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第23話「ごめんよ、朝日」
「秀長、わしはいかん男だわ。朝日は、わしが天下人になったもんで、あんな岩みたいな家康のとこへ……。朝日、泣いとったがね!」
万作は、徳川家康を上洛させるための人質として嫁いでいく朝日姫の背中を見送りながら鼻水を垂らして号泣していた。影武者として生きることになってから、ずっと自分を本当の兄のように慕ってくれた心優しい妹。
「兄上、これが天下の理です。豊臣家として生きるなら、この嘘を突き通すしかない。今は、鬼になっていただけませぬか」
秀長は沈痛な面持ちながらも、その声には一切の迷いがなかった。
「鬼になれって……わし、あんなに優しかった朝日の顔、もう真っ直ぐ見れん気がするわ! 天下なんてやっぱりいらんかったんだわ」
「……そんなこと、今さら言わないでください。もう、後には引き返せないのですから」
万作は震える手で涙を拭った。華やかな行列の裏で一人の男としての万作の心が、また一つ削り取られていった。




