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第27話『介入するべきか否かを考える』

「意図的に大型モンスターをおびき寄せたというのか?」


 つい俺が口を出してしまったが、間違いなくフローラも同じことを持っているはず。


「人間が、そこそこ魔の域を把握している。これは今の常識。モンスターを倒せば消滅するし、魔剣は人間にとって脅威的な存在、と」

「まあ、それぐらいなら今は子供でも知ってるからな」

「じゃあ、モンスターについての既知の領域も広がっている。そうでしょ? モンスターとの効率的な戦い方、生態、習性」

「だな。観察したり、情報を共有したり」

「その中で、モンスターを引き寄せる方法があっても不思議ではないよね」

「た、たしかに」


 言われてみたら、騎士団で活動していたときも似たようなことは意図的に起こしてきた。

 誘導する役ではなかったから当事者意識が低かったけど、間違いなく仲間の誰かが役を担っていたのを思い出す。


 しかしそれは統率の取れた騎士団だからこそできた芸当なのではないのか?

 小型や中型個体ならまだしも、大型個体にそれをやるなんて命が何個あっても……。


「それが本当だったとしたら、パーティメンバーの命を狙っていたことにならないか」

「ええ、その通りよ」

「嘘でしょ……」

「仲間を失った悲しみに付け込んで――か、手に入らないなら全てを道連れに……というところかな」

「どっちにしても酷い話だな」


 フローラに目線を向けると、膝を抱え込んで目線を下げている。

 そうだよな、信じたくないよな。

 毎日背中を託して戦ってきた仲間が、まさか自分を目的にパーティの命を犠牲にしようとしていたんだ。

『まさかそんな』と思うのも無理もないし、疑いの目を向けるのもしたくはないだろう。


 しかも数日前に顔も合わせていて、そのときの彼は平然と、いや、全てがなかったかのように振舞っていた。

 加えるなら、何食わぬ顔で「パーティに戻ってきてほしい」とまで言っていたな。


「それら全てが本当だったとして。でも、今回の件が未遂に終わっているのもたちが悪いな」

「方法としては物理的、魔法的に考えられると思うわ」

「ん?」

「そもそもモンスターは血の匂いに敏感、ということは知っているわね。でも魔法を用いた誘導もあり得る」

「え……? 人間が魔法? それとも人間じゃない可能性の話?」

「人間かそうじゃないか、はわからない。でも、そこまでモンスターのことを把握している人類が、害となる魔力や魔法について知らないはずもないでしょ?」

「言われてみたら、たしかにそうか」


 考えたこともなかった。

 この話の全てが確信のある話じゃないにしても、可能性の話であれば想像できる。

 俺、という例外は別にして、魔法を扱える人間が居たとしても不思議ではない。


「でも普通の冒険者が、魔法を反動もなく扱えるかどうかは別」

「やっぱり?」

「アレンは例外だから反動や代償が必要ないのは前提として。危険がない方が考えにくいでしょ?」

「そうだな」

「顔を合わせたときに平然としていたことから、合わせ技の可能性は大きいわね」

「なるほど。血の匂いと小規模の魔法か」

「小賢しいにもほどがあるけど、誰かの入れ知恵かもしれないから断定はできない。でも、1回成功したのなら2回目だって成功するとも言える」

「じゃあフローラがパーティを抜けたのは正しい判断だったんだな」


 細かいことは闇の中だが、フローラの判断で未然に防げたのなら悲劇は回避できたし一件落着だ。


「アレンはどうせ『危機が過ぎたから一件落着』と思ってるでしょ?」

「はい」

『え、俺の声って漏れ出てた?』

『急にこっちで話しかけないで、驚くから。違うわよ、私は幼馴染よ』

『なるほどわからん』

『主様! いつでも話しかけてください! わたくしは話が難しくてついていけません!』

『メノウはそのまま静かにしておいてくれ』


 さすがに焦った。

 俺が考えた一言一句の全てが筒抜けになっているのかと思ったぞ。


「想い人を、1日2日で忘れられると思う? そんなわけない。私はアレンが帰ってくるまでの年月、1日たりとも忘れたことはなかったわよ」

「……なんかごめん」

「フローラも、そこはわかっているでしょうし、思い当たる節もあるんじゃないかしら」

「――そうね。好意に気が付いてからの日々が、まさにそうだったもの」


 拗れた関係となってもなお、想いだけは途切れず、か。

 純情な感情で尊いものだということは理解できるが、あまりにも行き過ぎた結果になってしまったと。


「今後ともに警戒し続ける必要がある。と、セリナ的にはそう言いたいのか?」

「ええ、その通りよ。私たちがいるし、何よりアレンが居る時点で大型モンスターが10体来ても余裕で勝てるけどね」

「それ――冗談じゃないっぽいな」


 スンッと表情一つ変えないセリナを見て、俺は自分の実力の一片を知ることになった。

 ちょっとだけ気になるのが、3人で10体なのか、俺だけで10体なのか。

 この雰囲気で質問したら、頭を叩かれそうだから聞けないけど……。


「血の匂いって人間だと、正直わからないよな。大量だったり染み付いていたら話は別だけど」

「そうね。それは私もわからない」

「主様、わたくしもわかりません」

「だよなぁ」


 生臭い鉄の匂いは忘れることはない。

 しかし、鼻血や切り傷とかの少量では風に流されて感じ取れることはない。


「でも、ちょっと心当たりはあるかも。街中で会ったときは治っていたけど、当日は常に左腕を庇っていたような気がする」

「うわぁ……なんだか本当に的中していそうだな」

「どうやって魔法を扱えるようになったかは、この際気にしても仕方がない。でも、そういった人間はアレン同様に重罪」

「正体を暴き、捕まえるのが正攻法っぽいな」

「ええ。それに扱えるだけならまだしも、未遂に終わっても殺人を企てていた。もしも別の誰かを好きになったとしても、同じことを繰り返して犠牲者を生むだけ」


 フローラ的には、かつての仲間を捉えることになるから気が進まないだろう。


「フローラは、宿で休んでいるといい。その間に俺たちで全てを終わらせるから」

「――いいえ、それはダメ。これはわたしがやらなくちゃいけないこと。それに、もしも罪人受け渡しになったとき、アレンじゃ無理だと思うわよ」

「あー」

「それに、流れ的にメノウやセリナも同じじゃない?」

「王族やその他物諸々、騎士団の前なんかでも姿を明かしてしまっているわね」

「わたくしはたぶん大丈夫!」

「聖剣のメノウは、たしかにそうね。でも、大体はそうでしょ?」

「はい、その通りです」


 あっちゃー。

 別に活動を制限されているわけでじゃないけど、たしかに気まずいという事実は変わらない。

 悲しんでくれているみんなの前に、普通な顔して出ていける自信はないな。


「じゃあ決まり。何か行動するときは、わたしを仲間外れにしないでね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 俺は深々と感謝の意を込め、協力申請の意味も加えて深々と頭を下げた。

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