魔王結婚する
『リシル、ガーゴイルの掃討具合はどうだ?』
『おおよそ7割でございます』
上空を見る。もう隕石は残っていない。
『よし、俺達も掃討に回る。さっさと終わらせよう』
『お手を煩わせてしまい申し訳ありません』
『いい。この短時間で7割なら上出来だ』
そう言って俺はリシルとの念話を切った。
この騒動をさっさと収束させよう。
『エミリア、ララ』
『どうしたの?』
『はい』
『ガーゴイルがまだ残っている。狩りながら闘技場前で落ち合おう』
『了解』
『わかりました』
通話を切ると、襲ってきたガーゴイルを砕いた。
身体を砕かれたガーゴイルは石になり、地面に落下していった。
闘技場は外街の南東に位置している。
闘技場の前にはまだ誰も居なかった。
まもなくして、ララがやってきた。
「ディスター様」
「ララ、来たか」
ララは俺のところまで来ると精霊化を解除した。
オウラが光の球となってララの胸元のペンダントに宿る。
その後少しして、エミリアもやってきた。
「私が一番最後かぁ」
「エミリアは一番遠いところから来ましたからね」
残念そうなエミリアにララが慰めの言葉を掛けた。
「2人ともよくやってくれた」
2人のお陰で隕石からこの王都を守る事ができた。
「当たり前よ!」
「私達の街ですからね」
そう言って2人は笑った。
その時、リシルから念話が来た。
『魔王さま。ガーゴイルの掃討完了でございます』
『よくやってくれた。そうしたらリシルも闘技場に直接来てくれ』
『かしこまりました。直ぐに伺います』
と言ってるうちにリシルが俺の影から現れた。
「早いな」
「魔王さまの晴れ舞台を見るためでございますから」
そう言ってリシルはふわりと嬉しそうに微笑んだ。
「わたくしは上で撮影しております」
リシルは背中に蝙蝠の羽を生やし、撮影の魔道具を取り出すと、そのまま闘技場の上空に上がっていき、闘技場の縁の上に立った。
「俺達も行こうか」
「ええ」
「はい」
ガゼルを呼んで、俺達3人はガゼルの背中に乗り、闘技場の中に上から入る。
『英雄達の帰還だ!』
拡声の魔道具で拡声されたルーガートの声が響き渡った。
それと同時に闘技場内に所狭しといる王都の人々から歓声が上がった。
ガゼルに指示を出して、俺達はルーガートのいる闘技場の中央に降り立った。
『本当によく王都を守ってくれた!お前達はヤマト王国の誇りだ!』
ルーガートの声に、更に王都の人々は歓声を強めた。
『そして!勇者ディスアスター・サタンと我が娘エミリア・ヤマト、聖女ララ・ルシエラの結婚式をこの場で執り行なう!これは魔族には決して屈さぬという我ら人族の強い意志の表れである!』
歓声が爆発した。あまりの声に闘技場が揺れているかのようだった。
黒髪の老年の女性が歩み寄ってきた。
アルカ神教教皇のシシリーだ。
「本当はしっかりと神殿で行いたいのですがね」
そう言ってシシリーは苦笑した。
そしてシシリーが何か魔法を唱えると、シシリーの周囲に白く発光する結界が現れた。
「即席で神殿を築きました。あまり長くは保たないので、始めましょう」
教皇ともなると即席で神殿を築けるものなのか。
俺達はその神殿の中に入った。
「エミリア・ヤマト。貴女は健やかなる時も、病める時もディスアスター・サタンをその命尽きるまで愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
エミリアは強い意志の灯った瞳を浮かべながら言った。
「ララ・ルシエラ。貴女は健やかなる時も、病める時もディスアスター・サタンをその命尽きるまで愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
ララはふわりと笑いながら言った。
2人は異世界の住人であるこの俺を一生愛すると誓ってくれた。
次は俺の番だ。
「ディスアスター・サタン。貴方は健やかなる時も、病める時もエミリア・ヤマト、ララ・ルシエラをその命尽きるまで愛し続ける事を誓いますか?」
「ああ、誓う」
その瞬間、目の前が白い光に包まれた。
次に気付いた時には、あの白い部屋であった。
目の前にはやはり、創造神アルカディアの姿がある。
よりによって結婚式の最中にここへ呼ばなくても良いだろうと思う。
すると、アルカディアは申し訳なさそうに笑った。
もしかして、俺の考えている事がわかるのか?
