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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王覚悟を決める

 内街にはギルドカードを提示するだけで何の問題もなく入る事が出来た。

 普通は通行証を持っているか、特別に許可された人間しか入る事は出来ないはずだが。

 まぁ、入れたという事はエミリアが手を回しておいてくれたのだろう。

 エミリアには感謝せねばなるまい。

 俺はエミリアの助けが無ければ街にすら戻って来れないのだ。

 ひとまずは、内街まで戻ってきた事だし連絡を入れておこうか。


『ディスターだ。エミリア、いま大丈夫か?』


 返事がない。

 という事は手が離せないのだろう。

 このまま待っていよう。

 しばらく歩きながら待っていると、エミリアから通信がきた。


『ごめんなさい。訓練を、していたの。どうかした?』


 エミリアの息が切れている。

 カーチスにでもこってり絞られていたのだろうか。

 今日も彼女は努力をしている。

 俺の魔法を防ぐ結界を張ると意気込んでいたが、案外その日は近いのかもしれないな。


『いや、こちらこそすまなかった。地竜を狩ってもう内街まで戻ってきてるんだが、地竜はどこで出せば良い?』


『え、もう?さすが、早いわね!じゃあ、訓練場に、来てもらえる?』


『了解した』


 そう言って通信を切った。

 ふと横を見るとケーキ屋が目に留まった。

 貴族御用達のケーキ屋だ。美味しいと評判らしい。

 頑張っているエミリアにどれ、買っていってやろう。

 そう思い立ち、慣れないケーキ屋に足を運んだ。


 店員のオススメとやらを勧められるままに購入してケーキ屋を出る。

 ケーキ屋でいざケーキを買おうと思ったが、エミリアの好みを知らない事に気付いたのだ。

 彼女は普段の食事でも必ず美味しかったと言うし、シスが紅茶を淹れ茶菓子を用意する時にもやはり美味しいと言う。

 結局分からずに店員のオススメを購入するに至った。

 とりあえず戻ったら好きなケーキを聞く事にしよう。そう思った。


 城の入り口で2人の白銀の鎧の騎士が番をしていた。どちらもよく知る顔だ。その内の片割れが声を掛けてきた。


「お、ディスター殿。お帰りなさいっす」


「ああ、ただいま」


 その片割れはルークであった。

 ルークは俺の手にある袋に視線を向け、ニヤリと笑った。


「それ、ル・ボランのケーキっすね?エミリア様にっすか?」


「ああ、そうだ。日頃の礼にな」


 そう言うとルークは何故か目をぱちくりとした。

 驚いた様子だ。


「あらら。もう少し違った反応をすると思ったんすが。何にせよ良い傾向っすね」


「どういう意味だ?」


「いやぁ、最初の頃のディスター殿はこの世界の誰にも興味がありそうで無いような、宙に浮いたような感じだったっすからね。今はエミリア様だけにでも興味を向けていただいてるようで。嬉しい限りっす」


