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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王来たる災厄に備える

 その後しばらくしてシスが馬車に乗って屋敷にやってきた。

 馬車の中には今日のパーティーで使う食材が積み込まれていた。

 エミリアがリシルを連れてシスの元へ向かう。


「シス。紹介するわ。こちらディスターの従者のリシル・ドラキュラよ。今日から貴方の同僚になるわ。ディスターと同じ世界からこの世界に召喚されてきたから、この世界の常識を教えてあげて欲しいの」


「ご紹介に預かりましたリシル・ドラキュラと申します。どうぞよろしく」


「私はシスと申します。リシルさん、どうぞよろしく」


 そう言ってリシルは"影の操り人形(シャドウドール)"を発動、5人の影を出現させ、馬車の荷物を降ろし始めた。


「これらはどちらへ?」


「奥のキッチンへ。案内します」


 リシルは早くも仕事を始めたようだ。シスとの顔も繋げたしもう大丈夫であろう。

 ケルベロは丸くなって寝ていた。

 これからはこの光景が日常となるのだ。

 まずは今日のパーティーをしっかりやろう。

 そして、今日、俺は来たる災厄に向けて一つ策を講じる。

 これがどう転ぶかはわからない。だが、少なくとも何もしないよりかは、何かが変わるはずだ。


 それからパーティーの準備が急ピッチで進められた。やはり、リシルの魔法の力は大きい。

 明らかに5人以上に増殖した影たちによって人海戦術によって作業をこなしている。これにはシスも舌を巻いていた。

 女性陣は湯浴みをした後、着替えだ。

 今日のパーティーは屋敷のお披露目もそうであるが、エミリアとララとの婚約を正式に発表する場でもあった。気合も入ろう。

 俺も湯浴みを済ませ、身を清めいつもの黒スーツに身を包んだ。礼装もあるが、これが一番性に合ってる。エミリアにも事前に確認をしたが、これで良いと言われた。


 やがて二人が着替えを終えてホールに現れた。

 エミリアは青いドレスであった。背中が大きく開いたデザインで、髪もアップにしておりいつもより数段艶やかであった。

 ララは対称に真っ赤なドレスだ。二人とも瞳の色にドレスを合わせたらしい。ララは胸元が大胆に開いたデザインで、艶やかながら聖女としての清らかさも残していた。


「エミリア。今日は一段と素敵だな」


「ありがとう。貴方もいつも通り素敵よ」


「それは何よりだ」


 今日のエミリアは本当に美しい。いつも見ない髪型だからか、余計に心臓の鼓動が早まる。


「ディスター様。私はどうですか?」


 ふわりと回ってニコリと微笑むララ。


「ああ。とても愛らしいな」


「ありがとうございます!ディスター様も、今日もカッコいいですよ?」


 くすくすと笑うララ。彼女は普段は聖女然としているが、笑うと途端に幼く見える。それが愛らしいのだ。

 料理も出来た。パーティーの準備は完璧だ。

 ホール内ではメイド服のリシルと侍女服のシス、そして5体のリシルの影が整列していた。

 表情の見えないリシルの影たちは見る人が違えば不気味にも見えるが、これも異世界の勇者らしくて良いとはエミリアの談である。


 最初にホールに現れたのは宰相ノーチス・ルシエラであった。


「やぁディスター!良い屋敷だな!婚約おめでとう!」


「ああ、ありがとう」


 すかさずリシルの影がノーチスにウェルカムドリンクを配る。ノーチスはリシルの影に驚いていたが、エミリアが説明すると、


「さすがは勇者よ!従者からして並ではないな!」


 とのお言葉をいただいた。

 その後はしばらく俺からすると見慣れぬ人々の来訪が続き、エミリアとララがそれを捌いていく。

 割と急な招待であったが、既にかなりの人数の貴族達の来訪があった。

 それとなくエミリアに尋ねると、まず第一に婚約前からそれとなく噂を流しており、いざ婚約が決まるとすぐさま招待状が王都の貴族達に送られていたらしい。

 王族の、それも次期女王候補筆頭の婚約披露パーティーだ、招待を断ると後が怖いらしい。人族の風習とはなんと面倒なものだ。

 だが俺もこれからこの人族の中で生きていくのだ、少しずつ慣れていかないといけない。

 次に来たのはトーマスとホーキンスとサラであった。この三人には俺から招待を送ったのだ。トーマスは名だたる王都貴族の面々に喜び勇んで向かって行ったし、ホーキンスとサラは完全に萎縮し小さくなってしまっていた。二人には申し訳ないがせめて美味しい料理や酒を楽しんでほしい。


