勇者会議に出席する
訓練が終わった後は軽く湯浴みをして汗を流し、着替えを済ませてエミリアとララと共に王城へ向かう。
王城の会議室ではルーガートにユーリ、ノーチス、カーチス、ルークなどの面々が居た。
それ以外にも人はいるが、俺は名前を覚えていない。必要なら隣に座っているエミリアが教えてくれるだろう。
俺達が席に着くと、ルーガートが声を上げた。
「さて、必要な者は揃ったようなので始めようではないか、ノーチス」
「まずはスーガード・ヤマト改め魔王スペルビアについてだ」
ルーガートに呼び掛けられ、議題をあげるノーチス。
「かの者は人族の大敵として国際的に指名手配し、人族力を合わせて討伐するべきだと考えるがいかがか」
「ですがあれでも元王族。魔族扱いしていいものか」
「だが、現に王都に攻撃を仕掛けたではないか」
「指名手配して討伐するとして具体的にどうするのか」
会議は最初の議題から紛糾していた。
単純に奴は人類の敵なのだから倒しましょう、で良いのではないか。そんな事を思ってエミリアにこっそり言うと、この中にも所謂スーガードの派閥だった貴族達がいるらしい。なので自分達が責任を追及されないようにこうして話を逸らしているのだそうな。人族は大変だな、と思いつつほとんど流し聞きで会議を聞いていた。
結局結論は最初にノーチスが言った、
「人族の大敵として指名手配、各国に協力を求める」
というところに落ち着いた。
今までの時間はなんだったのかと言いたい。
そう思ってエミリアに聞くと、これでもどうやら俺の不機嫌度が伝わってしまっていたらしく、それに配慮して短めに終わらせたのだそうな。
よし、今度から長引きそうな雰囲気を感じたら不機嫌そうにしてやろうと思った。
「次の議題だが。昨日勇者殿が使用した転移魔法についてだ」
ノーチスの言葉に貴族達がざわめく。
当然だ。彼らはあの転移魔法を俺から教わり、自分達も利用しようと考えているのだから。
「それについて、勇者殿から意見がある。勇者殿」
「ああ。転移魔法に関してだが、教えても構わないと思っている」
俺の言葉に、辺りからどよめきが起きた。
しかし、俺がだが、と続けると、そのどよめきは鳴りを潜めた。
「転移魔法の運用は最初は国営のみとし、個人での使用は禁止。いずれ国でしっかり管理が出来るようになってからは、国が試験を設け、その試験をクリア出来た資格ある者にのみ転移魔法の使用を許可する事を提案する」
これについてはエミリアとルーガートと事前に話し合っていた。
転移魔法は物流の根幹を大きく変容させる代物だ。この転移魔法をなんの考えもなく普及させてしまえば、旅の行商人などは廃業してしまう。
これはそういった事をなるべく引き起こさないように考えた手段であった。
その後の個人での使用に関しても、国が試験を設け、その試験をクリアできた者のみに限定すれば、犯罪を防ぐ手立てになる。
だが私的利用を既に考えていた貴族達からはもちろん反感の声が上がった。
そんな貴族達を抑える手段も、当然考えてある。
「なお、この提案が却下された場合、俺は転移魔法を一切教えるつもりはない。それを覚えておくと良い」
その言葉で、反感の声を上げていた貴族達は皆一様に黙り込んでしまった。
そう、そもそも転移魔法に関しては俺が教えなければ話は進まない。
なので、こう言われれば貴族達は黙るしかない。
なお、俺の大事な人を人質にし、言うことを聞かせるという手段を講じる貴族が居ないとも限らない。当然そちらについても対策済みだ。
エミリアとララは1人では行動させていないし、シスが買い出し等に行く際は必ずリシルの影を護衛に付かせている。聞くとシスも元Aランク冒険者だったらしいのだが、念には念をだ。
そして家にいる時は優秀な番犬と番竜が居るので死角はないだろう。
そもそも俺の今の立場は次期女王筆頭候補であるエミリアの夫であるので、普通は敵に回そうだなんて考えないのだが、どこの世界にも馬鹿はいるからな。
「では勇者殿の提案を採用するという事で」
結局俺の提案は可決された。
元々国のトップと既に話し合って決めた事なのだから今更覆る筈もないのだが。
「次の議題だが。勇者殿に再び創造神アルカディア様よりお告げがあったそうだ」
再び貴族達がざわめく。
こいつら議題を発表する度にざわめいているな。
「ああ。4の月の1の週月の日にアルメイダ公国に向かえ、とのことだ」
「それに合わせて、我々は勇者殿、およびエミリア王女殿下、聖女ララにはヤマト王国の特使として、アルメイダ公国に国交回復の交渉に向かって貰おうと思っている」
今度は反対意見は出なかった。
アルメイダ公国との国交回復は対魔族との戦いにおいても急務であるので、当然であろう。
ドワーフは個々の力はあまり強くないが、彼らの作り出す兵器の力は脅威である。
それは1200年前の戦いでも証明されている。
対軍能力においてはドワーフは非常に優秀なのだ。
「次の議題だ。スーガード・ヤマトの軍部総司令の地位の後釜についてだ。これに関しては陛下より辞令がある」
そう言ってノーチスはルーガートを見た。
今まで会議の様子を黙して見ていたルーガートは久方ぶりにその口を開いた。
「軍部総司令にはカーチス・ルシエラを。カーチス・ルシエラのいた近衛騎士団長の地位にはルーク・ローデリヒを置くものとする」
なるほど、カーチスはともかくルークまでなぜこの場にいるのかと疑問に思っていたが、このためであったか。
議場は、特に軍服を着た連中が声を上げていたが、ルーガートの、
「異議はあるか」
の一言に全員が黙り込んだ。
流石は王である。やはりルーガートには王たるカリスマがある。
「では以上で会議は終了とする」
こうして長かった会議は終わった。
帰り道。
俺たちは1人の男に呼び止められた。
「勇者殿、お待ちを」
その男は頰に傷を負った金髪で壮年の男性であった。
エミリアから耳打ちされ、彼がガイアス伯爵であると知った。
ガイアス伯領の事については事前にエミリアから聞いていた。
ガイアス伯領のあるガイアスの街は、元々はヒューズ伯領のヒューズの街と呼ばれていた。
そしてその街を治めていたヒューズ伯爵こそ、アルメイダ公国から"神の炎"を持ち出してお家取り潰しになった人物であるというのだ。
そしてこの目の前のガイアス伯爵はヒューズ伯爵とは大の親友であったそうで、そうして取り潰しになり、治める者のいなくなったヒューズ伯領を引き取ったのだそうな。
更に、その後元ヒューズ伯爵は自殺し、ガイアス伯爵は元ヒューズ伯爵の長男を引き取ったのだという。
そんなガイアス伯爵が俺に用だというのだ。
まず間違いなくアルメイダ公国関係であろう。
「何か用か?」
「そうだ。アルメイダ公国との件で話がある。明日の12の時に、王都の我が屋敷に来ては貰えないだろうか」
ふむ。俺としてもこの国とアルメイダ公国との間にあったいざこざは気になっていた。
その話が聞けるなら、行く価値もあるだろう。
後はエミリア次第だが。
エミリアを見ると、エミリアは1度頷いた。
「わかった。明日伺わせて貰おう」
「感謝する。迎えの馬車を明日そちらに伺わせよう」
そうして明日、俺たちはガイアス伯爵邸を訪れる運びとなった。