「そうか」


 にひひ、とルークが笑う。

 隣の騎士から職務中だぞ、とお叱りの声が入る。


「おっと、こりゃ失礼・・ちなみにエミリア様はモンブランが好みっすよ」


 それならちょうどモンブランとショートケーキを1個ずつ購入している。運の良いことだ。


 そのままの足で訓練場に向かう。

 訓練場では髪を後ろで束ねたエミリアとカーチスが模擬戦をしていた。

 剣術ではなく、魔法ありのルールのようだ。

 カーチスの剣戟を巧みに結界で捌いていた。

 普段のエミリアも美しいが、彼女はこうやって戦っている時が一番イキイキとしていて、輝いて見える。


 その様子をじっと見ていたシスにケーキを手渡し、この後の休憩で出すように頼んだ。

 シスはそんな俺に何か考えるような仕草を見せた後、ぺこりとお辞儀して準備に取り掛かってくれた。

 まもなくこの訓練場の端にテーブルと椅子とティーセットが置かれることだろう。


 シスは一通りセッティングを終えると、無言で清潔なタオルを俺に渡してきた。

 これは、俺からエミリアにタオルを渡せという事だろうか。


 しばらくカーチスとエミリアの訓練を眺めていたが、やがて二人はお互いに礼をするとこちらに向かって歩いてきた。

 俺の姿に気付いたエミリアの足が気持ち速くなった。


「お帰りなさい!帰ってたのね!」


「ああ。そっちもお疲れさん」


 そう言ってタオルを手渡してやる。

 エミリアはありがとう、と言ってそれを満面の笑みで受け取った。


「はっはっは!エミリア様は勇者殿に想われて果報者だな!」


 茶化すカーチスに、エミリアは顔をさっと赤くするとカーチスの尻を蹴飛ばした。


「あら?これル・ボランのケーキじゃない。どうしたの?」


 みんなよく見ただけで店の名前がわかるものだ。


「買ってきた」


「貴方が?」


「そうだ」


「あら、気が利くのね」


 ニヤニヤと笑いながら言ってくるエミリア。

 耳元が赤くなければしっかり茶化せたのにな。


「モンブラン。好きなんだろ?」


 俺がそう言うと、エミリアは目を丸くした。

 今日はよくこの表情を見る日だな。


「よく知ってるわね」


「ルークが言っていたからな」


「なるほど・・」


 あいつめ、と言いながら再び赤くなるエミリア。

 カーチスは口笛を吹きながら訓練場から去っていった。


「身体の熱が冷めたら食べよう」


「別に顔が赤くなってなんかないわよ!」


「誰もそんな事言ってないだろうに」


 あと真っ赤な顔で言われても説得力は皆無だ。

 ブツブツ言いながらエミリアは用意されていた椅子に座った。

 結んでいた髪を解き、パサリと金髪が肩に落ちた。


「それにしてもディスターがケーキをねぇ。どういう心境の変化かしら」


「日頃の礼の代わりだ」


 ふーん、と言いながらモンブランをパクリと口にするエミリア。


「おいしー」


 身悶えしながら食べるエミリア。

 喜んでもらえたようで何よりだ。

 買ってきた甲斐があった。

 俺も一口ショートケーキを食べる。

 甘い。


「地竜はどうだった?」


「ああ、二匹いた」


「あら、二匹も。大丈夫だった?」


「誰に言ってる?」


「確かにそうね」


 話しながらもエミリアはパクパクとモンブランを食べ進めていく。

 対して、俺は最初の一口目から進んでいなかった。


「それ、食べないの?」


「ああ、甘くてな。良かったら食べるか?」


「いただくわ」


 エミリアはショートケーキを皿ごとずりずりと引き寄せ、自分の手元に置いた。

 彼女のモンブランは既に姿を消している。

 そして何故か彼女は俺が使ってた方のフォークを使ってショートケーキを一口食べた。


「ねえ、知ってた?」


「何をだ?」


 エミリアはニヤリと笑って言った。


「アルカ神教では、間接キスは婚約者か夫婦同士でしかしちゃいけない決まりになっているのよ」


「・・そうか」


「何とも思わないの?」


「俺は魔族だからな」


「・・半分人族じゃない」


 そう言ってエミリアは頰を膨らませた。

 俺は一つ溜息を吐くと言った。


「次からはそう言った決まりがあるなら先に言ってくれ」


「善処するわ」


 そう言ってエミリアは最後に残ったイチゴを頬張った。


「それじゃ、地竜の鑑定をしましょう。シス、お父様達を呼んできて」


 エミリアの言葉を受け、シスは一礼すると訓練場から足早に去っていった。

 しばらく待っていると、ルーガート王と宰相であるノーチス・ルシエラが訓練場に現れた。

 彼はこの騎士団長カーチスの父親だ。


「ディスター!地竜を退治してくれたそうだな!」


 ノーチスは気の良い御仁だ。

 俺に対してまだ警戒をしている様子の大臣連中の中で唯一気さくに話し掛けてくる。


「ああ。まぁ結界の魔道具の材料調達のついでだけどな」


「ちょうどギルドの地竜を狩れるような人材が王都に居なくてな。困っていたのだ」


 そう言って大口を開けて笑うノーチス。


「ディスアスター。早く地竜を見せてくれ」


「了解した。大きいから離れていてくれ」


 ルーガート王に急かされたので、二匹の地竜を訓練場に出した。


「おお!地竜は2体居たのか」


「2体とも身体の損傷がかなり少ないわね」


「ふむ、ノーチスよ。どうだ?」


 ノーチスは2体の地竜の身体を隅々まで確認した後、答えた。


