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心世界のシャーデンフロイデ  作者: トッシー00
第1章 心怪討伐
10/15

決戦の時-2

第4話、Bパートです。

『知ってる?この世界にはかつて……"英雄"がいたのよ』


 ―――英雄。


 歴史の中でそう呼ばれ祀られてきた者達は、この世界をどのように思い、見てきたのか。

 そして、この心世界で英雄と呼ばれた者は、今のこの世界を見て何を思うのか………。


-----------------------


 初級A地区、囀り神殿。


 ここに、やつが現れる。

 僕らを地獄へ陥れた最悪の化け物―――心怪≪狂乱の死神(ハンター・ヘッド)≫。

 このゲームの世界で、プレイヤーを意識不明にする最悪のバグ。そんなものの存在を、許せるわけがない。

 プレイヤーは心の底からこの世界を楽しんでいるのに、そんなプレイヤーをあざ笑うかのように恐怖を与える。


 許せない。だけど僕だけではどうしようもないのが事実。

 僕には力がない、だけどアイスにはそれがある。

 この僕にできるのは、アイスを全力でサポートすることくらいだ。

 ちっぽけな僕、だが覚悟を決めた以上、僕は先に進むしかない。


 ナチュリアの街からワープし、フィールドを北東に進むこと数分、囀り神殿はそこにあった。

 いたって普通のダンジョン、だけどやつがいるからか伝わる空気がいつも以上に重い。

 神殿の入口へと進むたびに、そして入口を潜る際に、僕の心臓が音を強く立てる。


「……怖い?」


 僕の表情を見てか、アイスが心配するような顔で声かける。

 怖いと聞かれた僕自身、正直よくわからないから困る。

 これが恐怖と言う感情なのか、武者震いというやつなのか。

 今日、全てに決着がつくと意識すればするほど、嬉しいという感情が漏れ出そうになる。

 まぁ、あくまで僕が無事で決着がつけば……だけど。

 もし意識不明になったら、僕はちゃんと無事に意識を取り戻せるだろうか。

 もし僕がやられてしまったら、隣にいるアイスがいつか僕を救ってくれるだろうか。

 ――なんて考えるのは甘えでしかないだろう。だけど朽ちてしまった僕ができるのは、誰かに託すことと祈ることくらいだ。

 そんなことを長々と考えた上で、僕が返した答えはこうだ。


「……答えようのない思いでいっぱいだよ」


 要はテンパっているということ、怖い以上に性質が悪いかもしれない。

 中々にヘンテコな答えだったのか、アイスが白けるように溜息を吐いた。

 いや、かっこつけたつもりもないんだけどなぁ。ちょっと中二病的な、そんな答えだったかな?


