第24話『ハッカー少年ハーシェル』
世界中で暗躍したハッカー少年たち。
彼らはそれぞれの国家が遂行する犯罪に手を貸す実行犯であったが、同時に国家が最も力を入れる組織、スパイ養成所に金で買われたそれぞれの国の中央情報局の虜囚とも言えた。
その実態の多くはアメリカ、次いでロシアと中国、そしてイギリス、イスラエルと続く、訳あり・貧しい家庭出身の超天才人材の人身売買であり、実質的草刈場である。
国家間の陰謀や工作の多くは、彼らが仕掛けた罠や情報戦などの作戦によるもの。
その中で最大の成果を上げ続けてきたのはアメリカであるが、その他の国々もそのやり口に於いては大差ない狡猾さと手際の良さだった。
そんな人類を破滅に導く元凶は、過剰な『防衛本能』にある。
特に国家間の不信を増長するのは、国家間取引におけるサプライ資源分配の不公平と、信教・思想・信条の対立、人種・民族間の歴史的溝が対立を煽り、防衛本能をイタズラに高めた動物的思考が元凶そのものなのだから。
ニューフリーメーソンZ会が危機感を持って、人類滅亡に進む破滅の道からの軌道修正へと動いたのも、自らの無能と無策から機能不全に陥った『国際連合』を見切り、解散・解体させ、新規国際組織『国際連邦』の設立に動いたのも、全てそれまで有力国家のエゴで自らの利益のみを追求して旧国連を機能不全に堕ちいらせてきた独善主義の罪を問い、独立国家としての自立決定権を奪い『国際連邦』に全ての権力を委ね集中させ、全世界の国を統治するためである。
つまり『国際連邦』が人類の命運、全責任を負い、将来を担う。
戦争はおろか、小さな小競り合いも許さぬ平和主義と、理不尽・不平等、不寛容、無理解を極力排する国際社会の仕組みを構築。そして他者への憎悪や嫌悪から、お互いへの理解、敬意、助け合い、(チームワークの様な)協力への意識形成を全人類が共有する国際社会を作り上げられなければ、私たちに未来は無い。
特に戦争の芽は全て潰さなければならない。
だからニューフリーメーソンZ会が動いた。
だから戦争の芽を作り出す国家間のハッキング・スパイ工作・破壊工作を担うハッカーの活動を封じなければならないのだ。
各国に存在する国家情報防衛組織。
この回はその中でイスラエルの『モサド』所属のハッカー少年『ハーシェル』(14)が主人公。
ハーシェルの父『ダニエル』はイスラエル軍の情報将校だったが、ハーシェルがまだ4歳の時、隣国ヨルダンの過激派『ヒズボラ』との戦闘で戦死している。
その後、父『ダニエル』の血と才覚を受け継ぐハーシェルは、メキメキとその能力を開花させた。
そして8歳になると、国の眼に留まるほど驚異的な成長ぶりを見せる。無論、国家がそんな彼を見過ごし、放置する筈はない。
すぐさまハーシェルは国家に召喚され、『モサド』の管理下、集中英才教育が施される。
そして彼が11歳になる頃には正式なモサド構成員となり、その卓越したハッキング技術により数々の功績を残している。
此処で一つの疑問。
何故そこまでイスラエルには周辺諸国に敵が多いのか?
