第27話「鬼島津は、恐ろしい」
「秀長、島津豊久とかいう小僧は正気じゃにゃあて!みんなバタバタ死んどるのに、なんであんなに嬉しそうに突っ込んでくるんだね! 薩摩の衆は、みんな鬼の親戚か何かかね?」
九州平定の最中、万作は本陣の奥深くでガタガタと震えていた。島津軍の釣り野伏という狂気じみた戦法を目の当たりにし、万作の農民としての生存本能が警報を鳴らし続けている。降伏を勧める使者さえ、首を跳ねられそうな殺気が漂っていた。
「兄上、あれが鬼島津と恐れられる所以です。理屈では動かない相手こそ、理屈を超えた圧倒的な力で屈服させるしかありません。あなたは今、何十万という大軍の頂点。山が動くような威圧感を見せるのです」
秀長は、戦況を冷徹に見極めながら万作に軍配を持たせる。秀長にとって九州平定は、天下というパズルを完成させるための、ピースの一部にしか過ぎなかった。
「威圧感って……わし、島津の義弘殿や豊久と目が合っただけで、腰が抜けそうなんだがや!」
「笑って、ただひたすら傲慢に笑ってください。それが彼らには底知れぬ余裕に見えます」
万作は、引きつった顔で空を見上げ、声を枯らして笑った。
「……カカカカッ! しょせん、島津もわしの掌の上だわ!」
その笑い声の震えを九州の猛者たちは大いなる余裕と読み違えていた。




