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第44話「豊臣家の遺言」

「家康殿、近くへ……もっと近くへ来てちょうよ。わしはもう、おみゃあさんにお願いするしかにゃあんだわ。頼む…この通りだて、秀頼を……あの子を助けてやってちょうだい!」

万作は、かつて震え上がるほど恐れた徳川家康の手を骨ばった指で必死に掴んだ。天下を争った宿敵に対し、プライドも何もかも投げ打ち一人の無力な父親として泣きついたのだ。万作にとって今や家康は得体の知れない本物の怪物そのものに見えていた。

「兄上、いけません。そんなにすがっては足元を見られますよ……」

ふと、秀長のたしなめる声が聞こえた気がした。だが、今の万作にはそんな駆け引きをする余裕など微塵もない。

「家康殿、おみゃあさんは約束を守る男だと信じとる。秀頼が大きくなるまで、わしの代わりに守ってやってちょうよ。頼むて、頼むて……!」

家康は、表情一つ変えずに万作を見つめていた。その深い瞳の奥に何が隠されているのか、万作にはもう読み取ることができない。

「……承知いたしました。秀頼公の御身、この家康が命に代えても!」

その言葉が嘘か誠かも分からぬまま万作はただ藁をも掴む思いで、家康の冷たい手を握りしめ続けた。

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