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第10話「山崎の戦いは、台本通り」

「秀長、あっちから鉄砲の音がするがや! 怖い、怖いって! わしゃあ本陣のさらに後ろまで下がるでね!」

山崎の地、明智光秀との決戦の火蓋が切られたが万作は馬の首にしがみついてガタガタと震えていた。合戦という名の巨大な暴力が農民万作の理性を粉々に砕きにかかる。

「兄上、動かないで! あなたはそこに座って、ただ威厳たっぷりに鼻をすすっていればいいんです。……ね? あとは私が台本通りに片付けますから」

秀長は、戦場の喧騒をよそに涼しい微笑を浮かべた。戦況は秀長の周到な調略ですでに決しており万作のやるべきことは、勝利を確信した天下人の余裕を演じることだけだった。

「……ええい、騒がしいわ! おみゃあさんら、さっさと光秀を捕まえてこんかーっ!」

ヤケクソで叫んだ万作の声が霧の中に響き渡る。その絶叫を全軍突撃の合図と勘違いした兵たちが怒涛の勢いで明智軍を飲み込んでいった。

「……秀長、勝ったのかね?」

「はい。あなたが旗を振っただけで歴史が動きました。……最高でしたよ、兄上」

万作は、勝利の喜びに浸る暇もなく襲いくる極度の疲労と恐怖に白目を剥いた。

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