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第26話「ブチ切れ秀長」
「秀長、そんなに怒らんでもええがね…。徳川の家臣がやっとった、えびすくいをちょっと真似して踊っただけだて!」
万作は、鬼のような形相の秀長を前に畳に額をこすりつけていた。昨夜の宴、調子に乗った万作は天下人の威厳を忘れ、徳川家の宴会芸をさらに卑猥にアレンジして全力で乱舞してしまった。場は凍りつき、秀長の堪忍袋の緒はついに切れた。
「兄上、いい加減にしてください!あなたが汚したのは、あなた個人の面目ではありません。私たちが命懸けで築いた豊臣という品格なんです。泥を塗るなら自分の顔だけにしてください」
秀長の声は、恐ろしいほど静かだった。氷のような視線が万作の背筋を凍らせる。万作は、これまで一度も逆らえなかった弟の初めて見る本気の怒りに震え上がった。
「す、すまんかった……。わし、自分が本当は誰か、一瞬忘れとったんだわ。もう二度とせん……二度と踊りゃあせん!」
「……次はありません。あなたは、死ぬまで高貴な天下人でいなければならないのです」
万作は、冷え切った部屋で一人自分の手のひらを見つめた。
「……秀長。わし、やっぱりこの皮を脱ぎてゃあわ」




