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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王災厄の足音を聞く

 第1王子スーガード・ヤマトが姿を消した。

 もう結構前から自室にこもって出てこなかったらしいが、食事すら取っている形跡がなかったため不審に思っていた侍女が部屋に入ったところ、スーガードの姿が無かったらしい。

 この事は大々的には発表せず、秘密裏に捜索するそうだ。

 この時期に不審な動き、そして失踪。

 もう俺の中でスーガードへの警戒度は最大にまで上昇していた。


「仮にスーガード兄様が何かを企んでいたとして。ここまであからさまな動きをするのは一体なぜかしら」


 魔王邸夕食の席で報告を終えたエミリアは言った。


「普通なら怪しまれないように立ち回りますよね」


 怪訝そうな表情を浮かべたララが言った。


「何かやらなければならない事があったんじゃないか?」


「やらなければならない事か。その可能性はあるかも。まぁ、何も手掛かりがないからわからないんだけどね」


 エミリアは溜息を吐いた。


「そもそも疑問があります。スーガード様はあの部屋から一体どうやって消えたのでしょうか」


 聞くとスーガードの部屋は窓もないらしい。

 スーガードの部屋への道は1つしかなく、そこに行くための入口には衛兵が常駐しているそうだ。

 誰にも姿を見られずに居なくなるのは不可能だとシスは言った。


「いや、不可能ではない」


 俺はシスの意見を否定した。


「例えば。リシル」


「はい、魔王さま。"シャドウ・ウォーク"」


 リシルが魔法を唱えると、リシルは自身の影にずぶずぶと沈んでいき、姿を消した。

 そして次にはシスの影から現れた。

 唐突に背後を取られたシスがびくり、と身体を震わせた。


「と、このように闇魔法の使い手であれば、姿を消して移動する事は可能でございます」


 リシルはスカートを摘み一礼すると、自身の席へと戻っていった。


「ありがとうリシル。それに、もっと簡単に誰にも見られず移動する方法を俺達は知っているはずだ」


「あ、転移魔法」


「その通りだ」


 転移魔法が使えるならば、そもそもの前提が崩れるからな。密室の部屋から姿を消すくらい造作もない。


「でも、スーガード兄様は転移魔法の存在を知らないはずよ。一体どうやって・・」


「それこそ。魔族じゃないのか?」


 転移魔法くらい知っていても不思議はない。


「あんなに魔族を毛嫌いしていたスーガード兄様が魔族に力を貸すのかしら・・」


 エミリアはそう言って首を傾げた。


「何にせよ、わからない事を考えていても仕方ない。やれる事をやっていこう。シスはスーガードに関する情報収集を続けてくれ」


「かしこまりました」


 皆が口々に同意の言葉を口にした。


 異変は次の日にやってきた。

 冒険者ギルドの兎人族の受付嬢リサが魔王邸を訪ねてきたのだ。


「ディスアスター様に緊急の指名依頼がございます」


 俺はエミリアとララを連れて、受付嬢リサと共に冒険者ギルドへと向かった。

 そのまま俺達は本部長の執務室に通された。


「よく来てくれたな勇者。指名依頼はこの3人で受けるのか?」


 マチスは険しい表情で執務室の奥のデスクに居た。


「内容次第だ」


「・・良いだろう。依頼だが、ゼロニアの森から大量の地竜が溢れ出した。速やかにこれを討伐、そして可能であれば地竜が森から出てきた理由を探って欲しい」


 地竜が大量に縄張りである森の奥から出てくる。普通の状況ではない。


「命からがら逃げてきた行商人によると、何か物凄い轟音と地響きが聞こえた後、地竜達がまるで何かから逃げるように森から出てきたそうだ」


 その轟音の主が原因の可能性が高いな。


「それで、改めて聞くが。この依頼はその3人で受けるのか?指名依頼は勇者に出した物だが、パーティで受けるのも構わない」


 ふむ今回の依頼はかなりの危険が伴うだろう。

 エミリアはともかくララは連れていけない。

 俺がエミリアを見ると、エミリアは頷いた。

 今回はエミリアと2人で行くか。


「ディスター様。私を連れていかないおつもりですね?」


 俺が口を開こうとしたところ、ララが先んじて声を上げた。


「ああ。そう考えている」


「・・私も連れて行ってください」


「・・なに?」


 ララは強い意志の灯った瞳で俺を見据えた。


「これからの旅でも、このような危険な場面は増えていく事でしょう。その度にディスター様は、危険だからと私を置いていくおつもりですか?」


「・・そうなるな」


「確かに、私の今の力では、エミリアのようにディスター様の隣で戦う事は出来ないでしょう。だからルノア砦では後方支援に甘んじました。ですが、その時に強く実感しました。私はエミリアのように、貴方の隣で共に戦いたい」