「ええ、これだけ損傷の少ない地竜であればオークションでもかなりの高騰が望めましょう」


「そうか。それでは買取金額はいくらになる」


「そうですね、小さい方の地竜で白金貨20枚、大きい方の地竜が白金貨25枚あたりでしょうか」


 そう言ってノーチスはこちらに振り向いた。


「それで、魔石もあるのだな?」


「ああ」


 そうして魔石も2つ出した。


「ふむ、質も大きさも十分だな」


「ディスアスターよ。結界の魔道具の件については聞いておる。アダマンタイト鉱石も含め、材料はこちらで負担させてもらおう。だからその魔石も買い取らせて貰えんか?」


「ああ、構わない」


 結界の魔道具以外に使い道もないからな。


「それではその二つの魔石も買い取らせて貰うとして、合計は白金貨70枚だな。結界の魔道具の素材は後でまとめて渡そう」


「了解した」


「ああ、そうだ、ディスター。明日の午後時間を空けておいてくれ」


「午後?構わないが何かあるのか?」


「明日になればわかる」


 にやりと笑うノーチス。

 何か企んでいるような笑みだ。


「あと、この後謁見の間で正式に叙勲するから、準備しておくように」


 ルーガート王はにやりと笑い、そう言い残してノーチスを伴って去っていった。

 それにしても。

 白金貨70枚か。まぁこれからの旅での軍資金として考えよう。それにしても多過ぎる気もするが。


 訓練場には俺とエミリアだけが残された。

 さて、謁見するというし、着替えくらいはしてこないとな。


「じゃあ俺は着替えに行ってくる」


「待って」


 エミリアに袖を掴まれたので、足を止めた。


「どうした」


「ちょっと待ってね。覚悟決めるから」


 すーはーと深呼吸するエミリア。

 なんの覚悟を決めるというのか。


「ディスター」


 彼女の透き通った青色の目が俺を貫いた。


「好きよ」


 耳まで真っ赤になりながら言うエミリア。


「・・それはまた急だな」


「急?どうして?」


「まだ俺たちは出会ってから1週間と少ししか経っていないんだぞ?」


 いくらなんでも早すぎる。


「出会った時間なんて関係ないわ」


「・・なにを焦ってる」


 明らかにエミリアは何かに焦っていた。

 でなければ、こんな事はまだ言い出さないように思う。

 俺が追求すると、エミリアは1つ溜息を吐いた。


「お父様がこのあと正式に叙勲するって言ってたでしょ?」


「ああ」


「その時に、お父様はその、私達の婚姻を結ぼうとする事になってるの」


 なるほど。それで焦っていたのか。


「人族の貴族が、ましてや私みたいな王族が政略結婚をするのは普通の事なの」


「確かに人族は妙に婚姻を急ぎたがるな。魔族と比べれば、だが」


「ええ、今回の事も、勇者の貴方を王族の身内にしておきたいという狙いでしょう。それに」


「それに?」


「来月の式典の時には王国中の貴族が集まるわ。きっと貴方には婚姻の申し込みが殺到するはずよ。貴方のような強大な魔法師の血は欲しいでしょうから。この婚姻はその為の牽制という意味合いも入っているの」


 そう言うとエミリアは目を伏せた。


「ごめんなさい、こんな事に巻き込んでしまって。貴方も本当なら前の世界に戻りたいでしょう?」


「なぜお前が謝る。俺をこの世界に連れてきたのはアルカディア神だ」


「でも!貴方を実際に召喚する魔法を使ったのは私達だわ」


 そう言ってエミリアはぽろりと涙を1つ零した。

 俺はそれを指で拭ってやる。


「俺は別にこの世界に連れてこられた事を恨んだりはしていない。むしろ感謝しているくらいだ」


「感謝?」


「ああ。この世界に来てヤマトが作った国を見ることが出来た。そして、大切に想える相手もできた」


 ああ、そうか。

 とっくに覚悟は決まっていたらしい。


「俺はこの世界で生きていくよ。エミリア」


 そう言ってエミリアの頰に手を当てる。

 赤かったエミリアの顔が更に真っ赤に染まる。

 まぁ、一応前の世界と行き来ができる魔法は開発しておこう。向こうには挨拶しとかないといけない奴が多いからな。


「あの、それで、とにかくそういう政略の入った婚姻なんだけど、それとは関係なしに私の気持ちはちゃんと伝えたくて、えと」


「エミリア」


「も、もし嫌だったらちゃんとお父様に言うから、すぐには無理かもだけど、婚約破棄してもらえるように取り計らうし、あの」


「エミリア」


 両手でエミリアの頰を挟み、視線を合わせる。

 エミリアの澄んだ青い瞳は潤んでいた。


「好きだ」


 エミリアの唇を奪った。

 アルカ神教では婚約者か結婚した相手以外との関節キスはご法度らしいが、キスはどうなんだろうな。

 まぁ、このあと婚約者になるらしいし、構うまい。

 そんな事を考えながら唇を離すと、エミリアは顔を真っ赤にしたままぼおっと固まっていた。

 そしておもむろに自分で頰を掴むと、ぐいっと抓った。


「痛っ・・夢じゃない・・」


「現実だぞ。戻ってこい」


「そう、夢じゃないのね・・」


 そう言ってエミリアはゆっくりと胸元に抱きついてきた。締め付ける力が強い。負けじと後ろに手を回し、抱きしめ返した。


「好きよ、ディスター」


「ああ」


「・・そこは俺も好きだ、じゃないの?」


「次から善処しよう」


「・・ばか」


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