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第9話「中国大返しマラソン大会」
「……秀長、もう一歩も歩けんがね! 大軍で走って京まで戻るなんて聞いたこともにゃあぞ!」
備中から京へ。羽柴軍の大移動は、もはや軍隊の行軍ではなく全速力のマラソン大会だった。万作は馬に揺られながらも、あまりの激しさに胃液をぶちまけていた。「死んでまう! このままじゃ全員死んでまうがねっ!」と叫び声を上げる。
「兄上、弱音を吐かないでください。明智光秀に先を越されたら我々の芝居は打ち切りなんです。……ほら、おにぎりです。走りながら食べて!」
秀長は馬を並走させ感情の無い爽やかな笑顔で万作の口に米を突っ込む。
「……んぐっ! 喉に詰まったがね! 殺す気か!」
沿道には秀長が手配した炊き出しの煙が立ち上り、兵たちは「殿が命懸けで走っている!」と勝手に感動して士気を高めていく。
「……秀長、あいつら、わしが必死で逃げ出しとると思っとらんかね?」
「いいえ、仇討ちへの執念に見えているはずです。素晴らしい名演技ですよ」
泥と汗とおにぎりにまみれた万作の絶叫は、歴史に刻まれる驚異の進軍へと変換されていった。