「やっぱりハイドくんは情けないね」

「……今それを言うのやめてくんないかな?ここでメンタル面を削ることはしたくない」


 しれっとアイスに言われ、実のところかなり傷ついた僕。情けないのはわかってるさ。

 と、神殿に入り結構進んだ。はたして狂乱の死神はどこにいるのだろうか。

 出会った瞬間から全てが始まる。今とその時、はたしてどれくらい空気が違うんだろう。想像したくもない。


「……心怪に会う前に、意気込むあなたに一つ物語を聞かせてあげようか」

「物語?」


 アイスは急に何を言い出すのか。こんな時に限って……。

 いや、こんな時だからこそ重い空気を紛らわせるために……僕はそんなに子供じゃあないんだけどなぁ。

 それに、アイスといえば評論家がごとく毒舌に世論やら人間論やらをずばっと切ってくるからな。

 また説教かな、だけどせっかくだし聞いておくことに。


「知ってる?この世界にはかつて……"英雄"がいたのよ」


 アイスはゆっくりと語り始めた。

 どうやら本当に物語みたいだ。説教じゃないよかった。


「英雄?この心世界オンラインで……そんなのBBSに書いてあったかな」

「今となればその名を出せば叩かれたり、アンチスレが立ってたりするから正直あまり見かけないかもね」


 英雄なのにアンチか、やっぱりみんなそういうのが好きなのかな。

 僕たちのような普通のプレイヤーからすれば、目立つプレイヤーを崇める半面、あまり調子に乗るなとか嫌な目で見ることも多くはないし。


「3年前……いやもっと前だったかもしれない。心世界オンラインver.1――このゲームの稼働初期の話」


 アイスは"物語"の続きを語り始めた。

 そういえばこのゲームは稼働して結構立ってるんだっけ?今ではこんなに職業やスキルも多いけど昔は少なかったとか色々聞いたことがある。

 今のver3Xは、ほとんどがver2から始めた人や新参プレイヤーが多くて、ver1時代のプレイヤーはあまりいないらしい。

 なんでもver1からver2になる際にデータを一度削除しなければいけなかったことや、その他もろもろシステムが変わり当時のプレイヤーからはかなり不評を買ったとか。

 ちなみにver2からver3にかけてはその反省を生かしコンバートが可能になっている。まぁ僕には関係ないけど。


「心怪って、いつから現れたか知ってる?」


 物語を話すに合わせて質問を交えてきたアイス。

 心怪がいつから現れたかって……。


「えぇと確か一年前くらいに、≪絶氷の剣≫っていう心怪が現れて初めて意識不明者が出たとか。wikiの歴史に書いてあったような」


 僕が知っている知識で答えると、アイスはそれを踏まえ補足をし始めた。


「そう、だけどその心怪は実のところ、稼働初期のver1にも一度現れているのよ」

「初期からあんな理不尽なモンスターっていたの?」


 心怪か、僕は再度それについて考えてみる。

 心怪は他のモンスターと違ってプレイヤーに影響を及ぼすモンスター。

 そして、それらの事件に対して国は"表立って公表していない"。BBSでそれらを書きこんでみたりしたけど帰ってきた返答が、『関わらない方が身のため』。

 なんでも独断でそれらの事件を追っていたジャーナリストが謎の失踪を遂げたとか、国の陰謀で消されたとか。

 そんな噂も色んなところで流れていた。心世界オンラインにおける意識不明事件は世間的には都市伝説扱いだ。

 最も、実際にその被害を見た僕からすれば都市伝説だなんてアホらしいことは言ってられない。

