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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王白き少女と出会う

 その少女は白であった。

 黒に塗りつぶされた俺とは違う。

 髪の色は確かに何の色にも染まっていない真っ白であったが、そういう事を言っているのではない。

 白という何にでも染まる色であるというのに、何にも染まっていない、純白。

 それが俺が彼女に抱いた感想であった。


「ああ、確かに困ってはいるな」


 年齢は恐らくエミリアと同じくらい、16.7だろうか。

 彼女と目が合う。

 燃えるような紅い瞳。

 俺と同じ紅い瞳だ。


「まぁ!やっぱりお困りだったのですね!それでは、こちらをどうぞ!」


 ふわりと微笑んで俺の手を両手で包み込む。

 ふと手の中に硬質な感触を感じ見てみると、それは銀貨であった。


「これは?」


「ふふ、実は先程見ていたのです。入場税が無いのですよね?」


「ああ、そうだが・・良いのか?」


「ええ。情けは人の為にあらず、ですよ?」


 コロコロと表情が変わる。

 どうも、調子が狂うな。

 なんというか、掴み所がないのだ。

 目の前のこの少女は。


「・・いや、入れさえすれば倍にしてすぐ返すさ。少しだけ時間を貰えればな」


「あらあら、それでは一緒に街に入れば時間も短縮できますね!」


 俺の手を掴み、その少女は駆け出した。

 少女に連れられた先には豪華な装飾の施された馬車であった。

 少女が俺の手を掴んでいる様子を見て、行者が渋い顔を見せた。


「ララ様・・」


「クレア。何か問題が?」


「・・いいえ。ありません」


「そうでしょうね」


 クレアと呼ばれた行者と話す彼女は先程とは打って変わり、無表情であった。

 その様子はその髪の色と合わせて清廉な印象を与えた。


「さ、街に入りましょうか!」


 くるりと反転し、彼女は俺にニコリと笑顔を向けた。


 彼女から借りた銀貨1枚を門で支払い、ギルドカードを見せ、無事に街に入る事ができた。


「助かった。俺はディスアスター・サタン。お前の名前は?」


「まぁ、ご丁寧に。私は名乗るほどの者ではありませんよ」


 くすくすと笑いながら言う少女。

 豪華な馬車を渋い顔で操る行者を尻目に彼女は俺とその馬車の横を歩いていた。


「それで、私はどちらまでご一緒すれば宜しいのでしょうか?」


「ああ、悪いが、冒険者ギルドまで大丈夫か?」


「ええ。もちろん大丈夫ですよ。冒険者ギルド。良いですね。私、冒険者ギルドには前から興味が」


「ララ様」


「・・わかっています。ディスアスター様?申し訳ありませんが、私、冒険者ギルドの前でお待ちさせていただきます」


 この行者と彼女の関係はどういったものなのだろうか。

 まぁ、とはいえ両者共に修道服を着ているので、自ずとわかりそうなものではあるが。


「十分だ。悪いな、付き合わせてしまって」


 ちらりと行者の女性の顔を見ながら言った。

 行者は迷惑そうに、というよりどこか汚らわしそうに俺を見ていた。


「クレア。その目をやめなさい。ディスアスター様に失礼ですよ」


「・・はい。申し訳ありません」


「いえ。良いのです」


 やはり彼女はクレアと呼ばれた行者をしている修道服の女性と会話する時には決まって表情を消す。

 それが何故だか、異様に気になる。

 俺と話す時はこんなにコロコロ表情を変えるのに。

 そうこうしてるうちに冒険者ギルドの前に到着した。


「それじゃあ、少し行ってくる。申し訳ないが待っていて欲しい」


「はい。もちろんです」


 ふわりと笑う彼女から目を離す。

 小走りで冒険者ギルド本部の中へと向かった。

 冒険者ギルドの中は朝ほどではないが、そこそこ賑わっていた。

 朝との1番の違いは酒場が賑わっているところだろう。

 視線を感じたが、朝の事もある。

 今は待たせている人間もいるので気にしない事にしてカウンターに足早に向かった。


「あら、ディスアスターさん。こんにちは」


 受付に居たのは兎人族のリサであった。


「依頼達成の報告に来た」


 そう言ってギルドカードを渡す。

 このギルドカードに依頼の情報が記録されているのだ。


「はい。えーと、こちらの指名依頼ですね。討伐の証明が出来るものは何かお持ちですか?」


