魔王教皇に会う
3の月2の週水の日。
地竜の売却額の合計は白金貨500枚を超えた。
相当の大金であるので、冒険者ギルドでもその大金を用意するために苦労したらしい。
そんな訳でもう一生困らないくらいの大金を俺達は手にした。
相変わらず第1王子スーガードの行方は見つかっていない。もう王都は出ているだろうと思われた。
今日は使い魔達のアクセサリーが出来上がる日だ。
俺はエミリアとララを連れてホーキンスのもとへと向かった。
「おお、勇者の坊主。待っていたぜ。物はもう出来てるからよ」
そう言ってホーキンスは俺達を案内した。
「王女殿下もこんな汚いところで申し訳ない」
ホーキンスはエミリアに恐縮している様子だった。
「いつも通りの態度で大丈夫よ」
そんなホーキンスにエミリアは苦笑しながら言った。
「おお、それは助かる」
ホーキンスは許可を得てひどく安心した様子だ。
この男は敬語というものが酷く苦手なのだ。
エミリアにはその事を事前に伝えているので、何も問題はない。
その後、完璧な出来の使い魔達のアクセサリー類をホーキンスから受け取り代金を支払うと、俺達はホーキンスのもとを後にした。
その後俺達は東街商業街で昼食を取り、神殿に向かった。
今日はある人物と会う予定があるのだ。
「会うのが初めてなのは俺だけか」
「私は社交会の時に会ったことあるわね」
「私は聖都アルカディアでお会いしました」
神殿に到着すると、ララの元従者で修道女のクレアが俺達を出迎えた。
「・・お待ちしておりました」
ララはクレアを一瞥しただけで何も言う事はなかった。
クレアの以前までの役目は、ラビエラ・ハーンの直属の部下としてララを監視する事だったという。で、あるならばララのこの態度も当然と言えた。
クレアに案内されたのは、以前ララと会った小部屋であった。
クレアは俺達を案内し終わると、そそくさとその場を離れた。
部屋の中には豪奢な修道服に身を包んだ老年の黒髪の女性と、強大な魔力を持った猛禽類のような目をした茶髪の男性であった。
その男性は俺を見てわずかにであるが身構えた。
「御機嫌よう、エミリア王女殿下」
「ええ、御機嫌よう教皇シシリー」
シシリーと呼ばれた老年の女性は立ち上がると、優雅に一礼した。エミリアもそれを受けてスカートの裾を摘み、一礼した。
彼女はアルカ神教の教皇であるシシリーだ。俺達の結婚式を執り行う為に聖都アルカディアからはるばるこの王都まで来たのだった。
「聖女ララもお元気そうですね」
「はい。シシリー様もお変わりなく」
「ふふ、最近は身体の節々が痛くてね。寄る歳の波には敵わないわ」
そう言ってシシリーは笑うと、次に俺を見た。
「・・貴方が勇者ディスアスター・サタンですか」
「そうだ」
「初めまして。私はアルカ神教の教皇を務めています、シシリーです。どうぞよろしく」
「ああ、よろしく頼む」
「後ろの彼はSランク冒険者のアデルよ。"土帝のアデル"と言えばわかるかしら。私の護衛なの」
「・・アデルだ。俺には気にせず話を続けてくれ」
アデルはそう言うと、警戒を解かずに腕を組んだ。そんなに警戒してもこちらは何もしないがな。
シシリーは挨拶を済ませると、俺の目をじっと見つめた。そして彼女はその珍しい黒色の瞳に驚愕の色を浮かべた。
「驚いたわ。貴方の未来が見えない。それに、私よりもアルカディア様の加護を受けているのね」
彼女、シシリーは"未来読みの巫女"だ。ララと同じ魔眼保有者で、ララが過去を見るのに対し、シシリーは未来を見る。
「貴方、もしかしてアルカディア様にお会いした事があるんじゃない?」
「・・そうだな。二度会った」
「やっぱり。貴方からはアルカディア様の気配を濃密に感じるものね」
まぁ、そもそも俺をこの世界に呼んだのは創造神アルカディアなのだ。彼女の濃密な気配を感じるのはその影響も多分にある気がする。