 今、アイスと僕も含めてこの一連の事件に対して色々詮索している僕たちを、その国はどう思っているのだろうか。


「それで、一番最初に現れた心怪≪始まりの園(プロローグ)≫は、今の心怪と同じく倒すことができない仕様だった」

「当時はシャーデンフロイデとかあったの?」


 僕がそう質問をすると、アイスは首を横に振った。


「そのモンスターは倒せない上に、ある特徴を持っていた。当時は意識不明ではなかったけれど、それにやられたプレイヤーは強烈な頭痛や吐き気を訴えたりしたそうよ」

「……それって」


 それを、僕は知っている。

 僕は一度狂乱の死神の攻撃を喰らったことがある。その時頭の中で言葉にならない声が脳内に響き渡りとてつもない吐き気に襲われた。

 心怪にやられて意識を失うのは、HPが0になるとあれ以上に脳を汚染されるからではないかと、僕は思っている。

 意識不明の真相はなった本人に聞かないと分かんないけど、その被害者達は今闇の中だ。


「……それで、その心怪はどうなったの?」

「そんな恐怖の心怪がある日、一人のプレイヤーに倒されたのよ。そのプレイヤーの名は"アリス"、人はそれを≪アリス・ヴァルキリア≫と呼んだわ」


 アリス・ヴァルキリア――それがこの世界の英雄の名。

 最初に現れた心怪を倒した最初のプレイヤー。話を聞く限りでは信じられない。

 当時はシャーデンフロイデもなかったというのに、すごいな……憧れる。


「その、アリスさんは今も心世界にいるの?」

「いや、アリスはver1がサービスを終了すると同時に姿を消した。ver2に移行した当時の古参プレイヤーは全体の約2割に満たなかったそうよ」


 ということは、今はアリスはいないんだ。

 もし今も存在し続けたならきっと、心怪による被害がもっと減っていたかもしれない。


「どうして、やめちゃったのかな……アリスさんは」


 僕はさらっと口にする。

 その言葉の中にはきっと、その英雄に僕の重荷を少しでも委ねたいとか、そんなあくどい感情が乗っていたことだろう。


「どうしてアリスはゲームをやめたか……か。私が思うに飽きちゃったか、居づらくなった……からかな」


 僕のつまらない呟きに、それなりの見解で答えてくれたアイス。

 そしてそれに続け、アイスはこれらの話を締めくくるように、僕に言葉をかける。


「……ようするに、諦めなければ勝てるよ。この戦」


 それを聞いて、僕は少しばかり笑みを浮かべた。

 そういうことか、僕も諦めなければ……アリス・ヴァルキリアのように。

 いや、アリスのようにというのはおかしいかもしれない。僕は僕の戦いをしなければいけない。


「……アイス」

「どうしたの?」



「―――勝とう」


 僕は改めて、今の状況に対して覚悟を決める。

 迷いは死に繋がる。恐怖は抱けど迷うな。


 後悔するな、進めばかならずゴールが見える。


 そんな思いが籠った、僕の一言だった。


-----------------------


 神殿を奥深くまで進む。

 途中に出てくる小さなモンスターは最小限の手で倒す。やつとまみえるにあたって使えるHPとSP(スキルポイント)は極力残しておかないと。

 そして一部屋、また一部屋と入るが心怪はいない。辺りをくまなく探すが雑魚モンスターと宝箱くらいしかない。

 途中他のプレイヤーにも出くわし、心怪の事を聞くが手掛かりはない。手がかりどころか他のプレイヤーは口をそろえて『危ないから逃げた方がいいぞ』というがそれはこちらの台詞だよまったく。

