魔王地竜を討伐する
外町をまっすぐ抜けて最外壁まで歩く。
最外壁は文字通り、この王都の一番外をぐるりと取り囲む外壁だ。
その高さは内街と外街を隔てる城壁の比ではない。
少なくとも倍以上はこちらの方が高いように思える。
外壁と、結界。
この二つが外界の脅威から王都を守っているのだ。
最外壁の東門では衛兵が身分証のチェックをしていた。衛兵は2箇所におり、それぞれが入場と退場をチェックしているようだ。
退場の方の列に並びしばらく待つ。
入場に比べて退場の方がスムーズに進めるようだ。
入場の方が手厚く警戒するのは防犯上当然と言えた。
俺もギルドカードを提示してチェックを終えた。
そして門を潜ると、ふわりと風が吹いた。
気持ちの良い風だ。
そこは一面草原であった。
遠くには山脈も見える。
この世界で初めての、外だ。
なんだか清々しい気持ちになり、ぐぅっ、と伸びをした。
「さて、行きますか」
街道は二股に分かれており、他の人々や馬車はどれも一様に右に曲がって行く。
対して俺の目的地であるゼロニア草原は左だ。
地竜の影響は顕著らしい。
さっさと討伐してしまおう。
俺は軽く準備運動をすると、身体強化魔法を掛けて走り始めた。
街道をひた走る。
景色が流れるように変わっていく。
街道の右側には森が現れていた。
左側は草原だ。地図によれば左側の草原がゼロニア草原で、右側の森がゼロニアの森だ。
地竜は元々このゼロニアの森の奥深くに生息していたのが、何かの理由で草原まで出てきてしまったらしい。
足を止め、身体強化魔法を解除する。
1時間くらい走っただろうか。良い準備運動になった。
久々の竜狩りだからな。準備運動は入念なくらいがちょうどいい。
さて、地竜はどこかと魔力の感知範囲を広げようとしたが、その必要はなかった。
目視出来たからだ。
遠くに小さく見える四足歩行の影。地竜だ。
しかも二匹が連なっている。
情報には二匹なんてなかったがな。まぁこういう事もあるだろう。
身体強化魔法を改めて掛け直し、右手は手刀を構え、更に黒い極光を纏った。
その瞬間、遠くにいた二匹の地竜がバッ、と同時にこちらを向いたと思うと、勢いよく逆方向に走り出した。
「逃げる気か!」
ドンッ、と爆音を立てて地面を蹴り、逃げる地竜を猛追する。みるみる間に地竜との距離が詰まっていき、やがて一匹の地竜は逃げ切れないと悟ったのか急反転した。
そして口を大きく開くと、口元に強大な魔力が収束していき、そのまま轟音を立てて炎のブレスを吐き出した。
「効くか!」
左腕にも黒い極光を纏い、そのまま左腕を振るう。極光が視界いっぱいに広がり、次の瞬間には炎のブレスが綺麗さっぱり消えていた。
しかし、今度は二匹目の地竜の口元に魔力が収束していき、同じように炎のブレスを吐き出した。
このまま交互にブレスを吐き続ける気か。
ならば。
右腕の極光がそのまま槍のような形状に変化していく。
「"黒灼の槍"」
槍を振りかぶり、今ブレスを吐いた方の地竜に向かって投擲した。
黒き極光の槍はそのまま炎のブレスを打ち破ると炎を纏いながら地竜の口から喉へと軽々と貫通し、上空に上がると、最後には轟音を立てて爆発した。
喉を貫かれた地竜は砂煙を上げながら昏倒し、地に伏した。
もう一匹の地竜はぐるると唸り声を上げながらこちらを睨み付けていた。
俺は右手にもう一度黒い極光の槍を顕現した。
地竜はブレスは吐かず、砂煙を上げながら牙を剥き、突進してきた。
「もう一丁!」
力の限り極光の槍を投擲する。
槍は音速に達し、地竜の胸を易々と貫通すると、轟音を立てて爆散した。
二匹目の地竜も口からごぽり、と血を吐いて倒れた。
二匹共まだ息はある。そのまま傷口から地面に血が流れ切るのをしばらく待つ。
中々のサイズの地竜だ。体長は一匹目は材料8mほどで二匹目は10mほどはある。
番いだったのだろうか。地竜は雌の方が大きいはずだから、この大きい方が雌だろう。
やがて流血が止まり、二匹共に鼓動が止まっているのを確認すると、魔力感知を強める。
地竜の体内に大きな魔力を感じ取り、右手に薄く黒い極光を纏うと、地竜の皮膚を切断、体内に腕を突っ込む。
そして目的の物を握ると、勢い良く手を引っこ抜いた。
魔石だ。大きさは60センチほどだろうか。質も十分だ。
同じように雄の方からも魔石を取り出すと、こちらは少し小さい50センチほどであった。
戦果は十分だ。地竜の身体の損傷も最低限に留まることができた。
これで借金も返済できそうだ。
俺はホクホク顔になりながら二体の地竜を無限収納の腕輪に収納した。
さて、行きよりも更に帰り道では速度を上げ、意気揚々と凱旋気分で街にまで戻ってきた俺であるが。
一つ問題が発生した。
「入場税は銀貨1枚だ」
そう、出るときには無かったが、街に入るのにはなんと税が必要であった。
今俺の無限収納の中には金になる物がこれでもかと入っている。入っているが。
貨幣はない。
エミリアに借りた金も魔道具用で綺麗さっぱり使い切った。
さて、どうするか。
「払えないんだったら街には入れないぞ。後がつかえてるから入らないんなら傍に退いてくれ」
とりあえず言われた通りに傍に退いた。
これでまた並び直しだ。
方策はいくつかある。
まず1つ目。強行突破。
これはパスだ。犯罪者になるばかりか、エミリア達にも多大な迷惑を掛ける事になる。
では2つ目。転移魔法陣を使う。
これも避けたい。使用しているところを誰かに見咎められるかもしれないし、記録上俺は一度街の外に出ている。それで街の中に転移した日にはじゃあお前はどうやって中に入ったんだ?という話になる。却下だ。
では3つ目。その辺の行商人にでも一時借りて、冒険者ギルドで依頼達成を報告、報酬を得て利子を付けて返す。
却下だ。貸してくれる相手が居るとは思えない。
最終手段4つ目。エミリアに連絡をする。一番無難だろう。エミリアに通話のピアスで連絡すれば街に入れるよう取り計らってくれるだろう。
その代償に俺はエミリアに笑われるだろう。間違いない。奴は腹を抱えて笑うはずだ。
だが、これが一番マシな手段なのも事実。
ぐぬぬ。
そうやって唸っていると、1人の少女が歩み寄ってきた。
「あの、もしかしてお困りでしょうか」