そう考えると、アルカディアはゆっくりと頷いた。
身体が動かないから話す事はできないが、意志の疎通が出来るのは大きい。
・・いや、待て。
動く。
まだ指先くらいではあるが、確かに動かす事ができる。
必死に動かそうとしていると、それを見ていたアルカディアが口を開いた。
『偉大なる魔王よ。よくぞ王都を護ってくれましたね』
相変わらず頭に直接響く声だ。
別に構わないさ。俺が自分の意志で護ったんだからな。
だが、お告げをされなければここまでの備えをする事は出来なかったであろう。
そこは彼女には感謝している。
『貴方はこの式をもって世界に受け入れられました。じきに貴方の力は貴方に馴染むでしょう』
馴染む?どういう事だ?
疑問を浮かべたが、アルカディアは曖昧に微笑むのみであった。
『同時に、貴方は彼女に存在を知られました。どうか気を付けて』
彼女?一体誰の事だ。見当もつかない。
『4の月、1の週月の日にアルメイダ公国へ向かって下さい。その道中にある人物と貴方は出会うでしょう』
今回は随分と具体的なお告げじゃないか。
その人物と会ってどうしろと言うんだ?
そう思ったが、目の前がまた白い光で埋まっていく。
次に来た時に今感じた疑問を聞くとするか。
俺はそう考えた。
「・・スター?ディスター!」
目の前に心配そうなエミリアの顔があった。
「・・ああ。すまん。どうした?」
「どうした?じゃないわよ。誓いのキスよ」
周囲を見渡す。
シシリーは驚いたような表情を浮かべており、ララは心配そうな表情を浮かべていた。
「何よ。嫌なの?」
エミリアが少し拗ねたような表情を浮かべて言った。
創造神アルカディアは言っていた。
『貴方は世界に受け入れられました』
俺はずっと自分の事を異世界人だと考えていた。
心のどこかで、俺は向こうの世界の住人で、この世界の事は他人事のように考えていたのかもしれない。
だが、この式によって、俺はこの世界に受け入れられた。異世界人なのはやはり変わらないだろうが、それでもこの世界で俺は生きていても良いのだと、初めて心から思えた。
目の前のエミリアを見る。
俺がこの世界で生きようと思えたのは、目の前の少女のお陰だ。この少女の存在があったからこそ、俺は勇者として今この場所に居られるのだ。
そう思うと、途端に愛しさが込み上げて来た。
「ディスアスター・サタン。誓いのキスを」
シシリーがふわりと笑いながら言った。
俺は感情のままに、エミリアの唇を奪った。
唇を合わせると、より愛しさが込み上げてきた。
そのままエミリアを強く抱き締める。
エミリアはびくりと震えた後、俺の背中に手を回してきた。
そうして、ゆっくりと唇を離した。
エミリアの瞳は潤んでいた。
「それでは、ディスアスター・サタン。ララ・ルシエラに誓いのキスを」
次に出てきたのはララであった。
この少女との出会い、そして婚約はまるで嵐のようであった。
俺の過去を見て、それでも俺を受け入れてくれた少女。
最初は、この少女は守らねばならないと思った。
だが、彼女はそれに満足せず、俺と共に戦いたいと、精霊を喚び出し力を付けてくれた。
婚約した時には自信がなかった。今なら言えるだろう。
俺はララを愛している。
ララは瞳を閉じて、少し上を向いて待っていた。
そのララの唇に優しくキスをした。
「これでディスアスター・サタン・ヤマト、エミリア・ヤマト、ララ・ヤマトは夫婦として創造神アルカディアに認められました。3人に祝福を」
この日。
魔王が復活した日。
ひとりの勇者が世界に祝福された。
これで1章終了です!
次回から2章になります。
これからもどうぞよろしくお願いします!