 道なりをどんどん進み、最深部の大広間につくが、やつはいない。

 一応とばかりにアイスが索敵スキルを使って探すがそれらしい反応はない。ということは。


「……いない」

「逃げられたかもしれないね」


 なんということだ。僕たちは遅かったのだ。

 そんなぁ、ここまで覚悟決めて、もう今日の一日に人生の全てを捧げるとか色々思っちゃったりしてたのに。

 くそ、もう少し早ければ……。こうしている間にもやつはどこかで暴れて誰かを意識不明にしてるはずだ。

 早く倒さないと……と、落ち込む僕を見てアイスが励ましの言葉を口にする。


「焦ることはないよハイドくん」

「アイス……」


 僕はアイスを泣きそうな目で見る。

 ポンポンと肩を叩かれながら、しばらくショックで動くことができなかった。

 その間待っていてもやつは来ない。


「仕方ない、今日は退散しよう」


 そう言って、僕らが出口まで帰ろうとした時だ。

 出口方面を見ると、こちらに向かってくるプレイヤーの姿が見えた。

 誰だ?ここに来てもやつはいないというのに……。

 どんどんこちらに近づいてくる。シルエットから実体が見え始めた。

 そのプレイヤーの姿に、僕は見覚えがあった。


「……鈴音?」

「は、廃土くん?」


 そのプレイヤーはスズネだった。

 猫耳が特徴の眼鏡をかけた小柄なアバター。職業は戦士で斧を持っている。

 間違いない、何日か前に一緒にダンジョンを周ったから覚えている。でもどうしてこんなところに。


「ハイドくんのお友達か、ここは危ない。早く立ち去った方がいい」


 そうだ。アイスの言う通りここは心怪が出現したと噂の場所だ。

 どうしてスズネがいるのか、そんなことはどうだっていい。

 等の心怪はいなかったのだが、安全に越したことはないし。


「そ、それがその。塔宮くんが沖くんの敵を討つって」

「と、塔宮が……」


 スズネがそう言った後、奥からもう一人プレイヤーが現れる。

 風属性の尖り多い鎧を身にまとった緑色の髪をしたアバター。

 そのアバターを見るのは初めてだが、おそらく正体は。


「おいスズネ……まさか先客がいるとは」


 間違いない、塔宮だ。でもどうして……。


「翼くん。その……廃土くんが」

「塔宮、どうして……」


 塔宮―――このゲーム内では"アンドラス"という名前だ。職業は剣士で武器は双剣。

 敵ってそんな、駄目なんだよ塔宮……。


「お前、ハイドか?どうやらあの言葉は本気だったようだな」

「だめだ塔宮!心怪は……」

「うるさい!お前こそ目ざわりだ帰れ!!その心怪とやらは俺の敵だ!!」


 強気に言い張る塔宮。

 だめだ。塔宮は心怪の恐ろしさを知らない。心怪を甘く見ている。

 心怪を倒すにはシャーデンフロイデがなければならない。少なくともアイスがいなければやつが現れた時に。

 どうにかして止めないと、じゃないと塔宮も……鈴音まで。


「なに?彼もハイドくんの友達?」

「そうだよ、だからなんとかしてあいつを止めないと。まだ……心怪がこの場にいないなんて確証もない!!」

「だろうね。仮にこのまま私達がいなくなった後、心怪が現れたら間違いなく二人は意識不明に」

「わかってるんだったらアイスも手伝ってよ!!」


 こんな時に限って他人事みたいに。

 そういうのが嫌なのはアイスが一番わかってるはずなのに。

 僕が本気で戸惑っているのを感じ取ったのか、アイスはやれやれと首をかしげた。


「えぇと。ここにはあなた達が探しているやつはいなかったよ。私達も今から帰るところなんだけど一緒に街まで……」

「帰るならお前たちだけ帰れ」

「……」


 聞く耳持たない塔宮。

 ってアイスなに諦めてんのさ!!やめてそんな、言っても聞かないめんどくさいなぁって顔するの!!


「ハイド。少しだけ忠告しておいてやる。俺のランクは3rd。5thになりたてのお前が心怪を倒すなんて無茶すぎる」

「……無茶なのは塔宮の方だ。何も知らないくせに」

「なに?」


 そうだ。ここで彼に言い負かされてはいけない。

 ここで僕がどんな手を使ってでも彼を止めないと、また……また……。

 僕はもう嫌なんだよ。心怪に倒されて誰かが意識不明になんて。

 それに、塔宮は僕があの日にあんなことを言ったから。だから塔宮もむきになって。


 僕は嫌だ。もし意識不明になるのなら僕がなればいい。

 アイスも塔宮も鈴音も、絶対にだめだ!!


「虚勢を張るんじゃねぇよハイド!!お前には力もねぇ。覚悟がなんだと口にするやつは大抵嘘つきなんだよ!!」

「塔宮……お前!!」

「………」

「どうしても先に進むってんなら、俺は意地でもお前をどかす。弱虫……は黙って見てればいい!!」

「っ!?」


 僕は……どう言われたっていい。

 弱虫でもなんでもいい!いじめられるとかそんなんでもいいから!!

 頼む、お願いだよ。もう……。


「つ、翼くん!!廃土くんだって沖くんの敵を討とうと必死で!!」

「鈴音は黙ってろよ。こいつはあの時逃げ出した。その時の罪悪感で戦おうとしてるやつが、心怪なんて……」

「……おい、そこの緑の」

「んだよ!赤の他人はだまっt」



「……素人が、好き勝手言うんじゃねぇよ」

「「!?」」


 そう会話に割り込むアイスの表情には、静かな怒りが灯っていた。

 この状態。あの時と同じだ。


「アイス……?」

「あのさ。この隣のアヒルのリアルがどんだけちっぽけで弱くて頼りないかは知らないけどさ……」


 言いすぎだよアイス!!泣くぞ!!