 普段聞き分けの良いララの、初めての我儘だった。


「ならどうする?」


「私に、使い魔召喚をさせてください」


 それがララの答えだった。


 ◇


 一度魔王邸に戻り、再び来た時に改めてこの依頼を"何人で"受けるか答えるとマチスに伝えた。

 マチスは、


「なるべく早く済ませてくれ」


 とだけ言ってそれを許してくれた。

 緊急の依頼なのだが、彼が融通の利く男で良かった。


 俺はララに条件を出した。

 使い魔を召喚し、その使い魔と共に俺と戦う。

 それで確かな力があると認めれば、今回の依頼に連れて行くという条件だ。

 ララはそれを了承した。


 俺はララのために使い魔召喚のスクロールを用意した。

 何かあった時の為に俺は白紙のスクロールと魔法陣用のインクを多数常備しているのだ。


「ララ。使い魔召喚はイメージが大切だ。お前が使い魔に求める物は何か。それを明確にイメージし、魔力をこめろ」


「わかりました」


 ララは思う。自分が使い魔に求める物は何か。

 とにかく強いこと?違う。未熟な自分ではきっと扱いきれないだろう。

 ならば自分が求める物とは。

 未熟な自分と共に成長し、お互いに支え合いながら戦っていける存在。

 ララは使い魔召喚の魔法陣に血を垂らすと、その存在を強くイメージしながら魔力をこめた。

 魔法陣から光の柱が立ち上り、やがて小さな影を形作った。

 それは小さな女の子であった。体長は50センチほど。ララと同じ白い髪はゆらゆらとまるで"光のように"揺らめいており、白い瞳でララをじっと見つめていた。やがて彼女はニコリと微笑むと、ふわりと飛び上がり、ララの肩に乗った。


「光の精霊か。まだ幼体だな」


「わ、可愛いわね」


「光の精霊、ですか。貴女は私と一緒に戦ってくださいますか?」


 ララは光の精霊に尋ねた。精霊はその問いに対し、こくりと頷いた。


「貴女の名前を教えてくれますか?」


 精霊はゆっくりと横に首を振った。

 名前がまだ無いらしい。


「なら貴女の名前は今から。"オウラ"です」


 ララが名前を口にすると、精霊の身体が光り輝き、オウラは光の中に姿を消した。

 そして次に目にしたのは、ララ程の背丈に成長したオウラの姿であった。


「名を得て成長したか。良い使い魔を呼んだな、ララ」


「はい。これからよろしくお願いしますね、オウラ」


 オウラはララの呼び掛けににこりと微笑むと、力強く頷いた。


 ◇


 魔王邸地下訓練場。

 そこで相対する俺とララの姿があった。


「精霊の力の使い方はわかるか?」


「ええ。自然に理解できました」


「そうか。なら始めるぞ」


 俺は身体強化魔法を全力で掛けた。


「ええ。いきますよ、オウラ」


 ララはそう言うと、両の掌を合わせた。


「"精霊化"」


 ララが魔法を唱えると、ララの全身が光に包まれた。そして次に現れたララの姿は、まるでオウラのように髪が光の如く揺らめいていた。

 ララはそのまま右手を前に掲げた。


「"エンシェント・レイ"」


 ララの右手からゴパッ、という轟音を立てて白い光の極光が放たれた。

 俺は右手に一瞬で黒い極光を纏い、拳を前に突き出した。


「"黒灼大砲"」


 黒い極光と白い極光が衝撃波を伴いながら激突し、せめぎ合う。

 やがて黒い極光が白い極光を飲み込むと、黒い極光は大爆発を起こした。

 爆発の閃光が消えると、そこにララの姿は無かった。

 魔力感知を高めると、巨大な魔力の反応を天井付近に感じた。


「"ミラージュ"」


 宙に浮いたララが魔法を唱えると、ララの姿が無数に増えた。


「"エンシェント・レイ"」


 その無数のララの右手全てから、白い極光が放たれた。極太の光のレーザーが俺に向かう。


「"暴食王の鎧(グラトニーメイル)"」


 俺は一瞬で"暴食王の鎧(グラトニーメイル)"を纏うと向かってくる白き極光を全て殴り飛ばした。そして最後に向かってきた光の奔流の中を突っ切って発射台となっているララを捉えると、右拳をララの顔に向けて放った。

 そして、当たる直前で拳を止める。

 ブワッ、と突風が巻き起こり、ララの髪が激しく揺らめいた。

 無数のララ達がふわりと全て消え、目の前のララだけが残った。


「・・死ぬかと思いました」


 そう言ってララはゆっくり地面に降りると、"精霊化"を解除した。


「ディスター様のそのお姿。格好いいですね」


 そう言ってララは笑った。

 俺も"暴食王の鎧(グラトニーメイル)"を解除した。


「よく怖いと言われるんだがな」


「私は好きですよ。そのお姿」


 やはりこの世界の住人に向かうの世界の常識は通用しないらしい。それともララが変わっているのか。


「ララ」


「はい」


「・・合格だ」


「はい」


 そう言って微笑むララの瞳から涙が零れた。

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