魔王ルノア伯領へと向かう
屋敷披露件婚約披露パーティーは成功裏に終わった。貴族達は知らない顔の者も含めて皆が直接"何かあれば力になる"と言ってくれた。
その様子にエミリアはその夜興奮した口調で、
「第1王子派の貴族も居たのよ?それが一気に私の陣営にひっくり返ったわ!」
と喜んでいた。
俺にそんな意図はなかったが、まぁ味方が増えるのはいい事だ。
権力者の影響力というものが莫大な力になる事は前の世界で魔王をしていた時に知っていたので、この世界での権力者である貴族達を軒並み味方に引き込めたのは大きい。
当然それぞれに打算があるのだろうが、ひとまず俺としては策が上手く回るように立ち回ってくれるだけで十分助かる。
難しい権力争いは自分に任せてくれとエミリアは言っていた。
1つ気になったのは第1王子スーガードが来なかった事だ。招待状は送ったそうだが、断られたらしい。奴は俺を見る度にまるで見下すような目で見てくる。来なくてこちらも清々するが。
策であるが、基本的には王国主導のもと行われる。お告げの内容も正確に民草に告知し、その上で勇者の策だと伝え配布するのだそうだ。
当然旅の人間や商人達はひどく焦った様子で王都を出て行ったそうだ。
この世界の人々にとって創造神アルカディアのお告げとは、それほど重い。
魔道具配布の際、これは使い捨てであり、無駄に使用しない事を厳命するのだそうだ。その辺の匙加減は俺なんかよりよほど王国の方が慣れているのだから、任せてしまう。
また、王国は材料の魔法陣用紙の費用を負担してくれた。結構バカにならない金額だったので素直に助かった。
ララはララで教会の方にお告げの内容を告知し、災厄の際は率先して怪我人の治療を行う事を確約させていた。
事前の心構えがあるだけで非常時の対応はガラリと変わる。これも効果は大きいだろう。
俺は俺でリシルと共にひたすら魔道具の量産をしていた。
リシルの影の数は最終的に30人まで増えていた。
決められた形の魔法陣を描くだけの単純な作業ならそこまで増やしても制御出来たのだ。
札は定期的に城の衛兵が屋敷を訪れ、束で持っていくという流れだ。リシルの影達は不眠不休で動けるので、10万もの札の量産はわずか3日で終わった。現在は王国から正式に依頼され、予備分を作成している。
また、リシルとは使い魔召喚を用いた影響で、通話のピアスを通さなくても離れた距離で会話ができ、リシルに関しては彼女を召喚したスクロールを使えば転移魔法陣を使わなくてもその場に召喚出来る事がわかった。
これでもしもの時は彼女をすぐに召喚する事が出来る。これはケルベロも同様である。ケルベロもリシルも戦闘能力は非常に高いので、もしもの保険になるだろう。
事態が動いたのは、2の月4の週月の日であった。
王城からやってきたのはいつもの衛兵ではなく、近衛騎士団最速のルークであった。
彼は身体強化の魔法を使って最速で屋敷を訪れた。
「ルノア砦から通信が来ました。すぐ王城に来て欲しいっす」
案内された王城の会議室に着くと、そこは物々しい雰囲気に包まれていた。
帝国との国境、ルノア砦に魔物の大軍勢が接近。
その情報は5年前の魔族大侵攻を嫌でも彷彿とさせた。遂に魔族が再び動き始めた。魔族との戦争が始まる。誰もがそう思った。
その中で俺は疑問を感じていた。創造神アルカディアの予言は王都に災厄の芽が近付いている、であった。
ルノア砦は王都ではない。だが、5年前の大侵攻を彷彿とさせる魔物の大軍勢である。
エミリアは必ずルノア砦に行くと言うだろう。そしてエミリアが行くなら俺も必ず付いて行く。
もしやこれは分断策なのでは。
俺が王都を離れている間に王都を襲撃するのではないか。そんな考えが頭をよぎった。
