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第7話 覚えていてくれた人

影宮に腕を掴まれたまま、あたしたちは校門を抜け、商店街を抜け、住宅街を抜ける。

いったい、どこまで行くんだろう。

……影宮の腕を掴む力は強いけれど、あたしなら、簡単に振り払えるんだ。

でも、あたしはあえて、彼に連れられるがままでいる。

……もしかしたら、彼はあたしのことを覚えてるんじゃないかって希望を持って……。

それよりあたしは影宮が心配だ。

さっきから、ハアハアと荒い息を繰り返している。見える横顔も、顔色が悪い。そういえば影宮は、体育もだいたいは参加せずに見学していた。

体を痛めて走ってまで、あたしをどこに連れて行きたいんだろう。

「……ついた」

影宮が、やっと走るのをやめた。

あたしは目の前の建物を見上げる。

赤茶色の屋根と白い壁の、低層マンションみたいな洋風の建物だ。周りには綺麗に刈られた芝生が茂り、花壇には色とりどりの花が咲いている。

あたしたちが立っているのは、その可愛らしい庭の前にでんとそびえ立った、装飾の施された豪華な門だ。

影宮は、ほっとしたように体の力を抜いて、やっとあたしの腕を離した。

と思ったら、今度は肩を掴まれた。

至近距離で、あたしは影宮の目を初めて見て、思わず息を呑む。

それがあまりにも、綺麗だったから。

夜空のようだと呼ぶのがふさわしいだろうか。どこまでも深い。でも、昨日の闇のように恐ろしくはなかった。むしろ、散りばめられた星のような、美しい輝きも伴っている。

大ピンチの状態で、こんなこと考えてる場合じゃないってわかってるのに、あたしは動きを止めて見惚れてしまう。

彼の口が開く。

「──明里ハル」

心臓がどきんと波打って、あたしは逆に彼の胸を掴み寄せる。

「あっ、あたしの名前! 覚えてるの!?」

「当たり前だろ」

彼はなんてことないふうに言う。

「お前のことは、全部覚えてる。忘れてなんかない」

だけどその口調はちょっとだけ優しかった。

みんな、あたしのことを忘れてるみたいだった。親友の瑠璃乃でさえも。

でも、でもっ、目の前のこの人は。

覚えててくれたんだ──!!

なんでみんながああなったのかも、どうして影宮だけ覚えてるのかも、わかんないけど。

あたしは真っ暗になっていた目の前が、ぱあっと開けて明るくなったような気がした。

落ちかけていた穴から引き戻されたような心地になる。

感謝を込めて影宮を見ると、彼は肩から斜めがけにしたボディバッグから黒い立派な虫眼鏡を取り出した。

そして、影宮はそれを覗いてあたしを観察し始める。

意味不明。

じろじろ見られて気持ち悪い。

「……何やってんの?」

感動が半減だ。

困惑するあたしをそっちのけで、影宮は大きく息をつく。

「……やっぱりな」

小さなつぶやきも、あたしは聞き逃さない。

「やっぱりって?」

「お前、やけに耳がいいな」

あたしは運動神経が良くて、目も鼻も良くて耳もいい。

「そんなのどうでもいいでしょ。あたしはどういうことなのか聞いてるんだよ」

しばらく考え込むように黙っていた影宮は、意を決したようにあたしを見据えた。

「お前は──」

風が吹いて、影宮の前髪を揺らす。

あたしを見つめる彼の瞳の強さに、ゾクっとする。


「怪異の、呪いをかけられてる」

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