第40話「秀次、すれ違う心」
「秀長……わし、どうしたらええんだね。秀次に関白の座を譲ったのに、わしの顔を見るたびに怯えとるんだて。まるでお化けでも見るような目で。わし、そんなに恐ろしいかね?」
万作は、誰もいない秀長の居室に座り込み、虚空に語りかけていた。甥の秀次は、万作が本物の秀吉だと信じ、その背中を追ってきた純粋な若者だった。だが、秀長という唯一の理解者を失った万作からは、農民の温もりが消え天下人という冷たい影だけが漂っていた。
「秀次の奴、わしが何を考えてるか分からんもんで、どっかで良からぬ相談をしとらんかね。あいつが裏切るかもしれんと思うと、夜も眠れにゃあがや。……秀長、あいつ、わしを追い出して本物の天下人になりたいんじゃないかね?」
一度芽生えた疑念は、万作の心を徐々に蝕んでいく。偽物である自分の居場所を奪われる恐怖が最も身近な身内への凄まじい猜疑心へと変わっていった。万作は、秀次の家族までも巻き込む血塗られた決断を下してしまう。
「秀次……すまん。おみゃあさんも、わしらと一緒に天下なんていう夢を見たのが間違いだったんだわ。……秀長、わし、もう自分の手が血で見えんがや」
万作は、震える手で顔を覆った。そこには、かつての陽気な万作の面影はどこにもなかった。




