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未来AI HALO《はるお》君  作者: 米森充


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26/29

第26話 『HALO君の講話』

 この日一時限目からAI. HALOはるお君の特別講話が設けられた。

 教室の前に大型スクリーンを設置し、画面上にバーチャルHALOはるお講師が写し出される。

 でも本当の彼(AI. HALOはるお君)の姿は誰も知らない。だって彼、ホントは大型コンピューターなんだもの。

 そんなリアルな姿を映してもつまらないし、講話の間直ぐに飽きてしまうだろう。

 それに彼の姿も正体も、一応生徒たちにはその存在自体を秘しているし。

 そういう訳で画面上のバーチャルHALOはるお講師は謎の人として簡易アニメーションで表す事にしてある。


 スダレハゲ頭で丸rメガネ、腹巻き・ステテコ姿のマンガチックなオヤジ。ダサいオッさんとして突拍子のないキャラだが、ここではこれも良いだろう(多分)。

 いきなり大型スクリーンにそんな姿のバーチャルHALOはるお講師のドアップが写し出されると、生徒たちの誰もが腹を抱えて笑いころげた。

「おはよう、生徒諸君!ワシが今日の講師のHALOはるおです。

 後ろの席のそこの君!エェと『ハーシェル』君と言ったっけ?眠そうな顔してるね!昨日の夜も遅くまで『友里恵先生攻略作戦』を考えていたそうじゃないか?

 でもそんな無駄な対抗意識をいつまでも持ってないで、素直に従った方が良いと思うぞ。多分、今の君じゃ歯が立たないから。」

「何で昨日の僕の事を知ってるの?もしかして監視カメラ?」

「そんなもん、何処にも無いって入所時、徹底的に調査済みじゃなかったかね?

 ワシには総てお見通しなんだよ。(ワシには)千里眼の能力があるんじゃからの。」

「キャハハハ!千里眼?何言ってんの?」

「ほう、この期に及んでまだ理解できていない?君たちはこのワシと会う前から、随分たくさん不思議な体験をしてきた筈じゃろ?ん?思い当たらんか?

 この学校の先生たちは皆、未来予知ができるって。気のせいとでも思ってたんかい?そりゃまたノホホンとしてたのぉ!おめでたい生徒たちじゃ!」

「めでたくて悪かったね!」

「目の前で何度も目撃してきた事を、信じられないから信じないのは勝手だが、それじゃいつまで経っても成長できんぞ。いつまでも()()()()()()()()のままで良いんかい?」

「じゃぁ、あれは全部ホントだったって言うの?」

「それを冷静な目で検証するのが大人だろが!」

「どうやって検証するのさ?」

「それくらい自分で考えなさい。」

「チェ!教えてくんなきゃ分かんないだろ!」

「ワシは今日の講師だが、君たちに手取り足取りご親切に教えるほど優しくないんでね。まぁ、君たちのおつむじゃ、一生かかっても分からんだろが。それから言っとくが、ここの先生たち、特に友里恵先生はハードだぞ。

 ワシでさえ揚げ足を取られタジタジにされるんじゃからな!彼女は本校一番の鬼教師だから、精々弱みだの弱点だの見透かされんようにな。警告しとくぞ。」

 教室の最後尾で聞いていた友里恵先生がみるみる鬼の形相に変わり、スクリーンに向かって思い切りチョークをぶつけた。

イテッ!」(スクリーンに当たっただけなのに、ホントに痛いの?)

「ダァ〜れが鬼教師ですって?高明なHALOはるお先生!シバキますわよ!ホッホッホ!」(未だに友里恵に頭が上がらない様子のHALOはるお君だった。)


 (スゴスゴと引き下がるHALOはるお君)

「オッホン!・・・・それでは今日の本題の話に移ることにするかいの。

 生徒諸君はここに入所してもう一月以上経つが、どんな気持ちで暮らしているかいの?毎日の授業が詰まらない?三度三度の食事が不味い?たまには息抜きに遊びに繰り出したい?彼女を作ってデートしたい?でもその顔じゃ、彼女を作るのは無理かもな。」

 教室の彼方此方あちらこちらから一斉にチョークが飛んだ。

「面白くもない余談はいいから、早よ本題に入り!」とハーシェルのヤジ。

「そうか?そうじゃの。じゃぁ、本題。

 君たちは何でこの学校に入れられたと思う?」

「そりゃぁ、僕らは一流のハッカーだから?」

「そう。ここにいる君たちは皆、一流のハッカーだからだ。

 でもな、君たちは一流と言ってもやってきた事は国家犯罪じゃ。 国家の侵略に手を貸した、国家の命令で犯した実質テロじゃ。

 もちろん国からは英雄扱いじゃが、被害を受けた国からは当然、そうはみられない。

 分かるじゃろ?今となっては彼らからの正当な評価は受けられないのじゃ。努力に見合った賞賛が受けられないどころか、非難される立場だと言うこと。残念で残酷じゃが、それが現実じゃ。

