魔王と聖女の1日
3の月1の週土の日。
俺はララと北街職人街にいた。
「ホーキンスさんは婚約披露パーティーの時来てくださった方ですよね」
「そうだ。ペンダントを作ってくれた職人だな」
エミリアは今日は王城に用事があるとシスを連れて行った。
なので本日はララとデートをする予定である。
出会って2日で惹かれ合い婚約した俺たちはまだまだお互いに知らない事が多い。
今日はお互いの事をより深く知る為の日というわけだ。
「ふふ、初めてのデートですね?」
ララはとにかく楽しそうな様子であった。
彼女は教会が誇る聖女様であるが、こうして無邪気に笑うときはとても歳相応に見える。
普段治療活動をしている時の彼女はいっそ神々しい雰囲気すら発しているので、俺やエミリアには飾らずに居てくれているのだと思えば嬉しく思える。
「ああ。まずは用事を片付けてしまおう」
「そうですね」
ホーキンスはいつもの机ではなく、奥にある工房に居た。炉には炎が轟々と燃え盛っており、ホーキンスが金槌で金属を叩いて鍛えていた。
集中しているのか、俺たちに気付く様子はない。
「邪魔をしては悪い。あっちで待っていよう」
手前のいつもの机を指差し言った。
「はい、ディスター様」
ララは完全に聖女モードであった。いわゆる外交向きの顔である。
座って待っていると、奥からサラが顔を出した。
「あ!勇者様!すいませんお構いもせず!すぐにお茶をお出ししますね!」
サラはそう言うと、パタパタと再び奥に消えていった。
やがてしばらくするとお盆に湯呑みを2つ載せて戻ってきた。
「ホーキンスはいつもこうなのか?」
「ええ。すいません、お父さん集中すると何も聞こえなくなっちゃうので」
「いや、気にしなくて良い。ゆっくり待たせて貰うさ」
サラは俺とララを見比べ、溜息を吐いた。
「どうした?」
「・・いえ。勇者様と聖女様、お似合いだなぁと思いまして」
「あら、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
ララがそう言うと、サラは焦ったように手をぶんぶんと振った。
「そんな、お世辞じゃないですよ!本心です!」
そう言うと再び溜息を吐くサラ。
「どうされました?」
「勇者様のような素敵な殿方との出会いは無いかなぁと思いまして。勇者様とはどんな出会いをされたんですか?」
「あれは私が王都に来た時で・・」
ララとサラは女子トークを始めてしまった。
なんとなく会話に入りにくいので、流し聞きしながらホーキンスを待った。
しばらく経つと、ホーキンスが汗だくの姿でやってきた。
「おお!勇者の坊主に聖女様じゃねえか!ちょっと待っててくれな!」
「もう!お父さん!かなりお待ちになられてるんだからね!」
ホーキンスは悪い悪いと言いながら奥へと戻っていった。そして着替えを済ませて戻ってくる。
「さて、今日はなんの話だ?」
「ああ、いくつかまた注文をお願いしたくてな」
今日来たのは俺とエミリアとララを除いた家族全員分の対精神魔法の防護用のアクセサリーを作って貰う為だ。
「勇者の坊主はお得意様だからな!最優先でやらせて貰うぜ!で、何を作る」
「首輪を4つにペンダントを2つだな」
首輪はケルベロの3つの頭分とガゼルに1つだ。
ペンダントはリシルとシス用になる。
「首輪3つとペンダントは問題無いとして、最後の1つの首輪が難問だな。サイズが変わる首輪か」
そう、ガゼルの首輪は幼竜の時と成竜の時でサイズが変わるので可変式の首輪でないといけない。
「可変式にしても良いんだが、戻すのが手間だろう。いっそ伸縮する素材を使っちまうか」
「その方が良さそうだな」
「それだと締め付けられてガゼルちゃん痛くありませんかね?」
「大丈夫だろ。その程度の締め付けくらい気にしないんじゃないか?」
あれでも風竜王だからな。鱗は強靭だ。
「じゃあその方向で行くか。納期に指定はあるか?」
「少なくとも2の週の土の日までには欲しいな」
「余裕だな。2の週の水の日に取りに来い」
