魔王さまとメイド
「あぁ・・」
ゆっくりと温泉に浸かる。
疲れが湯に全て溶けていくようだ。
ヤマトは本当に良い物を作ってくれた。
「失礼します」
ガラガラと扉を引いてリシルが入ってきた。
彼女は水着を着用していた。
「お背中を流しに参りました」
「・・大丈夫なのか?」
エミリア辺りが怒りそうだが。
「エミリア様とララ様には許可を取って参りました。水着を着用するならば良いと」
「なるほど」
しっかり許可を取ってきたわけだ。
流石何でもそつなくこなすリシルである。
「とはいえ、俺はまだまだ湯船にいるが」
「・・お隣よろしいですか?」
「ああ」
許可を出すとリシルはおずおずと湯船に入ってきた。
リシルは俺のいる所まで歩いてくると、隣に腰掛けた。
そう言えばリシルをこの世界に呼んでからゆっくりと2人で話した事は無かったな。
もしかしたらエミリアとララの2人はそれがわかってて許可を出してくれたのかもしれない。
「俺が居なくなって、魔王城はどうだった?」
「・・アマツ様が問題なく指揮を取っておりましたよ。元々魔王さまはあまりお仕事をなさる方ではありませんでしたからね」
そう言ってリシルは懐かしむように微笑んだ。
「むしろリシルが居なくなった事の方が影響は大きそうだな」
「ええ、そうでございましょうね。ですがそんな事はどうでも良いのです。私は魔王さまにお遣えしているのですから」
「今頃アマツが悲鳴を上げてそうだな」
奴がウガー!と叫びながら執務をしている姿が目に浮かぶようだ。
「リシル。この世界はどうだ?」
「・・そうでございますね。魔法技術は向こうの世界の方が進んでおりますが。この世界の人々は温かいように思えます」
「そうだな。俺もそのように思う」
向こうの世界は幾年も厳しい戦争が続いていた。
だからこそ、人族も魔族も他人に厳しかったように思える。
もっと閉鎖的で。他種族との関係は閉じていた。
「魔王さまがこの世界で生きようと思った理由。まだこの世界に来て数日のわたくしではありますが、わかるような気がします」
「きっと向こうの世界はこれから、この世界のように温かくなっていくんだろうな」
「ええ。それも魔王さまとヤマト様がご尽力なさったおかげでございます」
「その2人が揃ってもう居ないわけだがな」
「ふふふ、そうでございますね」
それはつまり、俺達の力はもう必要無くなったとあの世界が認めたのだろう。
そして、今度はこの世界で必要とされた。
ヤマトは1200年前に。そして俺は現代に。
ヤマトが封印したという魔王。俺はその魔王に復活の兆しありとの神託の後、この世界に召喚された。どんな理由で魔王の封印が解けるのかはわからないが、その魔王がこの国に危害を加えようというのなら俺が息の根を止めてやろう。
「それにしても魔王さまがヤマト様のご子息とご結婚なさるなんて。ヤマト様が聞いたらどんな反応をされるでしょうか」
「案外喜ぶんじゃないかな。これで親族だね!とか言ってな」
「確かに仰りそうでございますね」
「ああ」
この従順なるメイドにもこの世界で伴侶が見つかれば良いのだが。
何にせよ、これからもリシルは頼りにさせてもらおう。
「それでは背中を流して貰おうかな、リシル」
「はい、魔王さま」
そうして俺は湯船を出た。