「ここにいるハイドは、今私の貸切なのよ。私の"大切なパートナー"に対してボロクソ言いやがって……構えろよ」


 ………。


 大切な……パートナー……。

 アイスの口から発せられたその言葉。

 この一ヶ月、彼女と一緒に行動してきて。

 どれだけ言われることを、望んだ言葉か。


「構えろ……だと?」

「と言っても私のランクは2ndS、あなたは3rd。だからハンデをあげる。あなたは一撃加えれば勝ち、私はあなたを完膚なきまでに……ぶっ殺す」


 そう言ってアイスは塔宮――アンドラスにたいしてPB(プレイヤーバトル)を申し込む。

 この様子、アイスは本気だ。マジギレしてる。

 でも無茶だ。いくらランクの差があるからってそんな大きなハンデ。絶氷と呼ばれたアイスでも……。


「……ふざけやがって。じゃあ俺が勝ったらこっから消えろ。それで二度と大きな口を叩くな」

「わかったわ。じゃあ私が勝ったらさっきの言葉は全撤回。焼き土下座じゃすまないよ」


 両者とも譲らず睨みあう。

 アイスとアンドラスによるPB。ルールはカスタマイズ。

 アイス側はアンドラスのHPを0にすれば勝ち、アンドラス側はアイスに一撃加えれば勝ち。


「アイス、こんなことやってる場合じゃ」

「あなたは黙って見てる。それに見せてなかったでしょ?絶氷の戦いを……」


 僕のせいでこんなことに。アイスは本気だし止まる気配がない。

 そしてカウントダウンが始まる。カウントが0になった瞬間バトルが開始する。

 カウントは三十から、二十、十とどんどん減っていき。そして……。


『バトルミッション……スタート!!』


 システムの掛け声とともに、両者が動く。

 アンドラス側は一撃加えれば勝ち。なので一撃を加えることに重点を置く。

 いきなり補助スキル≪ミラージュステップ≫を発動。素早さを上げた上に効果時間内での最初の一撃を回避扱いにできるスキル。

 対するアイスは、ただ二丁の銃を構えているだけ。それでなおアンドラスの攻撃を銃で受け流し続ける。

 ミラージュステップの効果時間は8秒、8秒間にてアイスにダメージはない。


「攻撃してこない、なめんな2ndS!!」


 アイスはルールにハンデを付けたうえに手加減までしているようだ。

 それでまだ初撃なし、ただ攻撃を受け流すか防御するだけ。しかも防御はジャフトガード(タイミング良くガード)をしてるためダメージは通っていない。

 それを見たアンドラスはフェイントを入れながら攻撃をするがそれも華麗にかわす。アイスは隙を見せないようになるべくジャンプをしないよう配慮している。


「ちっ、ハイドも随分とすっげぇプレイヤー見つけやがったな。だが終わりだ!!」


 その時を待っていた、とばかりにアンドラスは技スキル≪ジェミニストライク≫を発動。

 このスキルは剣を二連突する技で、初撃にガードを崩す役割を持つ。

 双剣タイプの剣士ならではのガード崩し、ガードに徹するアイスに対するアンドラスの策だ。

 その策は見事に通り、アイスのガードは弾かれる。


「これで勝ちだ!!」


 このままじゃアイスはアンドラスに負けてしまう。と、僕を含め誰もが思っただろう。


「はい……よくできました」


 そう言ってアイスは、崩されていない左腕の方の銃口をアンドラスに向ける。

 そして反撃技スキル≪カウンターブリザード≫を使用。左の銃口から広範囲の氷の結晶がハリネズミのように飛び散る。

 その刹那の時間での行動にアンドラスは対応できず吹き飛ばされる。アンドラスの攻撃はほんのわずかアイスには届いていない。

 見事にカウンターを決めたアイス。だがまだ終わりではなかった。


「連携技、Vリフレクト」


 "連携技"。このゲームの仕様の一つ。

 攻撃が当たった後に違う技を出すと、威力こそ落ちるが追撃ができる。

 基本技術であるが初動の技が何かで連携先が変わるし、どう当たるかにも威力が後先変わってくるので上級プレイヤーの連携技は中々に複雑らしい。