「この近年、私が見えない未来が増えました。それはつまり、アルカディア様の力の及ばぬ、"生粋の"魔族が関係していると私は考えています」
そう言ってシシリーは真剣な表情を見せた。
創造神アルカディアの力が魔族には及ばないというのは初耳だ。だが、生粋の、とはどういう事だろうか。
「すまんが。生粋の魔族とはどういう事だ?」
「ええ、それはね。魔族には大きく分けて2ついるのよ」
そう言ってシシリーは説明を続けた。
魔族はある日唐突に生まれた"生粋の"魔族と、その"生粋の"魔族に支配されて配下になった魔族の2種類がいるという。
そしてその"生粋の"魔族には創造神アルカディアの力が及ばないらしい。
また、その"生粋の"魔族は"瘴気"ともいうべき濃密な禍々しい魔力を持っているそうなので、すぐにわかるそうだ。
「それほどの加護を受ける貴方ですから、私などには想像もつかないような、大いなる運命をお持ちなのでしょう」
大いなる運命か。俺は運命という言葉は嫌いだ。今も昔も俺は自分の未来は自分で決め、自分で勝ち取ってきた。そこにたとえ大いなる何某の力が働いていたとしても、俺は俺自身の進む先を、俺自身で決めている。それだけは否定させるつもりはない。
「貴方と深く関わったエミリア王女殿下と聖女ララも、以前とは違い未来が見えなくなっています。ならば貴方は運命を変える力を持っているのではないでしょうか」
「未来は自分の力で勝ち取る物だからな」
「ええ、その通りです」
俺は少し面食らった。
向こうの世界にも未来予知の能力者は居た。
そいつらは一様に"未来は決められている"とか言ってのけるような輩ばかりであったからだ。
「意外ですか?私がこのような事を言うのは」
そう言ってふわりとシシリーは笑った。
驚きが顔に出ていたらしい。
「そうだな。少々意外だった。俺が今まで会った未来予知の能力者とお前は少々違うようだな」
「ふふ、そうですか?未来なんて、少しの事で簡単に変わってしまうものなのですよ」
シシリーは語った。
自分が未来を予知し、その者に教えると、それを意識してしまい予定とは違った行動を取る。そうすると、結果的に予知した未来とは変わってしまうのだと言う。
「それならば、お前の言う運命を変える力とはなんだ?」
そういう事なら、誰しもが運命を変える力を持っているように聞こえる。
「先程申した通り、未来とは簡単に変わる物ですが、たまに何をしても絶対に変わらない未来が存在します。どんな道筋を通ったとしても絶対に変わらない道。それを私は運命と呼んでいます。どんな人間でも私は必ずその運命を見ることが出来ますが、貴方や貴方と関わったエミリア王女殿下や聖女ララにはそれが見えなくなりました。以前は見えていたものが、です。ならば、貴方はその運命すらも変える力があるのではないかと考えました」
彼女の言う未来とは、きっといくつもある道の1つであり、時折、その道の全てが交わる交差点が存在する。それを彼女は運命と呼んでいる。
「絶対に変えられないものなのだとしたら、なぜ俺には変えられると考える?」
「それは、貴方がこの世界ではない世界の住人、つまりはこの世界の理から外れた人間だったからではないでしょうか。だからこそ、この世界の理に縛られた人間の運命を変える事ができる」
「そういう事か」
なるほど。異世界人ならではという事か。
それなら、1200年前のヤマトもこの世界の運命を変えたのかもしれないな。
まぁ、結局のところ俺に運命を変える力があろうがなかろうが関係ない。
俺はただ、俺にできる事をやる。それだけだ。
「貴方達の運命はもう私には見えませんが。勇者ディスアスター・サタン。貴方ならきっとこの2人を幸せにできると信じていますよ。そしてそのついでで良いので、この世界も幸せな世界にしてください」
「ああ。元々そうするつもりだ」
「ふふ。式典の日を楽しみにしていますよ」
こうして俺とシシリーの初面会は終わった。