それは約90年ほど前に遡る。
当時ユダヤ人はヨーロッパ全土に散らばる、国家を持たない民族だった。彼らはそれぞれの国から異民族として疎まれ、迫害されてきた。
そして極め付けが、ドイツに独裁者ヒトラー率いるナチス政権の誕生。彼らナチスはユダヤ人撲滅を公然と叫び、ホロコーストの地獄絵図に引き摺り込んだ。そして強制収容所にて大規模な殺害を実行して、約600万人が犠牲になってしまった。
その後戦争が終わり、彼らは解放される。
その時彼らは思った。
「自分たちは祖国を持たないから、弱い立場にいたから、こんな酷い目に遭ったのだ。そうだ!遠い昔、地中海東岸にあったイスラエルの地に再び我が祖国イスラエルを再興しよう!こうして続々とその約束の地に集結した。
しかし、その地には既に異民族であるパレスチナ人が住んでいた。
やがてユダヤ人とパレスチナ人たちは互いに争い、その結果、当時の国際連合の安保理による調停を受け入れた。
単純に土地を分け合う共存という解決策を。
だがしかし、当時のユダヤ人たちは、それまでに受けていた凄惨な体験から学び、ふたつの考えを持つ様になる。
即ち、下記の有名な言葉・・・・・
イェフダ・エルカナ(歴史家)
ーホロコーストから生還した彼の、イスラエルに向けた言葉ー
アウシュビッツの灰燼からふたつの国民が生まれた。
ひとつは『二度とこのような事が起きてはならない』と主張する少数派と、もうひとつは『二度とこの様な事が自分たちに起きてはならない』と主張する多数派です。
これに集約された。
彼らはその強烈な経験から異常なまでの国防意識を持ち、アメリカやドイツ(過去のナチス政権の残虐行為の反省から、ユダヤ人に対する贖罪意識を持ち、現在に至るまでイスラエル擁護と援助を続けている)からの武器の供与を受け、中東地域に於いて随一の軍事強国となった。
反発するその他中東諸国。特に激しく反抗するパレスチナ難民たちは抵抗組織(PLO)や、ヒズボラ、ハマス、それに加えてオマーンの過激派『フーシ派』や、陰でイランが支援してイスラエルと絶望的な抗争を繰り広げてきた。
イスラエルにとってこれら周辺諸国や過激派との戦争は国家存亡の危機である。
ただ一度の敗退で、国家が滅亡してしまうのだから。
その強烈な危機感。それが彼らの周辺の不穏な動きに対する過敏な反応の全てであった。
つまり彼らが選択した結果が、『二度とこの様な事が自分たちに起きてはならない』
だった。
しかし、そんな終結の糸口のない武力抗争を、いつまでも国際連邦が放置している訳がない。
国際連邦が掲げる目標は、あくまで人類の平和共存である。
そのためには国際社会から差別を廃し、理不尽を無くし、憎悪・対立の原因を解決する。
貧富差や経済搾取、宗教の対立、国家・民族間の対立を仲裁し、問題解決を計る。そして異なる社会モラルの共通化、異なる集合体に敬意を持ち共助共援意識を持つ。人類共通のチームワークを構築し、人類誕生以降続いてきたホモサピエンス同士の対立の歴史に終止符を打つ。
その理想のため、ニューフリーメーソンZ会は立ち上がり、AI. HALO君とエージェントが奮戦してきたのである。
これまで中露の侵略の野望を打ち砕き、アメリカの尊大な野望の牙を抜き、ヨーロッパの優越感を破壊した。
そして今、中東の火種であるイスラエルと周辺の中東諸国の対立を永久に終われせるため、強制的仲裁に入った。
イスラエル人の持つ強烈なトラウマを、国連仲介による和平という未来にわたる安心と保証を与えながら、パレスチナ人たちも納得する領土分割と納得できる有利な諸条件での平和共存を提示、和解を促す。
それが国際連邦の解決策であった。
でもどうやって?
イスラエルのユダヤ人たちは建国時、『二度とこの様な事が自分たちに起きてはならない』と誓い、自衛手段と称し、独善的な侵略を続けてきた。
防衛本能と領土拡張の支配本能。
悲しいかな、彼らはその二つの動物本能に支配されている。
いや、それは決して彼らだけではない。
彼らだけが特殊な訳ではない。ただ、それが他より強く出ているだけ。過去の壮絶で悲しい記憶がそうさせているだけ。
でも、だからって許される訳でもない。踏み躙られてきた者たちの立場に立ったら・・・。
救いのない負のループ。
何処かでこの連鎖を断ち切らねば!
勇気と痛みを伴いながら。
そこにしか希望が無いのならば!
