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第6話 消えた記憶

──あんた、誰?

嘘だ。

嘘でしょ!?

ドクドクと鼓動が荒くなる。まるで血が止まってしまったように、体が冷たくなる。

あたしはぎゅっと指を握り込む。

だって。あたしの親友の瑠璃乃が。こんなはずは。

きっと何かのドッキリなんだよ。ただの冗談。きっと。

でも、親友だからこそあたしは知っている。瑠璃乃は生真面目だ。彼女は冗談を言わない。嘘はつかない。

じゃあ、だったら、何? なんなの?

やめてよ、その、冷たい目──!

「……瑠璃乃」

声が、震える。

「……あたしだよ? ハルだよ?」

「実はドッキリだったんだよ」なんて言ってくれる可能性は、ゼロに近いと、わかっていた。だけどその “ほんの少し“ に縋ってしまう。

けれどそんな淡い期待は瞬時に粉々に打ち砕かれる。

瑠璃乃の顔が険しくなったのを見て、ダメだったんだな、と知ってしまった。

「私はあんたなんか知らない。迷惑だから、あっち行ってくんない?」

凍りついていた教室の空気が溶け出すように動きだす。

「誰、あの子」「見たことないな」「私知らない」「先輩かな?」「や、でも上履きのラインが赤だよ」「ってことは一年か」「でも俺一年全員知ってるけどあんな奴いないぜ」「はぁ? じゃあなんでうちらの教室にいるわけ?」「ってかなんで文月なんかに話しかけてんの?」「それな。意味不明」

二学期になって、親しくなってきたみんなが、あたしを知らない目で見て、好き勝手にコソコソと話す。

まるでみんなからあたしの記憶が消えてしまったみたいだ。

あたしはゆらりとふらめいた。


ガッ。

誰かが立ち上がる音。

澱んだ言葉に沈みかけていた教室が、再び水を打ったように静まり返る。

みんな、驚いているのかもしれない。普段は話さないその人が、この状況で立ち上がったことに。

あたしだって意外だった。

“その人“は、ツカツカとあたしの元に歩いてくる。

「──なぁ」

あたしはビクッと震える。

そのまま、彼──影宮(かげみや)久遠は、あたしの腕を掴む。

その細い腕からは想像もできないほどの強い力に、あたしはギョッとする。

彼の顔は長い前髪に隠れていて、表情が読めない。

影宮はあたしの耳に顔を近づけてきて、一言、囁いた。

「──行くぞ」

「え?」

ちょっと待って、どういうこと?

あたしは色んなことでいっぱいいっぱいで、頭が追いつかない。

その瞬間、掴まれたままの腕をぐいっと引っ張られる。

そしてそのまま、影宮はあたしを連れて、教室から抜け出した。


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