 しかもこの≪Vリフレクト≫、アンドラスからすればまっすぐ銃弾が飛んでくると思ったのか吹き飛ばされながら正面に切払いモーションを取っていた。

 だがこの技は下に銃弾を撃ち込みその"軌道を変える"ことで斜め下から氷柱が現れ、相手にダメージを与える。

 よってガードは無効になり直でダメージを喰らうアンドラス。アイスの攻撃力は3rdの彼には重く、HPの6割を減らされた。


「ぐ……あんなギリギリのところでカウンターを仕掛けた上で、確実にヒットさせた上に読みありの連携技だと……」

「おぉ説明口調風だ。アニメとかじゃよくあるね」


 銃をクルクル回してアンドラスに近づき、余裕を見せるアイス。

 だがまだアンドラスにはHPが残っている。なので決着ではない。


「……余裕を見せて、近づくとはバカか!!」


 と、瞬間的にアンドラスは剣をアイスに向け突撃。

 先ほどまでのアイスならばあっさりとガードか回避……。


「……ぐは」


 やられたーーーーーーーーーーー!!

 えぇ!!慢心して近づいたうえに初撃食らった!?ちょっとアイスなにやってんの!!


「情けねぇな2ndS。これで俺のk」


 と、アンドラスが勝ちを宣言した……のだが。


「アイスドールインパクト……」


 刺されたアイスがスキル名を口にする。名は≪アイスドールインパクト≫。

 すると突如、刺されたアイスのアバターの表面が凍りつき、あっという間にアイスが氷の人形になってしまった。

 そして次の瞬間、アイスの"人形"が音を立てて破裂。その衝撃がアンドラスを襲う。


「がっ!!」


 その一撃でアンドラスのHPは0、結果アイスの勝利。

 ちなみにアイスは地上から氷柱が生えてきて、それを割って中から出てきた。

 つまりあの技は囮、恐らくスキルの分類は補助技だったのだろう。


「身代わり系はHPを3割消費するけど、ダメージ受けたわけじゃないし。というかこういうのは本来気付かれたらアウトなんだけど」


 す……すごい。僕はただこの光景を観客として、見入っていた。

 アイスの完全勝利だ。圧倒的なハンデの中でアイスが勝ってしまった。


「さてと少年、負けたけどどうするの?」

「くそ、ふざけんなよお前!そうか、お前か……ハイドに何をたぶらかした!?」

「と……塔宮?」


 塔宮はまだ引く気はなかった。

 アイスを睨みつけ、何かを言いたそうにしている。

 僕は黙って見てるしかできなかった。が、見ていても何も解決しない。はやくこの場から……。


 と、僕が思ったその時だった。



EMERGENCY!EMERGENCY!


「な!?」


 この警告音、僕は知っている……。

 まさか、こんな時に……このタイミングで……。


 スオォォォォォォォ……。


 泣き声を想わせるノイズを走らせ、徐々に姿を現す異形。


 そうだ。やつだ……やつが現れたんだ。ようやく、ようやくやつが……。


「ちっ、趣味の悪いことをしてくれたようね」


 アイスが気にいらないように愚痴る。

 確かにそうだ。僕たち二人ならまだよかったけど、ここには鈴音と塔宮がいる。

 どうしてこんな時に現れてくれたかは知らない。だが、やつが現れたことは事実。


 ようやく終わるんだ。こいつを―――狂乱の死神を倒せば。


「……ハイドくん、今の気持ちは?」

「はは、はははは……こういうの怖いって言うのかな?嬉しいって言うのかな」

「う~んとね、多分それは……武者震いだよ?」


 アイスの冗談じみたその一言に、僕は全力で笑ってやった。

 僕の覚悟、全て……こいつを倒すためにささげる。


「さあ終わらせるよ、そして返せよ狂乱の死神……お前が意識不明にした者達を―――!!」


 決戦の時が今、始まる。

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