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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第2章アルメイダ公国編
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勇者魔法が使えるようになる

 朝。

 目が覚めると隣には穏やかに眠るエミリアの顔があった。

 俺が身体を起こすと、エミリアはゆっくりと目を開いた。


「・・おはよう」


 そう言ってエミリアは身体を起こすと、口を尖らせて目を閉じた。可愛い。


「んふふ」


 そんなエミリアにキスを落とすと、エミリアは満足そうに笑った。なんだこの可愛い生き物。

 そうして俺は堪らなくなりエミリアをベッドに押し倒した。


 ◇


 朝食を摂りに食堂に降りた俺達。

 他の皆はもう済ませたらしく、俺達だけであった。

 シスが朝食を運んできてくれる。

 朝食のメニューはスクランブルエッグにフルーツ、パンに牛乳であった。

 朝食はそんなに多く食べないので、これくらいがちょうどいい。

 とはいえ、俺は食パンを一斤食べるのだが。


「ララはどうした?」


「ララ様はリシルと訓練をなさっております」


「そうか」


 最近ララはよくリシルと訓練をしている。

 リシルはガチガチのインファイターだからな。

 ララはそういった相手が苦手らしいので訓練相手にリシルを選んでいるのだろう。


「俺たちも訓練をしようか」


「そうね」


 エミリアが食パンのトーストを1枚食べる間に一斤食べ終わった俺は、エミリアと共に地下訓練場に行くべく席を立った。


「あ!おはようございます!」


 リシルと組手をしていた手を止め、ララが駆け寄ってきた。

 ララの分身とリシルの影は変わらずに組手を続けていた。

 両者は分身と影という違いはあれど、複数の自分を操るという点は似通っているので、そういった意味でも訓練相手として良いのだろう。


「サタン様。おはようございます」


「ああ、おはよう」


 リシルがそう言って頭を下げた。

 リシルに"魔王"と呼ばせるのをやめさせた。

 俺はこの世界では勇者として生きていくと決めたし、魔王は既に復活してしまった。魔王と呼ばせるのは色々な意味で外聞が悪いだろう。

 だがリシルにとっては俺は魔王であるので、ならばと魔王の意味を持つサタンの名を呼ばせる事にしたのだ。


「エミリア様。おはようございます」


「ええ、おはよう」


 そうしてリシルはエミリアとも挨拶を交わす。

 リシルの中ではやはり優先順位は俺が一番なのだ。これもエミリアやララも同じ優先順位にするように言ったのだが、これだけは彼女は頑なに譲らなかった。


「では俺達も始めようか」


「ええ」


 俺とエミリアの訓練方法は簡単だ。

 エミリアの作る結界を俺がひたすら壊す。

 エミリアにとってはどれだけ俺の攻撃に耐えられるかが鍵となってくる。


「縛式伍の型"連鎖"」


 エミリアの結界が俺を包み込む。

 彼女が最近開発したこの"連鎖"は多層結界だ。

 文字通りこれは幾重にも重なった結界であるが、この結界の特性は内側の結界が破壊されると、その外側に新しい結界が生成される事であろう。

 つまり、この結界は"再生する結界"なのだ。

 エミリアの結界を1枚ずつしか破れないような敵では一生脱出できないであろう。

 さて、俺であるが、この結界の攻略法はそんなに難しくない。

 大出力で再生する前に全て破壊してやれば良いのだ。無尽蔵に再生するタイプの魔物等にも取る常套手段である。


「"黒灼大砲"」


 右手に黒き極光を纏い、拳を放つ。

 すると、いつもより数段大きな黒き極光の砲弾がエミリアの結界を砕いた。


「ちょっと!いつもの"大砲"より出力上げたら、結界の強度が上がったかわからないじゃない!」


 そう言ってエミリアがぷんすかといった様子で近付いてきた。


「いや、すまん。出力を上げたつもりはないんだ」


「でも現に明らかに上がっていたわよ?」


 エミリアは俺の表情を見て怪訝そうに言った。

 そう、確かに"黒灼大砲"の出力は増していた。

 俺は普段と同じ感覚でこの大砲を撃ったのだが。

 いや、確かに違和感はあった。

 今日の朝から調子が良いと感じていた。

 それは違和感でしかなかったが、今はっきりと理解した。

 俺は普段から"暴食の王(グラトニー)"の魔法を持てる魔法制御能力の大半を使って制御、あるいは言い方を変えれば抑え込んでいる。これは寝ている時も変わらず出来るように訓練している。

