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第13話 怪異との戦闘開始

……怪異だ。

だらだらと冷や汗が垂れる。

巨大な、カラス。

頬をつねってみる。痛い。

……確かに目の前に異常なカラスが、怪異がいる。

たまたまデカくなっちゃったカラス、なんてもんじゃないのは、この不快感が教えている。

真っ黒な羽。でも艶やかさなんてない、かといってボロボロなわけでもなく、分厚くて妙に重くもったりしている。

似てる。

あの闇に。

ガァァッッともう一声鳴いて、カラスは血みたいな目をギョロリと動かし、あたしたちを見た。

キリみたいに鋭いくちばしの切先がこっちを向く。心臓をそのくちばしにブスッと突き刺されたような気分に、あたしはなる。

あんなのに刺されたらどうなるんだろう?

あたしたちなんてひと突きだ。

考えただけで鳥肌が立つ。

「こっちに行くぞっ」

影宮を追いかけて民家の影に逃げ込んだけれど、いつ見つかるかはわからない。多分そんな長くは隠れてられない。

「か、影宮……、あれ、怪異だよね?」

「ああ。……お前がさっきデカい声出したから俺たちに気づいて出てきたんだろうな」

えっ、つまりあたしが悪いってこと?

「まあ、下級怪異だけどな」

「……これでも下級なの?」

想像してた怪異とは違った。

あたしが想像してたのは、アニメとかにいるような、もっとわかりやすくおかしくて、気持ち悪いの。

でも、あのカラスだって充分やばい。

カラスなんてしょぼいじゃん、って他人事だったら思ったかもしれない。

だけど、目の前で見たら。

怖くてたまらない。

「怖気ついたか」

顔を上げると、影宮が感情の読めない瞳であたしを見ていた。

「だったら、帰れ。今ならまだギリギリお前を逃がせられる」

「……帰らない」

戦うって決めたはずなのに、声が小さくなってしまう。

ふと視線を落とすと、影宮の手が小さく震えているのに気づいた。

それを見て、あたしはむしろ安心した。

人間じゃないみたいな精神してて、怪異警察で、カッコつけてる影宮でも、あたしとおんなじで、ちゃんと怖いんだなって、わかったから。

「帰らないよ」

あたしはもう一度、はっきりと言う。

影宮はあんなのとひとりで戦うつもりだったんでしょ。

だったら、尚更だよ。

影宮はため息をつく。

……すぐ近くに、怪異の気配がする。

「……気づかれるのも時間の問題だな。しょうがねーな、行くぞ。あっちにいきなり襲われるよりは、こっちから行った方がいい」

足音を忍ばせて、怪異の元へ向かう。

あたしたちに気づいたカラスは、今までで一番大きい鳴き声をあげた。

影宮はすぐさま、ボディバッグから何かを取り出した。

「じゅ、銃!?」

怪異警察には銃刀法違反は関係ないのでしょうか……。

影宮が引き金を引いて、パンッと鋭い発砲音がする。

でも、弾は羽を掠っただけで、カラスにダメージは与えなかった。

「くそっ」

影宮は悔しげにうめく。

カラスは空に飛び立つ。

でもそれは、あたしたちを襲うのを諦めたってことじゃなくて、むしろあたしたちの手の届かない空中から狙いを定めてるって感じがする。

太陽の光を背に受けて、巨大な黒いシルエットになったカラスは、そのまま急降下してきた。

そのギラついた眼が見据えるのは──、影宮!

何か考える前に、体が動いた。

あたしは咄嗟に影宮の前に滑り込み、彼を突き飛ばして、くちばしが目の前に迫ってきたところを間一髪で横にかわす。

ドスゥゥン!!!!!

カラスは勢いを殺しきれずに、地面に激突した。

あたしは後ろへ飛びすさった。

心臓がバクバク波打ってる。

「あ、危なかったぁ……」

「大丈夫か?」

影宮があたしの顔を覗き込んできた。

……その眉間の皺はなんでしょう?

なんか、悔しそうだ。

攻撃がカラスに直撃しなかったから?

それだけ?

「大丈夫。影宮こそ体力大丈夫なの?」

「俺はだ、」

「うん。正直に言おうか影宮クン」

「……あともう少しで限界だ」

「やっぱそうでしょ!? 絶対無理しちゃダメだからね。さっきだって危なかったじゃん!」

語気が強くなる。

影宮ってば、ほんとにひとりで行ってたらやばかったじゃん!

「……悠長に話してる場合じゃない」

見ると、カラスが体を起こしていた。

まだ言いたいことはたくさんあるけど、あたしはひとまず口をつぐむ。

いつカラスが襲って来てもいいように、戦闘体勢をとる。

すると。

カラスが、分裂した。

いや、分裂とは少し違う。

本体は少しも小さくなってない。

だけどその輪郭はグネグネと揺れ動いて、そこから、小さいけれど赤い眼のカラスが、たくさん生まれてくる……っ。

言葉を失っているうちに、あたしたちは、カラスに取り囲まれた。

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