った特徴的な紋章のペンダントが提げられていた。
「しかも、この紋章は公王の一族の紋章のはずね」
なるほど、身分のある少女だというわけだ。
そんな少女が一体なぜこの人族領に繋がる街道を馬車で走っていて、しかも吸血鬼に襲われていたのか。
そんな事を思っていると、少女がゆっくりと目を開いた。
そして次に俺達を見ると、バッ、と身体を起こして身構えた。
「・・ここは?」
「大丈夫。私たちは敵じゃないわ」
そう言ってエミリアは無限収納から1つのペンダントを取り出して少女に見せた。
それはヤマト王国の国花であるサクラを象った紋章だ。これでヤマト王国の王族である事を証立てられる。
「私はヤマト王国第3王女のエミリア・ヤマトです。貴女が吸血鬼に襲われているところを、こちらの勇者ディスアスター・サタン・ヤマトが助けました」
そう言ってエミリアは俺を紹介した。
「・・勇者?」
「ああ、この世界に勇者として召喚されてきた」
「・・勇者ヤマト様と同じ?」
「そうだ」
俺がそう言うと、少女は俺に縋り付いてきた。
そして涙が溢れそうになる瞳で俺を真っ直ぐ見て少女は言った。
「どうか、我が国を助けて」
◇
それから、落ち着きを取り戻した少女にまず名前を聞いた。
少女の名前はエルザ・ガザン。
現在の公王であり、位階序列第4位のザダ・ガザンの一人娘だ。
「それじゃあ車にいた皆は・・」
「ああ。俺が来た時には既に吸血鬼の男にやられて息を引き取っていた」
「・・そう」
エルザはそう言って悲しそうに目を伏せた。
「どうして吸血鬼に襲われていたのですか?」
「・・それは」
エルザはぽつりぽつりと語り始めた。
事件が起きたのは昨日だという。
アルメイダ公国は唐突に夜に閉ざされ、吸血鬼の軍勢が攻めてきたのだ。
当然反撃したが、敵の首魁が強く、ザダを始めとする戦士達は敵の首魁ただ1人に敗北してしまったのだそうだ。
「・・私については母上が従者をつけて逃してくれた。ヤマト王国になんとか救援を要請しようと思って、あそこまでは自動車で逃げていたけど、途中で吸血鬼に追いつかれて・・」
そこで俺達と遭遇したわけだ。
というか、あの重厚な鉄の馬車は自動車というのか。
「ディスター。自動車っていうのはね、ドワーフが使う馬のいらない馬車の事なの」
疑問が表情に出ていたのか、エミリアが補足してくれた。
「馬がいないのにどうして動くんだ?」
「・・自動車は魔力を原動力にして動いている。自分で動く車だから自動車という」
なるほど。理解した。次の質問に移るとしよう。
「敵の首魁はどんな奴だった?」
「・・吸血鬼の王は自分の事を憤怒の王イラと名乗っていた。黒い炎の使い手で、父上の力も通用しなかった」
憤怒の王か。また七つの大罪だ。
という事は"生粋の"魔族なのであろうか。
一つ疑問がある。
今のところ七つの大罪を冠するのは全て"生粋の"魔族だ。すなわち敵である。
ならば俺の"暴食の王"はどうなのだろうか。
俺は敵に回るつもりは無いが、それこそ神の力で性格が変えられてしまったら。
・・いや、教皇シシリーは魔族には創造神アルカディアの加護が効かないと言っていた。
そして、俺は教皇シシリーよりも創造神アルカディアの加護を受けているとも。
ならば他の大罪達とは違うのかもしれない。
どちらにせよ、今はアルメイダ公国に集中しよう。何なら次にアルカディアに呼ばれた時にでも聞いてみればいい。そうしよう。
「そもそも、そのザダという男は強いのか?」
まぁ位階序列第4位なのだから、強いのだとは思うが。
「強いわよ。ザダ・ガザンと言えば"怪力"の固有魔法と"振動"の固有魔法の2つの固有魔法を使いこなす事で有名なんだから」
「・・憤怒の王イラは父上の"怪力"よりも強い力を持ち、父上の"振動"の魔法も焼き尽くされていた」
"振動"の魔法を焼き尽くすとは面白い表現だとは思うが、こと空間干渉魔法同士の戦いだとそういった"普通ではあり得ない現象"も得てして起こるものだ。
つまり、敵の首魁の憤怒の王イラという吸血鬼の王はザダよりも空間干渉能力が高いという事なのだろう。
「あの、ディスター様?どうしてそんなに笑っておられるのですか?」
ララが困惑した様子で問うた。
「ララ。これは病気みたいなものだから気にしちゃダメよ」
おっと。
イラとの戦闘を想像して笑ってしまっていたようだ。この世界に来てからマシな敵と戦った記憶がない。
ルノア砦では確かに暴れたが、アレは単純に数が多かっただけだからな。強い"個"とは未だに戦えていない。
「・・強いと知って喜ぶだなんて変な勇者」
そう言ってエルザはその感情の見えない顔に初めて笑みを浮かべた。
「それでどうするの?勇者様」
エミリアは挑発的な笑みを浮かべて俺に問うた。
もちろん答えは決まっている。
創造神アルカディアのお告げはきっと彼女に出会うためのものだったのだ。
「助けるさ。当然な」
「エルザ・ガザン」
エミリアは俺の答えを満足気に聞くと、エルザの名を呼んだ。
「ヤマト王国は正式にアルメイダ公国を救援しようと思います。よろしいですか?」
「・・願ってもない。国交を断絶した手前そんな事を頼める立場にない事は重々承知。それでも、お願いしたい。アルメイダ公国を助けて欲しい」
そう言ってエルザは頭を下げた。
「決まりだな」
こうして俺達はアルメイダ公国を助ける事となった。




