結婚初夜〜エミリア〜
ここから2章です。
よろしくお願いします。
俺達の結婚式のあとは衛兵達が指揮を取り、闘技場に居た人々はそれぞれ帰路についた。
関わりのあった人々は次々と俺達のもとを訪れ、感謝と祝福の言葉をくれた。
王都の被害はガーゴイルが壊した一部の建物と、ガーゴイル達の死骸くらいであった。
ガーゴイルによって壊された建物に関しては王国から補填があるという。
ガーゴイルの死骸の石に関しては、数が数だったので時間がかかると思われたが、王国が冒険者に緊急依頼を出し、衛兵達と冒険者によって速やかに撤去された。
俺達といえば、ひどまず今日は帰宅し、明日以降にこれからの話をする事となった。
話さなければならない事はいくつかある。
まずは新しいお告げの事も王国と話し合わなければならないし、今回は転移魔法を大々的に使ってしまった。存在を隠しておく、というのは難しいであろう。
さらに王都を守る結界が壊されてしまったのも大きい。
そういう意味でも次に行くのは予定通りドワーフの国であるアルメイダ公国になるだろう。
夕飯の席で、俺はまず家族にお告げの事を話した。
「それで式の時にいきなり黙り込んだのね」
エミリアは納得したような表情で言った。
「力が馴染むっていうのは何でしょうね?ディスター様はこの世界に来てから何か力に違和感とかありました?」
「いや、ないな」
この世界に来た時も前の世界と同様に力を振るえたからな。
「なら、ヤマト様みたいに実は何か力を貰っていて、それをこれから使えるようになるとか?」
「どうだろうな」
こればっかりはその時になってみないとわからない。
「それに、4の月1の週月の日にアルメイダ公国に向かえですか。それで誰かに会う。日付までは具体的に指示をしているのに、何故内容が曖昧なのでしょうか」
「それもわからないな」
何せ神の考える事だ。何か意味があるのだろう。
「と言うことはつまり、どれに関してもその時になってみないとわからない、という事ね?」
エミリアは苦笑しながら言った。
「その通りだ」
「いつも通りですね」
ララが笑いながら言った。
「やれる事をやる、でしょ?」
エミリアが挑発的な表情を浮かべながら言った。
「ああ、そうだ。俺たちは、やれる事をやるだけだ」
魔王スペルビアはじきに人族は死に絶えると言っていた。
奴が何を企んでいるかは知らないが、それを成就させるわけにはいかない。
この世界の俺は魔王ではなく、勇者なのだから。
夕食が終わると、ゆっくり温泉に入る。
湯船に浸かっていると、ガラガラと浴室の扉が開いた。リシルかな、と思って見ると、それはバスタオルを身体に巻いたエミリアであった。
「・・あんまり見ないで」
エミリアはバスタオルを巻いたまま、俺の横に来ると腰を下ろした。
「どうしたんだ?」
「貴方長風呂でしょう?一緒に入ればゆっくり話せるかなと思って」
「そうか」
「あと、今日は私の日だから」
エミリアとララは俺と共に過ごす日を交代で入れ替えることにしたらしい。
それで結婚初夜の今日は正妻であるエミリアの日というわけだ。
その後は沈黙が続く。
リシルが隣にいる時は気兼ねなく入っていられたのだが、エミリアが隣にいると思うとどうも調子が狂う。
ちらりとエミリアを見る。
彼女は髪を耳にかけており、白いうなじが見えた。
「ねえディスター。本当にありがとね」
「なにがだ?」
「この世界で生きるって決めてくれたことよ」
「自分で決めた事だ。礼を言われるような事ではない」
そう言うとエミリアはくすりと笑った。
「私ね、思ったのよ。貴方がケルベロとリシルを召喚した時、"ああ、この人はその気になればすぐにでも前の世界に帰れるんだ"って」
それは、たしかにそうだろう。
俺はリシルを召喚した時に、彼女に聞いたのだ。
向こうの世界に戻りたければ戻してやる、と。
それはつまり、その気になれば俺も向こうの世界に戻れるという証に他ならない。
「私の、私達のためなのよね。この世界に残ってくれるのは」
そう言ってエミリアは少し寂しそうに笑った。
ふむ、エミリアは勘違いをしているな。
「エミリア。1つ訂正しておく」
「なに?」
エミリアは首を傾げて俺を見た。
エミリアの耳にかけていた髪がパサリと落ちた。
「たしかに前までは俺がこの世界にいるのは、エミリアとララの為だったと思う。お前たちの大切な物がこの世界にあったからこの世界にいた」
そう言って言葉を切る。
エミリアは真剣な表情を浮かべて俺の話を聞いていた。
「だが、今はお前たちの大切なものは、俺にとっても大切なものになった。だから、今俺がこの世界で生き、この世界で戦うのは俺自身の為なんだよ、エミリア」
「・・そう。この世界は、貴方にとっても大切なものになったのね」
そう言ってエミリアはふわりと笑った。
その潤んだ瞳から、涙が一筋溢れた。
「ふふ。なんだか自分の事のように嬉しいわ」
目を擦りながら笑うエミリアに、俺は堪らなくなり彼女を優しく抱き締めた。
「・・出ましょうか」
「・・そうだな」
俺達はお互いに身体を洗い合い、早々に着替えると寝室に向かった。
今まで俺達は私室で寝ていたので、この寝室を使うのは初めてだ。
2人でベッドに腰掛けると、エミリアにキスを落とす。
「魔法薬を飲むわね」
そう言ってエミリアはベッドの脇のサイドテーブルに置いてあった瓶の魔法薬を呷った。
この魔法薬は避妊の魔法薬だ。
俺達は家族会議で魔王を倒し世界が平和になるまでは子供を作るのは辞めようという事になっていた。
「苦いわね」
エミリアは舌を出しながら言った。
俺はエミリアをゆっくりとベッドに押し倒した。
「あの、私胸小さいけど・・」
「お前はお前だ。大きさなど関係ない」
「そ。ありがと」
こうして俺達は結ばれた。