だが、そんな考えはエミリアの顔を見た時に吹き飛んだ。エミリアの瞳には決意の炎が揺らめいていた。
なるほど。分断策なのかもしれない。だったらさっさと魔物の大軍勢を片付けて、王都に戻ってやろう。王都にはユーリがいる。そしてリシルも、ケルベロもいる。俺が連絡を受けて転移するまでの時間くらいはそれで稼げるだろう。
俺はルノア砦に行く事を決めた。
会議は紛糾していた。
誰が行くか。誰が行かないか。まどろっこしい。
「ルノア砦には俺達が行く。戦力はそれで十分だ」
方針は決まった。
援軍には俺とエミリアとララの3人が向かう。
移動には小型の飛空挺を借りられる事となった。
これは俺が倒した地竜の魔石をコアに使っているそうだ。
俺たちは無限収納を持っているので、王都からの支援物資を持ち、まずはルノア伯爵邸を訪れる。
そしてルノア伯爵邸で更に支援物資を持ち、ルノア砦に向かう。
方針が決まってしまえばあとは早い。
まずはエミリアとララが支援物資を積み込みに行き、俺は使用する飛空挺に向かう。
「操作は大丈夫そうですか?」
「ああ。この型なら問題ないな」
飛空挺の操船は俺も出来るし、リシルも出来る。なので操船はリシルの影に頼む事にした。
これで俺は空の魔物の襲撃に備える事が出来る。
ルノア砦には約500名の魔法師が詰めているという。その500名が一ヶ月砦に立て籠もれるだけの食料をエミリアは無限収納に詰め込んだ。
無限収納の魔道具は俺には作れない。
ヤマトは本当に良い魔道具を作っていてくれたものだ。
一度屋敷に俺だけ戻り、リシルとシスに状況を伝える。
「リシル、もし王都で何か異変が起きそうになったらすぐに連絡してくれ」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ、魔王さま」
リシルは俺が負ける事などあり得ないと心から思っているので、全く心配などしてない様子であった。
「王都周辺の情報収集は欠かさず行います」
シスは少し緊張した様子であったが、王都の情報収集を確約してくれた。彼女はプロだ。これで少しでも王都の異変を早く察知できるといいが。
最後に庭にいるケルベロに声を掛ける。
「この家と王都を頼んだぞ、ケルベロ」
ケルベロは三つの頭全てでバウッ、と答えると、また丸まって眠り始めた。ケルベロはよく寝ているが、異変にはひときわ敏感だ。もしもの時は頼りにしている。
リシルの影を連れて王城に戻ると、飛空挺の発着場に皆が勢揃いしていた。
「俺も応援に駆けつけたいところであるが!この城を守らねばならん!ララを頼むぞ!」
「ああ。傷一つ付けさせはしない」
まず声を上げたのはカーチスであった。
カーチスはララの実の兄だ。つまり、カーチスは俺の義兄ということになる。
「ディスターさん。王都は私が護ります。遠慮なく暴れてきてください」
「お前ほどの実力者なら任せられる」
次に声を上げたのはユーリだ。
彼は位階序列第3位の実力者だ。位階序列はあくまで人族陣営のみを反映した順位であるが、彼ほどの実力者は世界を探してもそうは居ないであろう。
「ディスアスターよ。娘を頼んだぞ」
「ああ。任せろ」
最後はルーガート王であった。
彼は俺の義父になるが、父という感じはしない。
どちらかと言えば、友というのがしっくりくる。
俺はエミリアを見た。
「さっさと片付けて戻ってきましょう」
彼女としては母親の雪辱に燃えているのかもしれない。彼女は俺と共に戦うに相応しい力を有している。頼りにさせてもらおう。
「ディスター様やエミリアがたとえ傷付いても私がすぐに癒します」
ララは特級治癒魔法"神の光"が使える。俺とエミリアには無い力だ。その魔法は戦場で大きな力となるだろう。
「行くぞ」
こうした俺たちはルノア砦へと飛び立った。




