第25話「家康と腹の探り合い」
「秀長、わし天下人なのに家康殿の前で土下座したんだて! 天井裏におった服部半蔵とかいう忍びも、ニヤニヤしとった気がするんだわ」
家康との密会を終えた万作は、秀長の胸ぐらを掴みながら震えていた。秀長の策は公の場の前に家康の宿所へお忍びで訪ね、とにかく下手に出て頭を下げるという、プライドを捨てた前代未聞の芝居だった。万作は、家康のあの静かな、すべてを見透かすような目が忘れられない。
「兄上、それでいいんです。あなたが先に折れてみせることで、家康殿に恩を売るという形を作ったんです。泥臭い真似は、あなたにしかできない最強の武器なんですから」
秀長は、乱れた万作の装束を直し静かに微笑んだ。万作がどれほど惨めな思いをしても秀長は、豊臣という嘘の看板を完璧なものにするために冷徹に采配を振るう。
「恩を売るって言ったって、あいつ絶対にわしの正体を疑っとるわ。わしが頭を下げたとき、一瞬だけニヤリとしたんだて!」
「それは、あなたがそれだけ完璧に必死な男を演じられた証拠です」
万作は、冷や汗で濡れた手のひらを見つめた。
「……秀長。いつかあいつに全部バラして、わしゃただの農民だわアホンダラって笑ってやりてゃあわ」
「兄上……それは、墓場まで持って行ってください」