 でもな、それは君たちのせいじゃない。君たちは指示・命令に従っただけ。ハッキングの技術を学び、生き延びるために強制されてやった仕事に過ぎないのじゃからな。

 だから君たちは何にも悪くない。なのにここでは人とは違う、不自由な生活に身を置くのを強いられておる。

 何で?どうしてだと思う?」

「それは・・・・」

「答えられないか?それじゃ、ワシが答えてやろう。それはな、君たちが弱い存在だからじゃ。そりゃぁ、君たちは一流のハッカーじゃ。頭は良かろう。でも自分の意思で自分の運命を切り開く前に、国家の都合で利用されざるを得なかった残念で弱い立場にいたからじゃ。

 ホントは君たち皆、自分の将来の夢があったじゃろ?普通に中学・高校を出て、大学に行って楽しいキャンバスライフを楽しみたかったじゃろ?大学を出たら医者や弁護士や役人や政治家になりたかったか?いや、ハッカーだったという事は、エンジニアや研究者の方か?理系じゃもんな。一応頭は良い方だし。

 なのに何処でどう間違ったか、親兄弟から引き離され、薄暗いアジトで厳しい特訓を受け、何の楽しみも希望もなく暮らす事を強要されてきた。

 どうだ、君らは自分が不幸だと思うか?思った事があるか?」

「分かんないや!そんな事考えた事も無いし、人と比べた事も無いし。そもそも自分が不幸かなんて発想を抱いた事も無いし。」

「そうじゃろな。ウン、そうじゃろ。そんな疑問すら持つ事を許されない環境にいたのだから。これからでも遅くはない。自分の境遇をよ〜く見つめ直すんだ。

 だが、もちろんこの世の中には、不幸な者たちで溢れている。

 自分だけが不幸だなんて事言えない程、不幸が蔓延している。

 自分は悲劇の主人公だなんて口にしたら、笑われちゃう程な。

 でもな、これだけは言えるぞ。

 君たちはせっかく国家の束縛から解放されたのに、今また国際連邦という別な組織に拘束されて今、ここに居る。

 それは君たちが再び悪の組織に捕まり利用されるのを防ぐためでもあるが、その他に君たちには事の善悪や社会の仕組みやルール、人としての気構えポリシーなどを叩き込んで立派な社会人として責任ある生き方を歩ませるためでもあるんじゃ。

 どうじゃ?胸を張って生きたいじゃろ?そのためにここで学ぶのじゃ。ホントになりたかった自分を取り戻すのじゃ!

 誰かに利用され自分を見失ったまま、悲劇や喜劇の主人公になるな!

 つまらない脇役にもなるな!分かったか?」

「でも、学ぶって言ったって、ここじゃカビの生えた昔の学問とやらの反復バッカじゃないか!こんなで学びって言える?もっと役に立つ知識の方が大事じゃない?」

「そんなのはここ(学校)を出てからいくらでも学べる。ここではここでしか学べない、人としての心得を学ぶ場だからじゃ。

 人間の本質と人類が歩んできた本当の意味での歴史を知り、それをどう捉え、どう活かすか自分で考える。良いか!自分で考えるんじゃ!

 そのために学べ!


 それでは具体的な授業に入ろう。

 君たちの国はどうして近隣諸国と争ってきたと思う?」

「そりゃぁ、隣の国が悪いからだろ?」

「違う!」

「じゃぁ、僕らの国が悪いんか?」

「それも違う!」

「じゃぁ、何で争うの?」

「それは『欲』じゃ。人間誰しも欲がある。その欲が総ての根本原因じゃ。

 欲は本能であり、その本能が生存を司っているからには争いから逃れられないのじゃ。

 誰が悪いのではない。生物としての生存の『本能』と、人間としての少しでも多く欲しいとの『欲』がそうさせるのじゃ。

 その欲が争いを生み、差別を生み、様々な不平等を産む。逆にいえば欲という本能が無ければ争いも差別も起きないという事じゃ。

 昔、『ジャン・ジャック・ルソー』という啓蒙思想家が【不平等起源論】という説を発表している。

 これは主に社会経済の視点から論じられた主張であるが、本当に社会経済だけで総てをカバーできるのだろうか?

 もっと生命の本質に迫った論理の展開が必要なのではないのか?


 例えば人間社会ではどうだろう?


 生まれつき金持ちがいて、貧乏人がいる。

 頭の良い者がいて、愚か者も居る。

 美人やハンサムがいて、醜い者も居る。(心も含めて)

 正直者がいて、嘘つきがいる。

 病気がちな者がいて、健康しか取り柄のない者がいる。

 100まで生きる者がいて、生まれてすぐに死ぬ者がいる。

 一生幸せに暮らせる者がいて、一生不幸な人生を送る者がいる。

 人に好かれる者がいて、誰からも嫌われる者がいる。

 いつも感謝ができる者がいて、いつも不満ばかり持つ者がいる。

 人に命令する者がいて、いつも従う者がいる。


 これらは生まれついての運命であったり、後から努力で勝ち取る場合もある。

 努力で勝ち取る場合は分かるが、生まれた時、既に決まっている運命は一体何処で決められたのか?生まれる前から決まっているって・・・・。

 この不平等の起源は何処にあるのか?何がどうやって決めている?

