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第20話「四国船酔い天下人」
「秀長……もうダメだわ。わし、このまま海の藻屑になってまうんだがね。船なんて乗るもんじゃにゃあて!」
四国へ向かう船の上。万作は、豪華な御座船の甲板で這いつくばりながら顔を土色に変えていた。波が揺れるたび、天下人の威厳も何もかもが胃の中身と一緒に逆流してくる。万作は、激しく揺れる手すりにしがみつき涙目で弟を睨んだ。
「兄上、しっかりしてください。四国の英雄、長宗我部元親が見ているんですよ。天下人が船酔いでダウンしたなんて知れたら末代までの恥です……さあ、立って、真っ直ぐ前を見て下さい」
秀長は、揺れる船上でも微動だにせず涼しい顔で万作の背筋を伸ばさせる。その瞳は、逃げ道を一切許さないほどに澄んでいた。
「真っ直ぐって言ったって……世界がグルグル回っとるんだわ! 頼むで、今すぐ船を止めてちょうよ!」
「ダメです。兄上が凛として海原を見つめている姿こそ四国を平定する最大の武器なんですから、ほら笑って」
万作は、吐き気を堪えてひきつった笑顔を作り無理やり扇子を振った。
「……カカカ! 海なんて、わしの庭みたいなもんだわ!」
その直後、万作は船室へ猛ダッシュした。四国平定の英雄は、波の音に紛れて静かに嘔吐した。