「ああ、事前の情報には無かったが、地竜は2体居た。証明は2体共必要か?」


「なるほど。情報に齟齬があったのですね。申し訳ありません。証明は2体共お願いします」


 ふむ。

 証明できる部位どころか死体全てを持って帰って来ているが、流石にここで出すわけにはいかない。ここは魔石あたりが適当だろうか。


「これで大丈夫か?」


 カウンターの上に地竜の魔石を二つ置く。

 瞬間、周囲がざわりとどよめいた。


「ま、魔石ですか。魔石だと個体の認識が、いえ、でもこれほどのサイズと質の魔石は竜種でしょう。はい、こちらで結構です」


「そうか」


 死体を出す羽目にならずに良かった。

 俺は魔石を無限収納に収納した。


「収納持ちでしたか。流石ですね。では、こちらに依頼金額を振り込ませていただきました」


 そう言って渡されたギルドカードには白金貨1枚の文字が記載されていた。

 なるほど、エミリアは借金分をそのまま報酬にしたようだ。

 エミリアへの借金を返すには都合が良いが、今は状況が変わった。

 これでは都合が悪い。


「悪いが金貨2枚分を銀貨で引き出して貰って良いか?」


「ええ、もちろんです。少々お待ちください」


 そう言って再びギルドカードを渡すと、リサはギルドカードを持ってカウンターの奥へと消えていった。

 それからほどなくして、巾着袋を持って戻ってきた。


「こちらが銀貨20枚になります。ご確認ください」


「ああ。"アナライズ"」


 魔方陣が巾着袋を包む。

 ふむ、確かに銀貨20枚で間違いない。

 リサが目を丸くしていたが、今は気にするまい。

 それよりもこれ以上彼女を待たせる方が忍びない。


「では確かに。ありがとな」


「え、ええ。またのお越しをお待ちしております」


 足早にギルド本部を出る。

 彼女はまだ待っていた。

 あの豪華な馬車と、無表情の行者もいる。

 ほっ、と安堵の溜息を吐く。

 何の根拠もないが、彼女は待っていないような気がしたのだ。


「すまん、待たせた」


「いえいえ。今来たところですよ」


 くすくすと笑いながら言う名前も知らぬ彼女。

 俺と一緒に来たのだ、そんなわけなかろう、と思いつつ冗談だということもわかるので、特に何も言わず、巾着袋から銀貨を3枚取り出し、彼女に渡した。


「これは?」


「借りた分と、助かった礼と、待たせた分だ」


「まぁ。なんと信心深い」


「生憎信じる神はいない」


 神には会ったがな。

 クレアと呼ばれた行者の表情に剣が混じる。


「ではここでお別れだな。助かった。ありがとう」


「いえ、この先までは一緒の筈(・)ですので、そこまでは一緒に行きましょう」


 何を根拠に言っているんだ、と思ったが、確かに俺は城壁の東門までは確かに直進であるし、彼女の行き先も恐らくあそこであろう。

 間違いではないか、と彼女と共に歩く事にした。

 お互いに口を開く事はない。

 そのまま歩いていると、やがて馬車の足が止まった。

 それはアルカ神殿の前であった。


「今日はありがとうございました」


「・・礼を言うのはこちらの筈だが」


「いえ、そのお礼は先程戴きました。ですのでこのお礼は、素敵な時間をくれたお礼です」


 そう言ってふわりと笑う彼女。


「もう一度、名前を聞いても良いか?」


「いえいえ。ディスアスター様にはお教えする価値もない名前ですから」


「そうか」


 とことん彼女は名前を言う気が無いらしい。

 まぁ、良いか。彼女とはまた会う気がしてならない。


「そうですわ、ディスアスター様。不躾ながら一つお願いがございます」


「なんだ?」


「私(・)も(・)ディスター様とお呼びしてもよろしいですか?」


 私も、ね。


「構わない」


「まぁ、ディスター様はなんとお優しい方なのでしょう」


 そう言って両手を合わせながらぱあっと笑顔の花を咲かせる少女。


「ああ、感謝しろ」


「あら、随分横柄ですのね」


 そう言ってニコリと笑う。


「ララ様」


「わかっています」


 表情を消していた彼女であったが、ふわりとこちらを最後に見た。


「それでは勇(・)者(・)様(・)。またお会いしましょう」


 くすくすと笑いながら。

 彼女は馬車と共に神殿へと向かっていった。

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