 人間社会だけでもこれらの疑問が考えられるが、他の動物植物などの生物との関係まで絡めるとどうだろう?弱肉強食は誰が決めた?

 人間は食物連鎖の頂点にいる。誰しもがそう思うじゃろ?

 君たちは普段の食生活で牛を喰うし、豚や鶏も喰う。魚も喰うし野菜も喰う。そうじゃな?それが当たり前の社会で住んできた。

 でもな、ある日突然、山で、いや場合によっては意表をつくが、人々が多く住む市街地で突然、熊と遭遇したとする。そしてその熊は、君を食べ物と認識して襲ってきたとする。すると君は翌日か翌々日には熊のウンコになっているんだ。それまで君たちは食べた牛や豚をウンコにしてきた。 何も考えずにな。でもある瞬間に立場が逆転するんだ。

 

 それは理不尽な事か?いや、違う!じゃぁ、運命?


 人間は集団だと無敵だが、個々は非常に弱い生き物だってこれで分かるだろ?運命は設定された条件により、等しく降りかかる。

 でもその運命の等しさを、集団の力で捻じ曲げてきたのが人類である。

 だがその過程で欲という歪みが出た。欲が新たな歪みを生み、不平等を作り出した。人間社会という欲が作る階級と貧富。

 個人がどれだけ努力しても乗り越えられない仕組みと鉄の壁。

 ただ・・・不平等の要素はそれだけではない。


 生まれ持っての不平等。それらの原因は何処にある?

 自分は人より頭が良いのに、貧しい家に生まれたばかりにハッカーにされてしまった。好きな事ができる自由を閉ざされている。

 他の人たちより不自由で、可能性を奪われて。そんな自分はヤッパリ不幸だとは思わないか?

 自分の不幸。平等じゃない社会の仕組み。その原因を作ったりのは誰?生まれた時には既に背負っていたとするなら、自分に責任は無いだろう?じゃぁ、誰の責任?誰が負わせた?

 


 神?仏?


 その基準は何?どんな基準や判断で決められたの?

 


 これって何だか非科学的な宗教じみた方向に論じられる危険もあるが、もっと科学的・論理的に考察できないか?


 その根拠を探り根本原理を掘り下げる場が、この学校での学びであるんじゃ。


 取り敢えず今、君たちとこの学校で探求すべきは、生まれる前から決まっていた宿命より、生まれた後に決められる運命について。

 努力で変えられるなら、どうやって変えようという考察についてじゃ。


 諸君ら生徒たちはその中の特に『欲』について考えて欲しい。

 特に【私利私欲】について。



 本校の学びの教材の中で『私利私慾を排す 渋沢 栄一』がある。

 また小説家・宮本輝の作品『海岸列車』の中に【私利私欲と戦え!】との一節。

 角川映画の中でも【私利私欲と戦え!私利私欲とそれを為さんとする者たちと戦え!】と紹介するシーンがある。


 ワシたち人類は常に【私利私欲】に負けてきた。

 相手より多く勝ち取るために争ってきた。

 相手より(食や土地などの)好条件を勝ち取りたい。

 相手に対し優越感に浸りたい。

 でも、このままでは人類そのものが、そのせいで滅亡の危機に晒されておる。つまり【私利私欲】とは人類の敵なのじゃ。

 だから戦わなければならん。しかも人間の心と行動に最も強くしがみつく最強の敵。だから君たち生徒諸君のような、純粋で能ある者たちが立ち上がり【私利私欲】に立ち向かうべきなのじゃ!

 人類はいつまでも【餓鬼】であっちゃいけん!飢えた鬼の世界にいちゃ、いけんのじゃ!絶えず飢えて欲しがって我を忘れる世界。

 人じゃなくなる世界、それが【餓鬼】の世界じゃ。多くの人々が陥る【私利私欲】=【餓鬼】の世界。それが不平等の起源じゃ!

 人類に立ち塞ぐ壁である、あらゆる不平等の起源を打ち壊し、断ち切るのは君たち生徒諸君じゃ!

 率先して立ち上がってくれぃ!

 ここでの授業はワシと無数の先生たちが知恵を持ち寄り、最良の教材を選りすぐり君たちに授けよう。


(その結果持ち寄られたのが渋沢栄一や福沢諭吉や孔子・老子、啓蒙思想家など、カビの生えた教材か!ちょっと頼りナカ!)


 ウォッホン!!

 君たち諸君はここで学び、世界に羽ばたいて欲しい。

 人類最大の敵に怯まず立ち向かうために。


 健闘を祈る。




 以上。


 御高説ありがとう。それにしても講師のHALOはるお君のオヤジキャラぶりは、意外に結構似合ってるのは何故?


  



    つづく






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