 やがてパーティー開始寸前、最後に現れたのはヤマト王国国王ルーガート・ヤマトその人であった。彼は腰に剣だけを差し礼装に身を包む近衛騎士達を連れてやってきた。


「良い屋敷であるな。ディスアスター・サタンよ」


「ああ、俺もそう思う」


「くく。相も変わらず王たる余になんと不遜な態度よ」


 そのままルーガートはリシルからドリンクを受け取り、ホールの中央の端に用意された壇に上ると、声を上げた。


「皆の者。今日はよく来てくれた。今日は異世界からの勇者ディスアスター・サタンと我が娘エミリア・ヤマト、そして聖女ララ・ルシエラが婚約した事を発表する。勇者ディスアスター・サタンよ、ここに」


 事前に決められた段取り通り、ルーガートに呼ばれ俺も壇上に上がる。


「ディスアスター・サタンだ。今日俺は人族のエミリア、ララと婚約する。俺には異世界の魔族の血が半分入っているが、それでもこの世界で、人族達と、人族として生きていきたいと考えている」


 そう言うと、周りを見渡した。

 そしてすぐ目の前にいるエミリアとララが目に入った。俺はこの人族達を、愛しい人を守らねばならない。

 だが、王都に悲劇が起きれば、この2人はきっと悲しむだろう。この2人の笑顔を奪うわけにはいかない。

 2人に視線を送ると、2人は強く頷いた。

 今こそ、来たる王都の災厄への策を。


「俺は創造神アルカディアによってこの世界に連れてこられた。アルカディアは言った。王都に災厄の芽が近付いていると」


 人々が途端にざわざわとし始めた。

 当然だ。神からのお告げを伝えたのだから。

 隣のルーガートの表情に緊張が走るのが横目に見えた。


「それがどんなものかは、残念ながらわからない。だが、例えどんな災厄が来ようと、俺の手の届く範囲は守り切ると誓う。それが俺がこの世界に来た意味だと思うからだ。だが俺1人の力では限界があるだろう。エミリアとララとも力を合わせるが、それでも足りないかもしれない。だから、俺は考えた」


 そう言ってリシルに目線を送ると、リシルとリシルの影達は小さな紙の札を人々に配り始めた。

 この数日で用意したものだ。

 その札には魔法陣が二つ、書かれている。


「それが俺の考えた一つの策だ。その札に魔力を流してみてくれ」


 人々が次々と魔力を流していく、すると、札を持った人物を囲うように障壁が現れた。


「それは物理、魔法を防ぐ障壁を展開することができる魔道具だ。残念ながら使い捨てだが、上級魔法程度の威力であれば十分に防げる」


 再び周囲がざわざわとし始める。


「王都の住人は約5万人いるそうだな。更に旅人を含めればその倍はいるかもしれない。だから10万。その魔道具を用意する」


 その為に王族御用商人にエミリアに取り次いで貰い、素材となる魔法陣用紙は大量に発注した。

 量産する為の人手はリシルの"影の操り人形(シャドウドール)"がある。単純作業であればリシルの魔法はかなりの人数を制御できる。その為にもリシルを召喚したのだ。時間はかかるが十分量産は可能であろう。


「お前達はこの王都で力のある貴族だと聞く。だから頼む。この魔道具を王都中の人々に行き渡るよう手配してくれ。俺はこの王都が好きだ。この王都を守りたい。だから俺に、お前達の力を貸してくれ」


 そう言って頭を下げた。俺は魔王。王になってから頭を下げた事は今までなかったが、人族として生きると決めた。ならば頭も下げよう。


 静寂が、辺りを支配した。

 そして、次の瞬間、歓声が湧き上がった。

 顔を上げる。そこには、任せろ、やってみせると声を上げる貴族達の姿があった。


「ディスアスター・サタンよ」


 隣のルーガートが、声を上げた。


「このルーガート・ヤマトの名に賭けて、王都全ての人間にこの魔道具が行き渡るよう尽力すると誓おう」


「ああ、助かる」


 そう言ってルーガートは手を前に差し出した。


「お前を息子と呼ぶ事が出来る事を、余は誇りに思う」


 ルーガートの手を取り握った。


 これを皮切りに、歴史の波は一気に加速する。

 そして、この異世界の勇者の策が、王都リューベックの、そしてヤマト王国の運命を変える。

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