ゴレムの用事
第4話のあとがきです。
心世界とは別、ここは現実世界。
二〇十二年、日本の大都市、名は東京。
大きなビルに囲まれ、人が行き来するこの街はいつも騒がしい。
今、この場に生きる人々の大半がドリームゲートを所持している。
街を見れば空に指を触る者、頭に指を置いて話す者。
はたから見れば意味のない行為だが、実際はドリームゲートが視覚を通して写すタッチパネルを触っているのだ。
今の世の中に携帯電話など存在しない、そんなものは二一世紀に入ると同時に姿を消した。
パソコンもディスプレイ入らないしデスクトップもハードディスク端末のように小さく、ドリームゲートと接続することで仮想ディスプレイが表示される時代である。
この時代に生きる者は、この技術の急成長に対しどのような思いを抱いただろうか。
否、抱きはしたが関わろうとはしていない。人は常に進化する日常を満喫するだけ、恵まれないものの日常など考える余裕がないのと同じように。
「……待ち合わせはここか」
大きな建物が並ぶ街並みにはずれた小さな喫茶店で、薄着のジャンパーを羽織る一人の男性。
男の名は五十嵐巌。心世界オンラインでは"ゴレム"の名で通っている。
ゲーム内と同じくスキンヘッドで、30後半の容姿は初老間近を思わせる渋さが目立つ。
サングラスなどをしたら少し強面に見えるだろう顔立ちで、実際はゲーム内と同じく陽気な性格である。
巌が喫茶店に付いて数分後、巌の元に一人の男がやってきた。
白衣姿にメガネと、まさに科学者を思わせる風貌の男だ。
30代後半にしては少し若く見える繊細な顔立ち。身体はやせ細っており、屈強な体格の巌に比べるとすぐに折れてしまいそう。
栄養もろくに取れていない、そんな憶測が出来てしまうほど弱弱しい体格。
「おう"圭吾"。久しぶりだな」
巌が男の名を呼ぶ。
男の名は睦月圭吾。神園コーポレーションの社員である。
彼と巌は高校時代の同級生で、今でも付き合いのある中である。
「やぁ巌、すまない仕事が休みの日にわざわざ」
「気にすんなよ、仕事の無い日は暇なんでな。もう妻とは離婚しちまって2年。寂しさを埋めるためにネットとは親父のやることじゃねぇや」
巌はゲームと同じく、がははと豪快に笑い自身の不幸話すらさりげなくネタにする始末。
彼は妻と別れた後、心世界オンラインに足を踏み入れたプレイヤー。
ちなみにver1からいる古参の一人で、それゆえに心怪のこともよく知っていた。
「……親父とは言ったものだな、僕らももうすぐそういう年頃か」
ふぅ、とため息をつき圭吾がぼそりと。
そして少しの間の後、圭吾はうなだれ、言った。
「巌、僕はもう駄目だ。もう会社の意向に従うのはうんざりだ!!」
まるで助けを求めるように言う圭吾。
それをなんど巌は聞き続けたことだろう。そしていつも通りにこう返す
「その、なんちゅうかな。俺は一般人だからあまり触れることはできねぇ。俺は俺で必死に心怪を狩り続けている。力になってやれるのはその程度だ」
「本当にすまない巌。本来ならば心怪にもあまり関わってもらいたくはない。君が意識不明になったりしたら、僕は……」
「言うな圭吾。お前もお前なりに抗えよ。その……"神園の計画"ってのによ」
あまり人のいない喫茶店にて、頼んだコーヒーが運ばれてくる。
そこで一旦声のトーンを落とし、軽くコーヒーに一口付ける圭吾。
「……本当に、今の世の中がわからなくなりそうだよ。僕は」
「圭吾、お前はどこまで知ってるんだ?そしてそれは……場に公表をしたらまずいことなのか?」
「今の世の中は全て神園が……"ゴッドエデン"握っている。何かしでかそうものなら僕が消される。こうやって君に話をしている今も危ういところだ」
そう漏らし、あたりを見渡す圭吾。
その動作を見て、巌が軽く手を当て制止する。
「あんまりきょろきょろするな圭吾、それに俺は迷惑だとも思っちゃいねぇ。俺だって関わった以上は最後まで関わり続けるつもりだ」
「本当に、ありがとう巌」
「あぁ。それでその……答えられる範囲でいいから答えてくれ。その……前に話した"アレ"は本当なのか?」
巌はできるだけ小さな声で、かつて圭吾に言われたとある噂についての質問をする。
圭吾がそれを聞くと。数秒間を空けて、答える。
「……あぁ、間違いない。神園は何を目的にしているかは知らないが―――心世界オンラインは"人の感情を読み取り計測するアプリ"を搭載している」
「それは……いったい何が目的で」
「だからそれ以上は触れられないんだよ。心怪が人を意識不明にするのも、シャーデンフロイデという武器がプレイヤーに何をさせようとしているのかも」
「心怪、そしてシャーデンフロイデか……」
「あぁ、僕は……」
と、続きを語ろうとする直後、圭吾のドリームゲートに着信が入る。
会社からの招集だ。圭吾の顔を見ればすぐにわかる。
「行かなきゃいけない。すまなかったな巌」
「そう何度も謝んじゃねぇ圭吾。―――諦めんなよ、最後まで戦え」
「……ありがとな、巌」
圭吾はすぐさまタクシーを呼び、神園コーポレーション本社へと向かう。
それを見送り巌は、煙草をふかし空を見上げ呟く。
「……ったく、いったいどうなってやがるんだよ。この世界は」