一方同時期、焦土の中から這い上がり正反対の誓いを立てた国がある。
それが日本。
『二度とこのような事が起きてはならない』
『起こしてはならない』
日本は国土のほぼ全土を無差別空襲され、二度の原爆の洗礼を受けている。これらは全て民間人を標的にしたホロコーストであった。
でもそんな体験をしてきたにも関わらず、『非戦』を憲法に掲げ、平和維持に奔走してきた。
しかもイスラエルと同じく、中露朝という核兵器で威嚇する危険極まりない周辺国に囲まれながら、である。
攻撃ではなく、防御に特化した国防意識。
核を持たすとも、核攻撃を無力化するパルス砲やレールガンを開発・配備し、領海は無敵の潜水艦が制海権を握り、無人機や高速ドローンが敵飽和攻撃を撃退する。
これら全て新開発防御兵器であり、敵の攻撃を無力化、撃退する。
弛まぬ努力による唯一無二の技術開発。
誠実と敬意を以て築き上げてきた信頼。
お人好しと揶揄されても継続した協力と援助。
日本はニューフリーメーソンZ会主導の軍事作戦には直接参加しなかったが、側面援護は惜しまなかった。
そう、そんなノウハウを持つ日本からの提案を採用、解決策とした。
友里恵と蓮たちチーム凸凹をメンバーとする先生たちはハンブルグに戻り、郊外に新設したハッカー少年たちの収容所兼、学校に着任した。
生徒たちはイスラエルの『モサド』グループ10人組、アメリカ『CIA』グループ(人数不詳)組、ロシア、中国グループ(人数不詳)イギリスMI-6グループ(人数不詳)。要するに他のグループは別エージェントたちが教育を担当するため、知らされていない。
任期は二年。ハンブルグラウンドと、東京ラウンドの合計二年。多分、かなり手を焼くのは必定だろう。
だってハーシェルたちは中々のやり手で、AI. HALO君の手を借りてようやくIQを爆上げした、元凡人出身の友里恵や蓮では太刀打ちできるのか?大いに疑問であったから。
少年たちは原則、犯罪者扱いはしない。
彼らがやった行為は実質犯罪であっても、それぞれが国家からの命令で実行した『任務』であったのだから。
だからといって彼らを無罪放免の上、放置する訳にもいかない。
何故なら彼ら少年たちは国家の命令には服従するが、事の善悪は教わっていない。例え命令に従っただけであっても、その結果、多くの人々が犠牲になっても罪の意識を持つ事は無かった。
それ故に再教育の上、今度こそ正当・真っ当な方法で国際社会に貢献する重い義務を彼らは負っている。可哀想だが、それが彼らの宿命なのだ。
収容された寮は厳重に外部から遮断され(国際犯罪組織から彼らを守るため。)、しかし人権は尊重され人格の尊厳も守られた。
要するに刑務所より厳重で、ホテルより快適、オックスフォードやケンブリッジより厳格であった。(教育担当が蓮や友里恵で?それはウソでしょ!)
再教育のカリキュラムは日本式集団行動を基本とし、知識中心の詰め込み教育などではなく、道徳・徳育を旨とした古式教本を徹底的に心と体に染み込ませる授業を推進した。
生徒同士、敬意と仲間意識、家族意識、チームワークを一番の価値観に据え、自分より仲間、他人。自分ファーストから共存共栄にシフトする意識改革を染み込ませる教育を是とした教育方針を掲げた。
でも、素直に彼らが従うのだろうか?
海千山千の多様な発想力で今まで渡り歩いてきた彼らを。
入学式の後、オリエンテーションの担当は友里恵だった。
新しい環境に適合させるべく、煮ても焼いても食えない彼ら少年たちを、ここの目的・ルール・必要な情報をまとめて説明し、早くなじんでもらうため、各々の努力と協力を呼びかけるつもりで教室内に入る。
しかし、教室のドアを開けるなり、手荒い歓迎の儀式が待っていた。(小学生か!)
モサド御用達のスパイ兵器の超小型『虫型ドローン』が友里恵めがけて飛来する。しかし、
「ペシッ!!ペシッ!!ペシッ!!」
咄嗟に手に持っていたハエ叩きで飛来する三体を、素早く、手際良く、鮮やかに撃墜。
友里恵、まず一勝。
怯まず第二波、遠隔水鉄砲攻撃。
左手に持つワンタッチ大型雨傘をパサリと開き、二勝目。
第三波、天井に浮かんで待機していた遠隔水溶ペンキ風船爆弾投下。
すると横に向け水鉄砲を防いでいた雨傘をすかさず頭上に持ち上げ、間一髪落ちてくるペンキ(黄色)から防戦、三勝。
完全勝利でドヤ顔の友里恵。可愛げなく不適切、(否!)不適な笑みを浮かべる。
唖然とするハーシェル。
「どうして・・・?」声が上擦っている。
「フッ、フッ、フッ!どうして解ったかって?私はここの担任を務める友里恵と申します。今日から千里眼の友里恵先生とお呼び!」
「ナッ!何で解ったの?」
「あなたが悪ガキ『ハーシェル』ね?なる程、いかにも悪い面構えしていること!よろしくね♪♪
今日からタップリと絞ってあ・げ・る!!
他の子たちも一緒に楽しみましょうね ♪♪♪
皆さん、今日からよ・ろ・し・く!!!」
(だから、何で?)一切の質問に答えていない、不気味で不敵な友里恵先生。
ハーシェル他九人の少年たちは、この時生まれて初めて背中に寒気を感じた。
いつから友里恵はこんな強烈キャラになったの?
友里恵は実はこの時、AI. HALO君に鍛えられた予知能力で、的中率98.7を誇る無敵の超能力を手に入れていた。
相手からマウントを取ると、更に鬼無敵な友里恵。
(そんなキャラだったっけ?)
蓮が見てなくて良かった。
でも、それにしても、先が思いやられる・・・やれやれ。
つづく