 その"暴食の王"(グラトニー)を制御するのに必要な魔法制御能力が明らかに減っている。

 言い換えるならば、"暴食の王(グラトニー)"を抑え込むのが楽になっている、といったところだろう。

 だからいつもと同じように放った"黒灼大砲"が、制御が楽になった分出力が増したのだろう。


「なるほど。これが力が馴染むという事なのかもしれないな」


 だが疑問がある。

 当たり前だが、俺がこの能力を得たのは前の世界での事だ。

 創造神アルカディアは俺が世界に認められたから力が馴染む、という言い方をしていた。

 ならばこの変化はこの世界に認められたから起きたと言えるのではないか。

 そういえば、魔王スペルビアは自分の事を"傲慢の王"と称していた。

 ヤマトに俺の魔法について説明していた時に、ヤマトは言っていた。


「それはまるで七つの大罪のようだね」


 ヤマト曰く、人間には七つの大罪があるという。

 それすなわち、暴食・色欲・強欲・傲慢・怠惰・嫉妬・憤怒。

 これらの罪が人間を人間たらしめていると彼は語った。

 だからこそ、神殿に従事するものはこれらの罪を捨てるべく修行をするのだという。

 前の世界には、これらの名を冠する者は居なかったように思う。

 ・・もしかすると、俺の能力は元々この世界の物だったのではないか。

 それが何らかの理由で異世界人である俺に宿った。

 だが、この能力にとっては前の世界は異世界であるので、拒否反応を起こし暴れまわった。

 だからこそ、俺はあんなに制御に時間が掛かったのではなかろうか。

 そうであれば、俺がこの世界に認められる事で暴れ回る事が無くなる、つまりは力が馴染むというのは理解できる。

 もし、このまま"暴食の王(グラトニー)"が暴れ回る事が無くなり、抑えこんでおく必要が無くなったとしたら。

 俺は普通に、魔法が使えるようになるのではなかろうか。


「どうしたの?随分嬉しそうね」


 エミリアが俺を見て苦笑していた。

 そうか。俺は嬉しそうにしているのか。


「そうだな。嬉しいのかもしれない」


 そう言って俺は指先に火を灯した。

 それにエミリアは目を丸くした。

 いつのまにか集まっていたララとリシルも同じように目を丸くしていた。


「ディスター、貴方、魔法が・・」


 "暴食の王(グラトニー)"に割いていた魔法制御能力に余力ができたお陰で、俺は既に簡単な属性魔法を使えるようになっていた。

 もちろん、今までは魔法陣を介さなければできなかった事だ。


「ああ。使えるようになったみたいだ」


 そう言って俺は指先に灯した火をふわりと浮上させ、操った。

 問題なく属性魔法が使える。

 今はまだ簡単な魔法しか制御出来なさそうだが、いずれは大規模な魔法も使えるようになりそうだ。

 これは便利だ。

 俺の魔法は手加減が難しい。

 かといって武器を使うと、武器の方が俺の力に耐えられず壊れてしまう。

 だが普通の魔法が使えるようになれば、手加減も簡単に出来そうだ。


「やりましたね!ディスター様!」


 そう言ってララが左腕に抱きついてきた。

 これからは訓練の時に魔法の訓練も追加しよう。

 俺はこれからの日々に想いを馳せながら宙に浮かぶ火を操っていた。

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