「わかった」
流石に仕事が早いな。これからも贔屓にさせてもらおう。
「そういや、来週の休息日はお前さん達の結婚式か。この前兵士達が飾りを付けにきたぞ」
来週の式典に向けていま王都中に飾り付けが施されている。もはや式典は王国にとっての一大イベントとなっていた。
王国中の人々が俺たちの結婚式をひと目見ようと王都に集まってきている。
「なんか随分飾り付けをする場所の指定が細かいとか兵士達はボヤいていたな。ご苦労な事だ」
「飾り付けをしていただいている兵士の方々には頭が下がりますね」
そう言ってララは微笑んだ。
「当日は俺達も観に行くからよ。幸せになんな」
「ふふ。ホーキンス様にお作りいただいたこのペンダントは当日も付ける予定ですよ」
ララが胸元のペンダントを握りながら言った。
「おお、そりゃなんて名誉な事だ!」
ララの言葉にホーキンスは大層喜んでいた。
王族の結婚式に自身の作ったペンダントを使って貰えるのだ、職人冥利に尽きるらしい。
「それじゃまた来週の水の日に待ってるぜ!」
そうしてホーキンスのもとを後にした。
「この後はどうするか」
「私、冒険者ギルドに登録してみたいです!」
ララは教会で修行していた頃は冒険者ギルドには建物にすら入らせて貰えなかったらしい。
そう言えば俺と初めて出会った時も建物の外で待っていた記憶があった。
「なら行こうか」
「はい!」
ララはふわりと笑って俺の手を取り走り出した。
◇
「はい、それではこれで登録完了になります」
兎人族の受付嬢リサからララはギルドカードを受け取った。
ララは目をキラキラさせてギルドカードを眺めていた。当然そのランクはFである。
「依頼はまた今度3人で受けよう」
「はい!楽しみですね!」
そう言って笑うララに、受付嬢リサは微笑ましいものを見るように目を細めた。
「ディスアスター様はパーティは組まれないのですか?」
「パーティか。何ならエミリアと3人で組むか」
「あ、それ良いですね」
それでダンジョン攻略とか楽しそうだ。
「その御三方で組まれたら王都最強パーティの誕生ですね」
それにパーティを組めば依頼はそのパーティ内での最高ランクの冒険者に合わせた依頼を受けることができる。つまり俺とエミリアとララで組めばAランクの依頼が受けられるのだ。
「また後日パーティを組みに来るさ」
「お待ちしております」
さて。ギルド登録も終わったしそろそろ昼時である。どこかに入って食べるとするか。
「あの、ディスター様。私食べ歩きというものをしてみたいのですが」
ララが恐る恐るといった様子で言った。
「食べ歩きか。じゃあ適当に屋台の物を食べようか」
ララのリクエストに応えて予定変更だ。
冒険者ギルドのある商業街中央の大通りから一本北に道を外れると、そこは屋台通りである。
ララは数多くの屋台に目移りしている様子だ。
「ララ、何が食べたい?」
「うーん。よし、決めました!まずは焼きそば行きましょう!」
ララが選んだのは醤油の焼ける匂いが香ばしい焼きそばだ。
ララはそんなに多くの量を食べれないため1つ買って2人で食べる事にする。
「美味しいですね!」
「ああ、美味いな」
ララは初めての屋台に大喜びだ。見ていてこちらも嬉しくなる。
2人がかりなのであっという間に焼きそばが無くなった。
「次は何を食べましょうか」
「お好み焼きなんてどうですか?」
「そうしよう」
次もお好み焼きを1つ買って2人で食べる。
餅とチーズが入っていてこれも美味しい。
「もうお腹一杯です」
少食のララはこれでもう満腹なようだ。
だが俺はまだまだ食べられる。
更に俺は焼きおにぎりとステーキ串を追加して食べた。
「楽しいですね」
ララはステーキ串を食べる俺をニコニコ眺めながら言った。
「ディスター様と婚約してから。毎日が楽しいです」
「俺もララと婚約して良かったと思っているよ」
「この楽しい毎日を、私は守りたいです」
「そうだな」
そうしてララとの1日は過ぎていった。




